大阪ハムレット
主演の松坂慶子さん、光石富士朗監督、原作者の森下裕美さん
へのインタビューも収録!
2009年1月17日(土)より
シネスイッチ銀座、シネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー
幸せってごっつシンプルでナイスやで!
ベでっかい悩みを抱えつつも、笑顔を失わない個性豊かな三兄弟と、そんな息子たちを温かく包み込む肝っ玉母さん。そして、なぜかそこに同居する、死んだお父ちゃんの弟と名乗る叔父さんが織り成す、笑いあり、涙あり、感動ありのエネルギッシュな人間賛歌『大阪ハムレット』。人生いろいろあるけど、生きとったら、それでええやん!不幸や不運は笑顔でふきとばし、ありのままの日常を受け入れて生きていく登場人物たちの姿に、元気付けられること間違いなし!大切なのは、お互いを思いやり、認め合うこと。観終わったときには、生きることにめっちゃ前向きになれる、パワフルで心温まる珠玉の作品が誕生した!
実力派キャストが描き出す、不器用でも生きることに一生懸命な人々の、心温まる人間模様。
何があってもでーんと構え、いつも笑顔を絶やさない愛すべきおかんを演じるのは、日本を代表する女優・松坂慶子。本作では、スクリーンを輝かせる太陽のような明るさと、コミカルな魅力が全開だ。一方、ひょうひょうとした叔父さん役には、岸部一徳。最後まで、本当は何者なのか観客を悩ます独特の存在感が評価され、第21回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門の特別賞を受賞した。そのユーモラスな持ち味が、映画にほのぼのした空気感をもたらしている。カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した『死の棘』をはじめ、何度も競演を果たしてきた二人の息のあったやり取りは必見。
そして、それぞれが役にぴたりとハマった子供たちのキャスティングにも大注目! 中3なのに20歳過ぎの風格を漂わせ、大学生と恋に落ちる老けた長男役には、『ごめん』で一躍映画界の注目を浴びた久野雅弘。ヤンキーながら、真剣に「ハムレット」を読み始める、悩める次男役に、『酒井家のしあわせ』でも主演を務めた実力派、森田直幸。そして、女の子になりたいキュートな三男役に、これが映画初出演となる大塚智哉が抜擢され、感受性豊かで芯が強い、おかっぱ頭の男の子を繊細に演じている。さらに、本上まなみ、加藤夏希、間寛平など、豪華キャストが味のある演技を披露。人情味あふれるドラマを盛り上げる。
森下裕美の傑作コミック「大阪ハムレット」待望の映画化!
原作は、第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞と、第11回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した傑作コミック「大阪ハムレット」。「少年アシベ」「ここだけのふたり!」「ウチの場合は」(毎日新聞夕刊連載中)など、数々の人気4コママンガを手がけてきた森下裕美が新境地を開いたストーリー漫画が、待望の映画化を果たした。監督は、『おぎゃあ。』で高い評価を獲得した光石富士朗。三兄弟の喜怒哀楽を生き生きと描写し、新たな傑作を生み出した。そして、日本はもちろん、アジアでも絶大な人気を誇る歌姫・倉木麻衣の「会いたくて...」がエンディングテーマとして作品を彩り、澄んだ歌声が爽やかな余韻を残す。
大阪の下町で暮らす久保家。3人の息子を抱え、一家の大黒柱となっているのは、働き者のお母ちゃん、房子(松坂慶子)だ。お父ちゃん(間寛平)が突然亡くなり、四十九日も済まないうちに、お父ちゃんの弟と名乗る叔父さん(岸部一徳)が転がり込んでくる…が、なぜかすんなりと受け入れる天真爛漫でのんきな房子。こうして5人の奇妙な家族生活が始まる。
中3なのに見た目は大学生みたいに老けている長男・政司(久野雅弘)は、道で偶然出会った大学生、由加(加藤夏希)が、側溝に落ちそうになるのを救ったことをきっかけに、恋人同士に。年齢を隠して、デートを重ねていく。「私のお父ちゃんになってもらいたい」と言われて戸惑うも、愛する彼女の思いを優しく受け止める政司。
一方、やんちゃな中1の次男・行雄(森田直幸)は、学校で担任教師から、「久保くんはハムレットやなぁ」と言われ、その理由を知るため、辞書を片手にシェイクスピアの「ハムレット」を読み始める。そして、「ハムレットのお父ちゃんの弟が、兄ちゃん殺してお母ちゃんたらし込んで王様になった」と知った行雄は、「ワシの家もハムレットのとこと一緒や言うんかい」と、怒り心頭。だが、ふと自分の顔がまったくお父ちゃんに似ていないことに気づき、自分は果たして誰の子かと疑問に思う。さらに、お母ちゃんが誰かの子を妊娠していると知り、悩みは深まるばかり……。
三男の宏基(大塚智哉)は小学校で「女の子になりたい」と言い、クラスメイトにからかわれてしまう。傷心を慰めてくれたのは、お母ちゃんの妹で、病気で入院中のあき(本上まなみ)だったが、あきはほどなくして、この世を去ってしまう。学芸会の演目が、「シンデレラ」に決まり、宏基は周りに推薦され、シンデレラを演じることに。あきの服をお母ちゃんに仕立て直してもらって衣裳にすることにし、張り切る宏基だが、周りに冷やかされ心が折れそうに……。
さて、宏基の発表会の日がやってきた。久保家の5人は揃って家を出る。不器用でも、生きることに一生懸命な三兄弟は、それぞれの悩みをふっとばし、前向きな一歩を踏み出していくことができるのだろうか?
