インタビュー
ライフ・イズ・デッド/菱沼康介監督

菱沼康介 (監督・脚本)

映画「ライフ・イズ・デッド」について

2012年2月11日(土)から、シネマート六本木にて、レイトショー上映
公開初日 2月11日(土)に、出演者舞台挨拶開催。
2月13日(月)に、菱沼康介監督、原作の古泉智浩さんによるトークショー
2月17日(金)に、音楽担当のアイシッツ、菱沼康介監督、特別ゲストによるミュージック&トークショーを開催。詳細は公式サイトにて。

ゾンビ漫画の金字塔とも言われる古泉智浩著のカルトコミック『ライフ・イズ・デッド』が実写映画化され、2月11日より公開される。今回のインタビューは、第一回の試写で鑑賞した後、そのゾンビ愛あふれる内容に感激し、試写会場で挨拶していた監督の菱沼康介氏に、その場で申し込んだ。
菱沼氏からの「映画館で映画を観たあと、友人同士で、喫茶店にでも入った感じで行いましょう」という提案を受けて、数日後に、新宿バルト9のロビーで待ち合わせをし、10Fの喫茶店にて、行った。 (取材:わたなべりんたろう

菱沼康介 74年、東京都台東区出身。東京工芸大(93年)卒、日本映画学校(96年)卒。
映画家と称し、映画、TV、PV等の監督、プロデュース、企画、脚本などに携わる。学生時代から、監督、プロデューサーとして自主制作作品を発表。脚本家の三村渉氏、演出家の村本天志氏に師事し、映画の他に、TV、ミュージック・クリップ、CM、演劇など、さまざまなフィールドで活躍している。映画でも、『つづく』(PFF2002グランプリを受賞)で、ドキュメントタッチなスタイルで家族のささやかな邂逅を描き、商業デビュー作『はじめての家出』では女子中学生の家出をファンタジーとして描き、『くノ一忍法帖 影ノ月』では忍者同士の命懸けの策謀合戦をイメージ豊かに表出、人気シリーズを現代に蘇らせ、今回は異色ゾンビ映画を手がけるなど、多彩な作風を持つ。

菱沼康介――『ライフ・イズ・デッド』の原作の漫画との出会いは?

菱沼康介(以下、菱沼) 原作者の古泉智浩さんの作品が好きで、ほとんど持っていたので、『ライフ・イズ・デッド』も発売して、すぐ購入しました。いつもの作風に加えて、強烈な風刺がある上、ゾンビ映画だけでなく、アメリカ映画、特にホラー映画の要素が込められていて、これ面白いと、周りに勧めてましたね。僕、映画家を名乗っているんですが、実は、それは漫画家への憧れからで、漫画の蔵書だけで1万冊ほどあって、友人たちにオススメ漫画を定期的に紹介しているんです。
ただ、すぐ映画化しようという感じに考えてはいませんでしたね。なにしろ、古泉さんの世界観は独特なので。

――映画化の企画はどのようにして始まったんですか?

菱沼 2009年の冬です。ある会社の企画会議に企画書を提出したんです。周りは「えー、ゾンビ映画?」って反応でしたね。そしたら、同席していたプロデューサーの方が、原作者の古泉さんと古い友人だというので、さっそく会ってみようということになったんです。で、古泉さんに会って、企画書を渡してってのが始まりですね。で、その場で、 古泉さんから 「ぜひ進めてください」と言われて、すぐにシナリオを書き始めました。 会社側も説得して、営業をかけてくれることになったんですが、それから、紆余曲折あって、 一年が経ち、 会社が変わり、プロデューサーが変わり、ようやくポニーキャニオン社からの出資が決まり、2011年の2月に製作が決定しました。ただ、自分としては夏の映画にしたかったので、早くても5月ぐらいに撮影したいと要望を出したんです。そしたら、あの3月11日の震災が起こりました。あれに対処するこの国の状況を見て、ああ、これは描かないわけにはいかないと、シナリオを全面的に書き直したんです。

