インタビュー
『マイ・バック・ページ』山下敦弘監督

山下 敦弘 ( 映画監督 )

映画『マイ・バック・ページ』について

公式 youtubeリンク『マイ・バック・ページ』予告編

2011年5月28日(土)より、新宿ピカデリー、丸の内TOEI他全国ロードショー

劇場公開長編としては『天然コケッコー』以来約4年ぶりとなる山下敦弘監督の最新作は、評論家・川本三郎の回想録『マイ・バック・ページ-ある60年代の物語』(平凡社)の映画化という、少なからず意表を突くものとなった。1960年代末期から70年代初頭、熱のたちこめる日々を舞台に、妻夫木聡演じる新聞記者(原作者自身がモデル)が、時代の風にあおられながら、松山ケンイチ扮する活動家に翻弄される。この原作をとりあげたきっかけから、活字ものをはじめて映画化するにあたっての脚色の苦労、主演のふたりのカラーの違いについてなど、山下監督にお話を伺った。(取材:鈴木 並木

◎出会っちゃいけないふたり

山下敦弘監督5――その主演のおふたりですが、最後の妻夫木聡さんの男泣きにはぐっと来ました。あとは、妻夫木さんと松山ケンイチさんが部屋で対峙するところであるとか、力強い時間が流れていましたが、あのへんはテイクやリハーサルを入念に重ねられたのでしょうか。

山下 いちばん不安だったのは、主に新聞社のシーンなんですよね。ぼくがサラリーマン経験がないので、ああいう空気感というか、上司との関係が描けているのかが不安で、そういうところはリハーサルをやりました。ふたりが対峙するシーンについては、現場であんまり練習するもんではないな、ふたりにまかせよう、と思ったので。それ以外の、物語の情報としてやらなくてはいけないところが今回いっぱいあったので、そういうところはリハーサルしてました。

――おふたりに関しては、完全に信頼しきってらした感じでしょうか?

山下 松山くんは撮影前に別の現場に入っていて、あまり事前に打ち合わせをすることはできなかったんですけど、妻夫木くんはクランクイン前から何回かミーティングというか酒呑んだりして、いろいろ話はできました。今回、沢田の役柄が軸というかすべてを背負っていく役なんで、そういった時間を持てたのはよかったです。松山ケンイチくんは、もちろん準備はしてきてくれたんですけど、彼の演じる梅山は、綿密な役作りが必要なものというよりは、ある種の自由さが必要な役だったんで、その関係性はよかったなあというか。

――梅山は自由だし、多面的なキャラクターですよね。演じる松山さんがまた表情が豊かで、人なつっこかったり、あがた森魚さんからするっと金をせしめたり。また、ときに高圧的だったかと思うと、山内圭哉さんが演じる京大全共闘の議長の前では萎縮しきって、どきっとするような顔を見せてくれます。対して妻夫木さんの演じる沢田は、梅山に翻弄されるじゃないですけど……

山下 片思いしているような役ですよね。

――たしかにそうですね! その思いが最後の、「信じたかったのかなあ」というセリフに凝縮されているのかなという感じがします。

山下 DVされている嫁の、「けど、あの人のこと信じたいんだよなあ……」というのと一緒ですね。そりゃ殴られるよ、みたいな。結局梅山も、「正義のためには暴力は必要だ」って言ってるし、暴力が介在した関係ということではDV夫婦と同じですね。客観的に見れば「暴力はダメでしょ」ってなるんですけど、本人たちには別の論理が働いている。スケールは違えど、そういう人間関係っていつの時代もあるって気がしますよね。

――見る前は、男の物語っていうことで、バディ・ムービー的なところがあるのかなとも予想していました。

山下 結局かみあわないふたりの話なんで、いままでやってきた映画の中の友情関係とは違う感じですね。さっきのDVじゃないですけど、出会っちゃいけないふたりが出会ってしまって、からまっちゃったみたいな感じがあるというか。

◎一線を越えること

山下敦弘監督6――「乗り越える」場面が印象的な映画でもあります。ファースト・シーンは、梅山が、窓から埃の舞う大学の建物に入ってくるところですし、さらには沢田が、長塚圭史さん演じる東大全共闘議長を、官憲から逃がして柵を乗り越えさせるところであるとか。