松坂慶子さんインタビュー | 光石富士朗監督インタビュー | 原作者・森下裕美さんインタビュー
松坂慶子さんインタビュー
――まずは出演のきっかけをお聞かせください。
松坂 脚本を読ませていただいて、バイタリティーに溢れた人間賛歌のお話が素敵だなと感じ、ぜひ出させていただきたいと思いました。『大阪ハムレット』というタイトルも、上手いつけ方をなさるなって(笑)。すごく惹かれました。
――大阪が舞台ですが、空気感はどのように摑まれたんですか?
松坂 外側から見る大阪ではなくて、自分が内側に入ってその土地の人を演じるということで、役作りのために大阪に行ったんです。街を歩いていたら、大阪の良さがいろいろ見えてきました。人情があって、いろんなことを笑い飛ばしながら、前へ前へと進んでいく。人生を楽しんでいる感じが素敵だなって。それに、食べ物もおいしくて(笑)。やっぱり魅力的なところだなと思いました。
――光石監督の印象は?
松坂 監督の作品に対する打ち込み方や、掘り下げ方など、熱い思いを感じました。とても情熱を持って、丹念に撮られていて、素敵な現場でした。ですから、私もぜひいい作品にしたいなと思って撮影していたんです。
――三人の男の子のお母さん役はいかがでしたか?
松坂 今回はお腹が大きい役というのが楽しかったですね。妊婦姿で、本当に肝っ玉母ちゃんという気分になりますよね(笑)。子供たちはみんな良い子たちで。長男役の久野くんは、複雑な恋愛をするキャラクターですが、現場でも一生懸命で一途な感じがかわいかったですね。次男役の森田くんは、ヤンキーの役を楽しんでいる感じがだんだんにじみ出てきていました。三男を演じた大塚くんはすごくなついてくれて、撮影が終わっても離れがたかったです。みんな最初の顔合わせの時に比べると、クランクアップ時には、いろんなことを乗り越えてきたたくましさが感じられて、充実した表情をしているなって思いました。
――岸部さんとの共演はいかがでしたか?
松坂 岸部さんは飄々としていらっしゃるけれど、静かな情熱があって、誠実な俳優さんだなといつも思うんです。何度もご一緒させていただいているんですが、これまでは、『死の棘』といい、『犬神家の一族』といい、岸部さんの役が私の役を怖がっている設定が多くって(笑)。でも、今回(の孝則役)は初めて、岸部さんが心から笑ってらっしゃる顔を見ることができました(笑)。本当に良い笑顔で、それを拝見できたことがとても嬉しかったです。『死の棘』の小栗康平監督が、この映画の私たちを観たら、なんておっしゃるのかしらって、撮影中も岸部さんと二人で話していたんです。できることなら、『大阪ハムレット』と二本立てで上映して欲しい、なんて冗談を言いながら(笑)。
――岸部さんとのシーンで印象に残っているものは?
松坂 『おっちゃん、サンドウィッチダンス踊りましょ』っていう場面は好きですね(笑)。あと、三男の学芸会の日の、家の表のロケが楽しかったです。おっちゃんが、重箱もって、水筒さげちゃって(笑)。岸部さんの楽しそうで生き生きとした姿がとても印象に残っています。あと、ぬかみそを『年代もんやな』なんて言いながらかきまぜるシーンとか(笑)。かわいかったですね、いじらしいというか。
――本作で描かれる家族をどう思われますか?
