菱沼康介 (監督・脚本)
映画「ライフ・イズ・デッド」について
2012年2月11日(土)から、シネマート六本木にて、レイトショー上映
公開初日 2月11日(土)に、出演者舞台挨拶開催。
2月13日(月)に、菱沼康介監督、原作の古泉智浩さんによるトークショー
2月17日(金)に、音楽担当のアイシッツ、菱沼康介監督、特別ゲストによるミュージック&トークショーを開催。詳細は公式サイトにて。
ゾンビ漫画の金字塔とも言われる古泉智浩著のカルトコミック『ライフ・イズ・デッド』が実写映画化され、2月11日より公開される。今回のインタビューは、第一回の試写で鑑賞した後、そのゾンビ愛あふれる内容に感激し、試写会場で挨拶していた監督の菱沼康介氏に、その場で申し込んだ。
菱沼氏からの「映画館で映画を観たあと、友人同士で、喫茶店にでも入った感じで行いましょう」という提案を受けて、数日後に、新宿バルト9のロビーで待ち合わせをし、10Fの喫茶店にて、行った。 (取材:わたなべりんたろう)
――どれぐらいの曲数を作って、映画にはどれぐらい使っているんですか?
菱沼 今回は約80曲は作ってもらい、半分程度を使っています。毎回、もっと時間が欲しいと思います。MAは最低でも2回やりたいです。完成させて、一度、期間をおいて熟成させてから、再度、直したいと思っています。効果音と音楽と台詞のミックス次第で全く違う映画になるからです。現状では、どうにも注ぎ込めない部分もありますが、だからこそ、その制限や勢いを取り込もうと心がけています。音楽部だけでなく、スタッフには本当に助けてもらっています。その一つ一つの手仕事、技術が映画を豊かにしてくれるので。まぁ、いっつも無理ばっか言っているんで、見られる作品を作らないと殴られかねないなと。まぁ、いい重圧になっています。この場を借りて言わせてください。みなさん、ありがとう(笑)。
――なるほど。撮影では、どういうシーンに力が入りますか?
菱沼 どちらかというと、ささやかなシーンに力を入れることが多いですね。重要なシーンはほっといても力が入るので。物語の構成上、繰り返しを用いて、その時ごとの変化を丁寧に見せるのを心がけてしているのですが、撮影ではどうしても似たシーンは続けて撮ることが多いので、感情の変化をことさら丁寧に俳優部と詰めてから、撮影しています。キャラクターをしっかとつかまえるよう、心を砕きつつ、編集されたイメージを意識して撮影することに力を入れています。演技演出は直に俳優を見もしますが、基本はモニターでカメラがつかまえたものを重視しています。最初のお客になる責任があるので。まぁ、視力が低いってのもあるんですが(笑)。最初の観客であるために、直のものよりも映像となったものを重視します。映るものに関してはたんなる説明で終わらないようにすること、それを心がけていますね。
――だから、編集はご自分でしているんですか?
菱沼 できれば、自分だけでなく編集者とやりたいのですが、音楽と同じように注文が多いので、しょうがなく自分でやっています。とはいえ、創作的な自家中毒に陥らないよう、今回も二名の編集者に入ってもらって、手を入れてもらっています。佐藤崇くんと小堀由紀子さんで、お二人とも一線級の編集者です。
――佐藤崇さんは『キツツキと雨』の編集もされていますね。あれもある意味ゾンビ映画ですね。
菱沼 そうらしいですね。観たいなぁ。編集は、自分だけだとどうしても独りよがりになるところがあるので。観客と物語を共有したいですからね。あと、自分で【重ね】といっている映画文法があり、それを突き詰めるために自分でも編集してるとこはありますね。
――それはどういうものですか?
菱沼 同じ印象や対比されたイメージを離したり、近づけたりして、いくどもつなぐことで強い印象を生み出す方法です。これを今回も用いていて、これがどうにも共有することが難しいようです。つながったのを見てもらうとわかってもらえるんですが。これを理解してくれる編集者に早く出会いたいです。ポール・ハーシュさんやサリー・メンケさんやセルマ・スクーンメイカーさん、黒岩義民さんみたいな。
――タランティーノ映画の影の立役者であるサリー・メンケさんは、一昨年、お亡くなりになってますね。
菱沼 なので、タランティーノさんの映画も変わってしまうかもしれません。次回作には期待してます。編集で映画はまるっきり変わってしまうので。あ、もちろん、今回、手を入れてくれた二人も優秀な編集者で、じっくりと関係を築けたら、可能性はあるのかもしれません。僕に辛抱してくれたら(笑)。しかし、製作状況からどうしても……。なんか愚痴が多いみたいで、嫌だな(笑)。
――【重ね】には、なにか発想のきっかけみたいなものはあったんですか?