山下 警察とか機動隊が現実にいる中で、飛び越える瞬間を見たってことで、沢田は、“自分も超えなきゃいけない”、というある種の興奮状態だったんでしょうね。物語を描く上で、あれを見てるか見てないかは大きいよなっていう話はしてましたね。

――あそこで、自分は乗り越えてはいないけれど、前後がスパッと切れて、それ以前の沢田とそれ以後の沢田は別の人間になったってことですかね。

山下 先輩記者・中平(古舘寛治)から「取材してほしいって言ってる活動家がいるんだけど」て言われたときに、沢田がちょっと身を乗り出すんですよね、「オレにもやらせてくださいよ」って。乗り越える瞬間を見てしまったことが、あれにつながるんでしょう。最前線に行きたいという興奮があるんだろうなと。

――沢田というのは、静かに興奮しているようなキャラクターですよね。

山下 沢田は本当は一線を越えられない人間だと思うんですけど、時代と、ああいう先輩の複合的な影響で、本人も気付かないまま、越えていたというか。それって誰でも起こりうるよなあっていう気はすごくするんですよね。

◎ちゃんと泣ける男の話

――最近とくに、「泣ける」「感動」といったキーワードや、あるいは分かりやすい物語性が求められる傾向が強いと思いますが、この映画はそういう風にはなってない、と見ました。そのへんについては向井さんとはなにか話はされましたか。

山下 「泣ける映画」っていう話はしなかったですけど、初期の段階から、「これは泣く男の話だね」ということは決めていました。ただしそれがジャンルとして、感動ものなのか青春ものなのかシリアスな話なのか、そういうことは全然決めてなかったですけど。

――おっしゃるとおりジャンル分けがしにくくて、宣伝も難しいのではないかと思われるのですが、監督としてはこの映画をどういうふうにカテゴライズされますか。

山下敦弘監督7山下 なんですかねえ……自分で作っといてあれですけど、やっぱり、うーん……泣く男の話なんですよねえ。最後の沢田の顔を撮ったときに、正直もう、泣く泣かないは関係ないな、と思ったんですよね。ぼくらと妻夫木くんがそのときまで2か月ぐらい、一緒に物語を作ってきた中で、そのときに出た顔が答えなんだろうなと。もちろん脚本には「泣く」って書いてあるんですけど。これはもう、ジャンルは何ですかね、これ(笑)。「ちゃんと泣ける男の話」みたいな。
ちゃんと泣くってけっこう難しいよなあとは思いますね。たとえば中国とか韓国とかの葬式のすごい泣き方を見ると、日本人ってあぁは泣けないよなぁと思うし、泣ける人って逆にうらやましい気もする。最後の沢田の顔見て、泣くのが得意な人は、「なに泣いてるの」と感じるかもしれませんが。あれで何か感じた人は、たぶんふだん、うまく泣けてないんじゃないかなと、ぼくも含めてですけどね。そういう気がしますね。

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(2011年3月29日 六本木・アスミック・エースにて 取材:鈴木 並木

マイ・バック・ページ 2011年 日本
出演:妻夫木 聡 ,松山ケンイチ,忽那汐里,石橋杏奈,韓英恵,
中村蒼,長塚圭史,山内圭哉,古館寛治,あがた森魚,三浦友和
監督:山下敦弘 脚本:向井康介 原作:川本三郎「マイ・バック・ページ」(平凡社)
音楽:ミト(from クラムボン),きだしゅんすけ 主題歌:「My Back Pages」真心ブラザーズ+奥田民生(キューンレコード)
プロデューサー:青木竹彦,根岸洋之,定井勇二 ライン・プロデューサー:大里俊博
撮影:近藤龍人 照明:藤井勇 美術:安宅紀史 録音:小川武 編集:佐藤崇 スタイリスト:伊賀大介
VFXスーパーバイザー:小田一生 特写:黒田光一
製作:映画『マイ・バック・ページ』製作委員会 企画・制作プロダクション:WOWOWFILMS,マッチポイント
制作協力:ビターズ・エンド 配給:アスミック・エース ©2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会
公式 youtubeリンク『マイ・バック・ページ』予告編

2010年5月28日(土)より、
新宿ピカデリー、丸の内TOEI他全国ロードショー

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  • 監督:トラン・アン・ユン
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2011/05/10/17:49 | トラックバック (0)
鈴木並木 ,インタビュー
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