松坂 いいですよね。お母ちゃんが、赤唐辛子が安売りしてたからってカレーに入れすぎてしまっても、子供は『ピーマンと間違えたんやろな?』って言う(笑)。子供が親の姿を見て学んだり、かばったりしながら成長していく。子供が親を理解している、いい家族だなって思いました。人間関係が他人行儀ではなくて、ぴたっと密着している感じがすごく温かくて好きでしたね。あと、ちょっと昭和の懐かしい雰囲気もありましたよね。広くもない家で、男の子三人と、夫の弟とおかあちゃんが走り回っているみたいな(笑)。人間の体温とか息遣いが、わずらわしいぐらい近くに感じられるのもいいなって思いました。
――映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
松坂 映画が完成して初めて試写室で観たときは、子供たちがいっぱい来ていたんです。ずいぶんなごやかな試写で、こういうのも珍しいなと思ったんですが(笑)、映画はとっても感動して、ジーンとしました。光石監督の人間的な温かさが投影された味のある映画だと思います。私も大好きな作品なので、みなさんにも楽しんでいただけたら幸いです。
1952年生まれ、東京都出身。高校時代にスカウトされ、70年にデビュー。その後、テレビドラマ、映画等に次々と出演し、日本を代表する女優としての地位を確立する。79年に主演したテレビドラマ「水中花」(TBS)では、テーマソング「愛の水中花」を歌い大ヒットを記録。歌手としてもブレイクした。
主な映画出演作に、『男はつらいよ 浪速の恋の寅次郎』(81・山田洋次監督)、『青春の門』(81・蔵原惟繕・深作欣二監督)、『蒲田行進曲』(82・深作欣二監督)、『火宅の人』(86・深作欣二監督)、『キネマの天地』(86・山田洋次監督)、『カタクリ家の幸福』(02・三池崇史監督)、『四日間の奇蹟』(05・佐々部清監督)、『るにん』(06・奥田瑛二監督)、『犬神家の一族』(06・市川崑監督)ほか多数。81年、82年に日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を連続受賞したほか、90年、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した『死の棘』(小栗康平監督)では日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン主演女優賞ほか各賞を総ナメに。08年はNHK大河ドラマ「篤姫」で幾島役を好演し、その存在感を示した。
松坂慶子さんインタビュー | 光石富士朗監督インタビュー | 原作者・森下裕美さんインタビュー
光石富士朗監督インタビュー
――「大阪ハムレット」を映画化する上で心がけたことをお聞かせください。
光石監督 原作の主要な登場人物の画は、特徴をデフォルメして描かれていました。ですから読者は漫画の読みやすさから、かまえることなしに物語に入り込める。ところが内容は、人間の機微や小さな悩みが丁寧に描かれてますから、読んでいくうちに、リアルな何か、小さな大事なことが、じわじわと内面に浸透していくんです。だから読んだ後に、『いいものを読んだ』、『良い漫画体験をした』という感じを受けるのだと思いました。でも映画となると生身の人間が演じるわけですから、漫画のように外見をデフォルメするわけにはいかず、お客さんにはリアルから入ってもらうしかないんですね。アプローチの決定的な違いがあるんです。僕は役者さんの外見を変えられませんから、役者が今までどう生きてきたかとか、仕事に対する姿勢とか、今どういう状況でいるのかということを把握して、役者の持ち味をキャラクターに活かして映画を撮っていくしかない。撮影中は日々、それを探り、確かめながら作っていきました。
――松坂さん、岸部さんとのお仕事はいかがでしたか?
光石監督 お二人と仕事ができたことは、大変名誉なことだと思いました。松坂さんの主演作は学生の頃から拝見していましたし、岸部さんも同じく、錚々たる映画で拝見してきましたから、初めてお会いしたときはやはり緊張しましたね。でも、僕も脚本づくりの過程などで誰よりも悩んだんだから大丈夫だと言い聞かせつつ(笑)、撮影に挑みました。松坂さんや岸部さんには、大阪にいるそこらへんのおっちゃん、おばちゃんになってくださいとお伝えしました。現場でなんでもない街の風景に馴染んでいるお二人を見て、積み重ねてきたことの力を感じました。日本映画は伝統的に庶民の話しが多く、お二人はそういったことを受け継がれてきたし、僕もまた受け継いで行くのだなと思いました。
――子供たちのキャスティングについてお聞かせください。
光石監督 3人とも関西のネイティブな子達をキャスティングすることは最初から決めていて、2ヶ月ぐらいかけてオーディションをしました。政司役の久野くんは、童顔なのがいいなと。実際は飄々とした現代っ子というか、繊細な若者で、おっさん的な要素はありません(笑)。アイデアマンで現場でいろいろ案を出してくれました。行雄役の森田くんも地は真逆で、育ちのいい子でした。最初に会ったときに、ちょっと違うかなと思ったんですが、何日か考えて、役者としての力は確かなものがあるから、その演技力に賭けてみようと。実際、撮影が始まったら行雄になっていましたから、さすが役者だなと思いました。でも、ヤンキー座りは辛かったみたいで、「カット」がかかった途端すぐ立ち上がって、股間が『痛い』って、いつも言ってました(笑)。宏基役の大塚くんは、最初に面接したときに、素の状態で宏基の資質を十分兼ね備えた子だなと思ったんです。ですから、素の強さで選びました。
――大阪についての印象は?