菱沼 【重ね】の発想は、ポール・トーマス・アンダーソンさんの『マグノリア』を見たときに、独特のシーン編集に感銘を受けたんです。映画の文法的には、あまりうまくいかないとされていた方法だったのに、それがこんなにうまく機能するなんて、と。それを意識してから、『ブレードランナー』を見直したときに近い視点を見つけました。人型のものの見せ方がそうです。こちらはどちらかというと古典的な技法なんですが。最近だと『マネーボール』のサイド目のカメラの置き方や『母なる証明』の枠の使い方なんかもそうです。もちろん、この技法だけにこだわっているわけではなくて、作品ごと、物語ごとに、それにあった文法や方法を探します。自分は構造主義的映画作家だと認識しています。スティーブン・ソダーバーグさんが代表的な作家ですね。ただ、あそこまでストイックにはなかなかなれないので、もう少し中庸的ですが。もちろん、物語は重要ですが、映画だからこその味わいを入れたいんですよね。そして、映画ならではの観後感をもって帰ってもらいたい。見てから、時を経て、突然、ふわっと、映画のイメージだけが思い出されるような。『インセプション』でアイディアは心に強く根づき離れない、というような話が出てくるんですが、映画のイメージもそういうものとして、心に根づいてしまうもの。そして、僕はそういう根づくような映画を作りたいと願っています。そういうイメージは、心を支えてくれるものになるはずです。物語のもつ力だと思うんです。自分自身、そういうイメージを物語からいくつももらって支えられてきましたから。それが、もっとも多かったのが漫画と映画だったんです。でも、絵があまり上手くないので(笑)、漫画家は無理だな、と。
――何歳くらいから、映画を見るようになったんですか?
菱沼 最初の記憶は、幼稚園の頃の東映まんが祭りですね。ただ、意識したのは『ドラえもん のび太の恐竜』です。ただ、誕生日とか、何かあると連れていってもらえる程度で年医一度か二度ぐらいでした。頻繁に行くようになるのは小学5年生ぐらい。近所の巨大スーパーに、サービスで子供用の無料映画コーナーってのが出来たんです。映画館に通うようになったのは、中学生の頃からですが。地元の浅草には3番館があって、そこそこ安く見られたんです。子供の頃は本屋でよく立ち読みをしていましたが、やっぱり、あまり長くはいられませんよね。まだ、マンガ喫茶もなかったし。でも、当時の映画館は入ったら、最終回までいられた。今は入れ替え制で出来ませんが。
――シネコンが広まり、今はほとんどなくなりました。
菱沼 あれはあれで、遊園地っぽいので、好きなんですけどね。実は、僕は、あんまりいい境遇で育ってないので、映画館は絶好の逃げ場所でした。映画が終わって、扉を開ける時には、まるで自分の映画が始まるような気分で出てました。実は、映画にのめり込むきっかけがあったんです。子供の頃、小児喘息で小学一年生ぐらいから一人で毎週病院に通うような状態だったんです。その頃の夢は宇宙飛行士で、学研とかの『宇宙のひみつ』とかを読んでは夢を膨らませていたんですが、ある本に宇宙飛行士になる条件というのが書いてあったんですね。そこに呼吸系の病気がないことってあったんです。しかも、それを読んだのが病院の待合室。6歳で夢、破れました。そこから、もうオマケ人生ですよ。ところが、その1年後くらいに、母が映画に連れていってくれて、そこで見たのが、『E.T.』だったんです。そしたら、宇宙から友達がやってくるじゃないですか!病気が無くても宇宙に連れていってもらった気になった。それから、もう映画をつくるんだと決めたんです。
――『未知との遭遇』ではないんですね?
菱沼 もちろん、あれもその後、ビデオと映画館でも観て、自分は間違ってなかったと思いましたね。
――とにかく、スピルバーグのおかげで、オマケ人生が終わったんですね。
菱沼 そうです、新しい人生のスタートですよ。「わだば、スピルバーグになる」です。それから、映画にはまって、中学の時には、渡米して、スピルバーグ先生の母校のNCUやUCLAに学校見学に行きましたから。完全に若気の至りです(笑)。いわば、僕にとって、映画は恩人なんです。スティーブン・スピルバーグ先生はもちろん、ジャッキー・チェン、あ、あえて敬称略するぐらい親近感を感じてるので。他にもジョン・カーペンターさんや岡本喜八さんや、たくさんの映画にどれほど助けられたことか。だから、僕が映画を作るのは、映画への恩返しなんです。まぁ、受けた恩が大きすぎて、いつになったら返せるか見当もつきませんが。
( 2012年1月31日 取材:わたなべりんたろう)
原作:古泉智浩「ライフ・イズ・デッド」(「漫画アクション」連載/双葉社刊)
監督・脚本:菱沼康介
企画:村田亮 エグゼクティブプロデューサー:男全修二,佐伯寛之,阿久根裕行 プロデューサー:大垣修也,谷口広樹,堀尾星矢
撮影監督:辻智彦 美術:寺尾淳 録音:山田幸治 スタイリスト:EIKI ヘアメイク:コウゴトモヨ 特殊メイク:石野大雅
助監督:金子直樹 VFXスーパーバイザー:磯金秀樹 宣伝プロデューサー:中村美絵 製作プロダクション:アールグレイフィルム
配給:アールグレイフィルム 宣伝:ポニーキャニオン
出演:荒井敦史,ヒガリノ,川村亮介,阿久津愼太郎,しほの涼,永岡卓也,中島愛里,円城寺あや,小林すすむ
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