――被災地にも行かれたそうですね。

菱沼 ええ。南三陸の方でボランティア活動に参加して、その状況を自分の目で見て、改めて、シナリオに手を入れました。シナリオハンティングという感じではなく、ここで何か行動しておかなければ後悔するなという思いからです。映画の撮影も延びて、体も空いていたので。実を言うと、今の日本の空気を入れたいと考え、この映画の追加撮影で、福島県に行き、実景の撮影を行なっています。主人公の心象風景で出てくる海とガレキがそれです。南三陸に行った時に見た海とその浜に広がる絶望的な景色があまりに強烈で、ゾンビなっていく主人公の心の映像として、どうしても入れたいと思ったんです。とはいえ、そのまま使うのは、どうもはばかられて、加工しているのでなんだか、わからない映像になっていますが……。自分だけの思いの記録としてどうしても入れた感じですね。

――撮影は、いつ頃行われたんですが?

菱沼 キャストのスケジュールなどを調整してもらい、9月にしていただき、ちょうど稲が緑から金色に変わっていく田園風景を狙いました。

『ライフ・イズ・デッド』――作品からゾンビ映画からの強い影響というかゾンビ愛を感じました。ゾンビはお好きなんですか?

菱沼 好きですね(笑)。原作も、とてもゾンビ愛にあふれています。古泉さんがゾンビ愛にあふれた方で、ご自身でゾンビ映画を監督されてもいます。特にロメロさんの描いた、現代社会との関わりを描くことのできるモンスターである点に強く惹かれます。

――特に、影響を受けたゾンビ映画などありますか?

菱沼 ロメロさんのリビングデッド・シリーズ6作、特に『ゾンビ』こと『ドーン・オブ・ザ・デッド』には、やはり影響を受けてますね。今回は、特に『死霊のえじき』こと『デイ・オブ・ザ・デッド』の影響が強いです。あと、エドガー・ライトさんの『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、メインの俳優部とゾンビキャストには見てもらってます。『ゾンゲリア』、『バタリアン』、『ゾンバイオ/死霊のしたたり』、『サンゲリア』、『ゾンビランド』、『28日後…』、『28週後…』、『レディオ・オブ・ザ・デッド』、『東京ゾンビ』、『山形スクリーム』、『ワイルドゼロ』あたりも好きです。

――湖のゾンビは、『サンゲリア』へのオマージュですか?原作にはありませんよね。

菱沼 それと『ランド・オブ・ザ・デッド』ですね。やはり、原作もそうですが、ロメロさんのゾンビのスタイルは守らせてもらってます。いわゆる走らない、ゆっくりゾンビですね。ただ、守るだけでなく、自分のゾンビ…まぁ、リビングデッドと言いたいところですが、自分だけのゾンビ像を入れようと試みてます。『ライフ・イズ・デッド』だけのゾンビ・ルールというか。どこがそうかは見てもらいたいとこですね。

――今回のために見直したんですか?

菱沼 ゾンビものは10本ほど見直しました。『ゾンビ』はちょうどデジタル・リマスター版が劇場公開になったので、ノーマン・イングランドさんというロメロさんとも仕事しているゾンビ映画に詳しい方と一緒に。鑑賞後に解説もしていただいて。他にゾンビものだけでなく、70年代のホラー、特に『キャリー』や『ハロウィン』、ホラー映画以外でも『ギルバート・グレイプ』、『イカとクジラ』、『アイスストーム』、『家族ゲーム』、『逆噴射家族』、『愛のお荷物』を見直しました。

――家族ドラマの部分ですね。

菱沼 家族という部分もありますが、家の中の画の切り取り方と、ある種の異物を扱う感じをつかみたくてですね。撮影の辻さんには、『キャリー』の映像のタッチで行きたいと話して、取り組んでもらいました。ビデオ撮影ですが、独特に16mmな感じを出してもらってます。70年代の技法や、デ・パルマっぽい狙い過ぎな撮り方とかもやり取りしながら、入れていきました。辻さんの被写体を捕まえる目は捕食動物のそれですね。カメラが被写体を捉え続けてはなしません。辻さんは芝居を捕まえさせたらピカイチですね。

――それらを見直して、なにか発見はありましたか?