光石監督 大阪は何度も行っていますけど、楽しいですよね。こっちも気取らなくてすみますし。岸和田のだんじり祭りも好きな祭りの一つです。そのときに感じた空気感を表現しようともしましたが、この映画における家族感とか、空気感の一番の根っこにあるのは、僕の幼い頃の記憶だと思います。僕は大阪出身ではないんですが、こういう人情みたいなものは子供の頃、身近にありました。あと、子供って自分だけの特別な場所ってあるじゃないですか。僕は路地が大好きだったんですが、そういう記憶が、この映画の空気感のベースになっている気がします。
――久保家のような家族をどう思われますか?
光石監督 僕自身が独り身だからかもしれませんが、ああいう家族関係に対する渇望は間違いなくあると思います。あんなふうにお互い気を遣ったり、遣わなかったり、自然にいられる家族は理想ですね。誰が誰の子かとか気にせず、あるがままで幸せでいられる、生きていることに一生懸命という家庭は憧れます(笑)。
――最後に映画をご覧になる方に一言お願いします。
光石監督 立川談志師匠が、落語っていうのは赤穂浪士の四十七士以外を語るものなのだと言っていて、僕はその言葉が好きなんです。英雄になれなかった人のほうが圧倒的に多いんですよね。僕は映画でも、庶民とか、どこにでもいそうな人たちを扱った作品が好きなんです。『男はつらいよ』シリーズとか森崎東作品とか大好きですしね。そういう映画を撮っているときはすごく幸せです。そんな世界を描くチャンスを今回『大阪ハムレット』でいただけて嬉しかったです。人って小さな悩みをいっぱい抱えて大きな悩みにしちゃったり、絶えず困難にぶつかったりしてるのですが、たまに小さな喜びや幸せが来る…。生きていくということは、そういったことの連続なんだと思います。そんなことを表現したいと思いながら、『大阪ハムレット』を撮っていました。
1963年生まれ。東京都出身。大学卒業後、フリーの助監督として廣木隆一、神代辰己作品等に参加し、プロの現場で活動を始める。02年、映画『おぎゃあ。』で予期せぬ妊娠をした少女が母になる過程を爽やかに描き出し、「遊び心があり、革新的でエネルギーに満ち、現実とファンタジーの融合に成功した希有な作品」と評価され、ハワイ国際映画祭にて、ネットパック特別賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。その他の主な監督作品に、『富江repley』(00)、『まっすぐいこうぜ!』(04)などがある。脚本家としても活躍中で、シナリオ「さなぎ寝たまま」が『サンダンス・NHK国際映像作家賞2008』セミファイナリストとしてノミネートされている。
松坂慶子さんインタビュー | 光石富士朗監督インタビュー | 原作者・森下裕美さんインタビュー
原作者・森下裕美さんインタビュー
――「大阪ハムレット」映画化のオファーを受けたときの印象は?
森下 ドラマに仕立てやすい漫画だと思っていましたが、アクの強い人がいっぱい出てきますから、まず配役はどうなるのかなって・・・。お母さん役が松坂慶子さんになると最初にそうお聞きしたときは、キレイすぎるんじゃないかなって思ったんです。でも、原作ではあんまり何も考えていない楽天的なだけの母親が、映画ではいつも明るくそこに居るだけで存在感のあるキャラクターになっていました。松坂さんだからこそ表現できたと思うのですが、悩みとか不幸とかも飲み込んでしまう母性をすごく感じられるキャラクターになっていたと思います。それに身近にもああいう感じの人っているなって。すごく美人で性格もいいのに、どうしても男運だけ悪いヒト(笑)。
――岸部さんや子供たちに関しては?
