インタビュー
『マイ・バック・ページ』山下敦弘監督

山下 敦弘 ( 映画監督 )

映画『マイ・バック・ページ』について

公式 youtubeリンク『マイ・バック・ページ』予告編

2011年5月28日(土)より、新宿ピカデリー、丸の内TOEI他全国ロードショー

劇場公開長編としては『天然コケッコー』以来約4年ぶりとなる山下敦弘監督の最新作は、評論家・川本三郎の回想録『マイ・バック・ページ-ある60年代の物語』(平凡社)の映画化という、少なからず意表を突くものとなった。1960年代末期から70年代初頭、熱のたちこめる日々を舞台に、妻夫木聡演じる新聞記者(原作者自身がモデル)が、時代の風にあおられながら、松山ケンイチ扮する活動家に翻弄される。この原作をとりあげたきっかけから、活字ものをはじめて映画化するにあたっての脚色の苦労、主演のふたりのカラーの違いについてなど、山下監督にお話を伺った。(取材:鈴木 並木

山下 敦弘(映画監督)
1976年8月29日愛知県生まれ。高校在学中より自主映画制作を始め、95年、大阪芸術大学映像学科に入学、熊切和嘉監督と出会い『鬼畜大宴会』(97)にスタッフとして参加。その後同期の向井康介、近藤龍人と共に短編映画を制作する。初の長篇『どんてん生活』(99)で、夕張国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞。長編2作目の『ばかのハコ船』(02)も各地の映画祭で絶賛され、その独特でオリジナリティにあふれた世界観が絶賛された。つげ義春原作の『リアリズムの宿』(03)、『くりいむレモン』(04)等を経て、初の35ミリ撮影による『リンダ リンダ リンダ』(05)で女子高生バンドの青春を瑞々しく描いてロングランヒットを記録する。『松ヶ根乱射事件』(06)に続き手がけた『天然コケッコー』(07)は、第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞をはじめ数々の賞に輝いた。その後も中短編ドラマ等を十数本監督、熱狂的ファンも数多く、演出のオファーが絶えない。今の日本映画界において常に最新作が待たれる若手監督の筆頭とでも言うべき存在である。

◎プロデューサーいわく「山下さん、次は男のほうがいいですよ」

山下敦弘監督2 ――原作は川本三郎さんの回想録で、これを映画化する発想のユニークさにまず興味を惹かれました。最初、根岸洋之プロデューサーから話があったそうですが、根岸プロデューサーとしてはどういった完成形を予想/期待していたのでしょうか?

山下 根岸さんとは『リンダ リンダ リンダ』(2005年)とか『天然コケッコー』(2007年)とかでも一緒にやってるんですけど、特殊な人、超感覚派の人なんです。急に原作本を渡されて、「山下さん、次は男のほうがいいですよ」と。それと、「山下さん、社会派向いてますよ」と言われて。「なに言ってんだろうなこの人は」と思ったんですけど(笑)。そこはまあ話半分で聞きつつ、ぼくと脚本の向井康介が題材に興味を持ったのが最初だったんですけど。根岸さんは、『リンダ リンダ リンダ』の企画をぼくに振ってきたときも、「『リアリズムの宿』(2003年)を見て、山下さんには音楽的センスがあると思った」みたいなことを言ってて(笑)。最初それ言われても、「はあ」って言うしかなくて。正直『リンダ リンダ リンダ』のときも、なんでオレがこの企画なんだろう、って思いながら、迷いながら作ったんですけど、結果的にあれがいちばん代表作になってしまったっていうのもあるし、根岸プロデューサーの勘というか、直感めいたところも無視できないなとは思っています。

――非常にネタが豊富な原作ですが、これを2時間20分のフィクションとして再構成するにあたって、どういった切り詰めとふくらましの作業をおこなったのでしょうか。

山下 原作を読んで、深く考えずに、映画にしようか、と向井とふたりで考えたんですけど、ぼく、いままでマンガはあるんですけど、活字を映画化するのは初めてなんですよね。向井は活字の原作ものを映画化したこともあったので、向井と一緒だったらなにか方法論が見つかるかなと思ったんですけど、難しくって。やっていくうちにだんだん、なんでこれを映画にしようとしているのかな、と考えたときに、やっぱり赤衛軍事件が中心になってくるんだな、と気付いて、原作にはそんなに出てこないKと赤衛軍(映画では梅山と赤邦軍)がふくらんでいきました。それからは、当時のカルチャーだったりといったものが脚本からどんどんなくなっていって、最終的にはいまの形になったというか、はい。

――原作には当時のカルチャーの話題が多いですよね。ジョン・コルトレーンの「葬式」としてレコードを埋めに行ったり、中津川のフォーク・ジャンボリーではっぴいえんどを見たりといった魅力的なエピソードや、のちの鈴木いづみさんについての言及があります。そのあたりを映像化することは考えておられましたか?