『ライフ・イズ・デッド』2菱沼 歩くゾンビには、通常の人間なら、よほどのことがないとやられないなぁ、ということですかね。でも、あんなのが近づいてきたら、やっぱり怖い(笑)。病気の人が近づいてくるのも恐い。弱ってるんで勝てるはずなんだけど、やっぱ怖い。恐怖によって勝てる相手に負けることがありえるわけです。それと、肉体だけの記憶ってなんだろうとかいろいろゾンビの思考について考えさせられましたね。あ、あと、ホラー映画のホラーってなんだろうとかってとこまで考えてしまいまいた。ラース・フォン・トリアーさんの『アンチ・クライスト』は、Jホラーからの影響から生まれたって言ってんです。でも、映画を見てもどこがそうなのか、今ひとつよくわからない(笑)。考えて考えて、死んだ赤子の霊が復讐するという意味かなと。あれ全体があの赤ん坊の復讐のような気もしてくる。

――あれは、もっと宗教的な感じですよね。

菱沼 ええ。原初的な宗教観を感じますね。だから、赤ん坊の霊ってのは、考え過ぎでしょうね。でも、そこから、ホラーって、もっと自由な解釈が可能なんだと思い知らされたんですね。デビッド・フィンチャーさんが『セブン』をホラー映画の方法論でつくったというのを聞いた時から考えていたことなんですが。それを今回、深めていけたのが大きかったです。どういうことかというと、『キャリー』でいえば、あの映画、恐怖シーンはどちらかというと驚かしであって、青春ドラマのところの方が怖い。恐怖自体は、もっと当たり前な要素というか。目に見えないものなんじゃないかと。見えないけど存在する何かを感じるというか。空気とか視線とか未来とか。『ハロウィン』でも、とにかく何かが見ている気配が怖い。殺人鬼がいるけど、誰も対処しない。あの感じ。SARSやマイコプラズマが流行っていますと言われても、人によってまったく対応が違う。

――放射線もですね。

菱沼 以前なら公害とか。ある種の鈍感さと敏感さ、その間にある溝、それ自体、恐怖になりえるんじゃないかって。まぁ、この感覚については、藤子・F・不二雄先生のsf短篇『大予言』とかの感じに近いですね。ホラー映画って、同じ映画でも、笑って見られるときと怖がって見られるときがある。一本の映画がまるで逆の感情を喚起させることがある。その二面性に取り組みたいと思ったんです。『ライフ・イズ・デッド』は、それに最適な題材だと思ったんです。なので、『ライフ・イズ・デッド』は見た人からは、あまりホラー映画だとあまり思われないみたいで。コメディの部分やハートフルな部分にまぎれてしまっているみたいですが、意外に陰影の濃い部分を見てもらいたいですね。なんにしろ、今、日本で映画で物語を語るからには、同時代性は強く意識しています。今を一緒に生きている観客にまず届けたい。そこで、リアリズムで攻めるよりも、どこか寓話的に語りたいとは思っていますね。

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ライフ・イズ・デッド  2011/日本/カラー/94分/
原作:古泉智浩「ライフ・イズ・デッド」(「漫画アクション」連載/双葉社刊)
監督・脚本:菱沼康介
企画:村田亮 エグゼクティブプロデューサー:男全修二,佐伯寛之,阿久根裕行 プロデューサー:大垣修也,谷口広樹,堀尾星矢
撮影監督:辻智彦 美術:寺尾淳 録音:山田幸治 スタイリスト:EIKI ヘアメイク:コウゴトモヨ 特殊メイク:石野大雅
助監督:金子直樹 VFXスーパーバイザー:磯金秀樹 宣伝プロデューサー:中村美絵 製作プロダクション:アールグレイフィルム
配給:アールグレイフィルム 宣伝:ポニーキャニオン
出演:荒井敦史,ヒガリノ,川村亮介,阿久津愼太郎,しほの涼,永岡卓也,中島愛里,円城寺あや,小林すすむ
©2011 『ライフ・イズ・デッド』製作委員会 All Rights Reserved. 公式

2012年2月11日(土)から、シネマート六本木にて、レイトショー上映
公開初日2月11日(土)に、出演者舞台挨拶開催。
2月13日(月)に、菱沼康介監督、原作の古泉智浩さんによるトークショー
2月17日(金)に、音楽担当のアイシッツ、菱沼康介監督、特別ゲスト
によるミュージック&トークショーを開催。詳細は公式サイトにて。

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