森下 岸部一徳さんも漫画に比べて、ちょっとハンサムすぎます。でも善人か悪人か分からない、摑みどころのない感じが岸部さんのキャラクターにピッタリですね。人間誰でも両面持っていると思うんですが、ある瞬間にどちらかの面がぱっと出てくることがある。だから、家族同士も探りあいながら生きているみたいな部分はありますよね。子供たちについては、関西出身の役者さんが演じていることもあってか、みんなすごく自然でよかったです。あと、間寛平さんの幽霊も面白くてこわい味のある存在ですね。セリフは、原作と同じところがいくつもあったんですが、役者の方が表現されると全然違うものに感じられて、自分でもホロッときたりするシーンも多かったです。お母さんと子供たちの何気ない会話とか、海辺でのおばあちゃんのセリフとか。
――漫画「大阪ハムレット」は森下さんにとってどういう作品なんでしょうか?
森下 40歳を過ぎて、作家として活動できる期間は短く、限られているのに、目標もなく仕事をしている自分に気付いて。それではいけないんじゃないかと思い、自分しかできない作品を描きたいと思いました。
――そういう意味では転機となった作品なんですね。
森下 それまでは楽しんでもらうための漫画だけを描いていたんですが、この作品は、登場人物の気持ちにシンクロして、自分の気持ちを掘り下げていきながら描いたんです。そうすることで、『あのとき、そうだったんだ』と再認識するようなところもありました。誰にでも起こりうる経験や一般的な感情も描いていると思うので、共感してもらえるといいなっていう思いはあります。
――「大阪」と「ハムレット」を合体させて、「大阪ハムレット」というタイトルを思いついたきっかけは?
森下 日本人って“シェイクスピア”好きじゃないですか。もし「ハムレット」を関西弁でやったら台無しだろうなという思いが頭にあったんです。関西人て悩みながらも、必ずツッコミを入れないと気がすまないでしょう(笑)。悲劇的なものをやっても最後には喜劇になってしまうんじゃないかと。でも、それが困難を乗り越えるということ、そうしてこそ乗り越えられるんじゃないかと思うんです。それが関西人のポジティブな所のすばらしさですね。結局、このお話に出てくる登場人物って、どうしようもない人間ばっかりなんですよ。でも、家族なり、周囲の人なりに、ありのままの自分を認めてほしい、受け入れてほしいという思いがある。でも幸せになるための努力はしているんです。たとえ不器用でも。
――今回の映画化は、森下さんにとってどういう経験になりましたか?
「漫画はまったく一人で描きますから、出版社の方に渡すまでは自分だけの作業なんです。でも映画って、ものすごくたくさんの人が長時間関わって、話し合い、協力しないとできないもので、まさに結晶みたいなものだなって。共同作業ができる人は、本当にすごい。私なら想像しただけでムリですね。1962年生まれ、奈良県出身。1982年、「ガロ」掲載の「少年」でデビュー。主な著作に「JUN」「荒野のペンギン」「23のさかな」「ひまわり武芸帖」「夜、海へ還るバス」などがある。88年から94年まで「週刊ヤングジャンプ」に連載された「少年アシベ」は、テレビアニメ化もされた。92年、「ここだけのふたり!」で日本漫画家協会賞優秀賞受賞。「漫画アクション」誌上でシリーズ連載されている「大阪ハムレット」では、第10回文化庁メディア芸術祭優秀賞と第11回手塚治虫文化賞短編賞を獲得した。様々な絵柄と技法を駆使し、4コママンガからストーリーマンガまで、幅広い表現方法を展開。共感を呼ぶ人物描写で、数多くのファンを獲得している。02年より毎日新聞にて「ウチの場合は」を連載中。
原作について――大阪のとある下町を舞台にしたオムニバス短編集。第10回文化庁メディア芸術祭優秀賞および第11回手塚治虫文化賞短編賞受賞作。05年から06年にかけて、「漫画アクション」(双葉社)でシリーズ連載され、単行本は第2巻まで発刊されている。08年より新シリーズが連載開始されており、第3巻が09年春刊行予定。個性豊かな登場人物それぞれが、自分の人生のしんどさを受け入れ、一生懸命に克服しようとする。その姿に笑い、泣き、励まされる、喜怒哀楽てんこ盛りの森下流人生劇場。
出演:松坂慶子 岸部一徳 森田直幸 久野雅弘 大塚智哉 加藤夏希 白川和子 本上まなみ 間寛平
原作:森下裕美「大阪ハムレット」(双葉社刊/「漫画アクション」連載作品)
監督:光石富士朗(「おぎゃあ。」)
主題歌:倉木麻衣「会いたくて...」(NORTHERN MUSIC)
支援:文化庁
2008年/日本/35mm/カラー/アメリカンビスタ/DTS STEREO/107分
(C)2008「大阪ハムレット」製作委員会
配給:アートポート
http://www.osaka-hamlet.jp
2009年1月17日(土)より
シネスイッチ銀座、シネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー
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