山下敦弘監督3山下 鈴木いづみさんを荻窪の喫茶店で待ってて、会わないで帰ったほうがいいんじゃないかと思って帰るところとか、ああいうところいいよね、って向井と言ってたんですけど、本人は結局現れないし、鈴木いづみっていまどれくらいの人が知ってんだろうって話になって。そういう、川本さんの視点がこの映画にはハマらないだろう、っていうのは早い段階から気付いていました。それこそ中津川のフォーク・ジャンボリーの帰り際に、遠くのほうのはっぴいえんどの演奏を聴いているのも、いいよなあ、映画にできるよなあって思ってたんですけど。今回、そういうシーンを撮ったとしても、編集の段階で入らなかっただろうなというのはどこかの時点で分かっていましたね。

――時代の「色」が重要な物語だと思うんですが、時事的なことを通してというよりは、俳優の顔であるとか美術であるとかを通して、もっと大きくそれをつかまえていると感じました。具体的なものを使わずに時代を表現する上で気をつけたことがあれば教えてください。

山下 キーワードとしての固有名詞は、分かる人にはダイレクトに伝わるんですけど、分からない人はおいてきぼりをくらうっていうのがあって。そういうのを排除してくと、時代の空気感って衣装だったり、役者の顔だったりに頼ってくしかないんですけど、編集段階で歌謡曲を使ったんですよね。ピンキーとキラーズと、♪彼の車に乗って~っていう平山みきの「真夏の出来事」。そのときに時代の空気が急にふっと出てきて、歌謡曲ってすごいなと。ぼくらの青春時代、1980~90年代にももちろんそういうのはあるんですけど、昭和の、1960~70年代の曲の持つ力って、今の比にならないくらいインパクトがあって、時代の空気を出す上ですごく強力な武器になったなと思っています。撮影中にはぜんぜん考えなかったんですけど。

――劇中で映画を見るシーンが何度かあります。原作にはない、川島雄三監督の『洲崎パラダイス 赤信号』(1956年)の登場が個人的には嬉しかったです。

山下 川本さんが東京の風景がすごく好きな方なんで、昔の東京が出てくるような映画を見るシーンがあるといいなっていう話をしていました。ぼく実はあんまり古い日本映画見たことなくて、どういうのがいいですかねってプロデューサーに聞いて、教えてもらった何本の中に『洲崎パラダイス 赤信号』があって、見てみたらすごくおもしろかったので、じゃあこれにしましょう、ということで選ばせてもらいました。
山下敦弘監督4川本さん自身をモデルにした主人公の沢田が、最終的には映画ライターになるのを描いているので、何箇所か、「沢田と映画」というシーンは入れようと思っていました。当時、60年代とか70年代とか全共闘世代の人たちって、けっこう高倉健の映画とかを見てるっていうのは聞いてたので、そういう任侠ものとかもいいのかなって思ったんですけど、のちの川本さんのことを考えると、意外とこういう、当時としても古典の映画を見ているほうがいいなあと思って、はい。

――川本さんとは事前にお話されて、いろいろと刺激を受けられたとのことですが、この映画に対してはどんな感想をおっしゃられていましたか。

山下 「ありがとう」と言ってもらって、ほっとしましたね。でもそこで思ったのは、ぼくは原作があった上で映画として撮りましたけど、川本さんにとってはやっぱり自分の歴史なので、事件に対しての重みがぜんぜん違うんだなと。正直に言うと、温度差はすごく感じて。だけど作っているときには、川本さんに見てほしいなとどこかで思って作っていました。川本さん、見たあとはすごく泣かれてたんですよね。泣いた上で、「ありがとう」と。その泣いているのもやっぱりこの映画のクライマックスと一緒で、たまっていた涙があふれてくるような。そういう意味で、ああいうラストでよかったんだな、と思ってるんですけど。

――監督ご自身は、たとえばご自分が沢田の立場だったときにどうするかとかは考えましたか。

山下 川本さんは運が悪い人というか、本当に腕章を預かって焼いちゃっただけ、みたいなところがあるというか。川本さんとKは、CCRを一緒に歌った瞬間は握手をしたかもしれないけれど、意外と距離感があるんじゃないかと思いました。というのは、映画を作る前に川本さんに会ったときに、「どっちに会いたいかって言われたら、京大全共闘の滝田修(映画では前園)よりもKにだったら会いたい。彼は彼で苦労したと思うから」とおっしゃってて。そっか、そういう心境なんだ、と。近いところにいて、ひどい目にあったひとだったら、たぶんもう会いたくないと思うんですけど、40年以上たった今そういう心境ってことは、当時はジャーナリストと取材対象としての距離感がちゃんとあったんでしょうね。今回は映画にするうえでふたりをもっと近づけちゃったし、整理して、流れを作って見せてますが。

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マイ・バック・ページ 2011年 日本
出演:妻夫木 聡 ,松山ケンイチ,忽那汐里,石橋杏奈,韓英恵,
中村蒼,長塚圭史,山内圭哉,古館寛治,あがた森魚,三浦友和
監督:山下敦弘 脚本:向井康介 原作:川本三郎「マイ・バック・ページ」(平凡社)
音楽:ミト(from クラムボン),きだしゅんすけ 主題歌:「My Back Pages」真心ブラザーズ+奥田民生(キューンレコード)
プロデューサー:青木竹彦,根岸洋之,定井勇二 ライン・プロデューサー:大里俊博
撮影:近藤龍人 照明:藤井勇 美術:安宅紀史 録音:小川武 編集:佐藤崇 スタイリスト:伊賀大介
VFXスーパーバイザー:小田一生 特写:黒田光一
製作:映画『マイ・バック・ページ』製作委員会 企画・制作プロダクション:WOWOWFILMS,マッチポイント
制作協力:ビターズ・エンド 配給:アスミック・エース ©2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会
公式 youtubeリンク『マイ・バック・ページ』予告編

2010年5月28日(土)より、
新宿ピカデリー、丸の内TOEI他全国ロードショー

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2011/05/10/17:47 | トラックバック (2)
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