今週の一本
(2007 / アメリカ / ウィル・スペック、ジョシュ・ゴードン)
嗚呼、何もかもがアホすぎる。

仙道 勇人

俺たちフィギュアスケーター1 ウィンタースポーツの華として、日本ではすっかり定着した感のあるフィギュアスケート。しかし、プレイヤーの演技中に客席から手拍子が起こり、演技後にはプレイヤーを讃える花束やぬいぐるみが投げ入れるなど、スポーツらしからぬ面をもつ特異な競技と言っていいだろう。そんな異色スポーツを思いっ切り「ネタ」にしたのが本作「俺たちフィギュアスケーター」である。

 マッチョでセクシー路線のチャズ(ウィル・フェレル)と英才教育を受けた神童・ジミー(ジョン・ヘダー)、タイプが真逆の二人は様々な大会で金メダルを奪い合う因縁のライバルにして犬猿の仲だ。世界選手権の直接対決で同点1位となるも、気持ちが収まらない二人は表彰台上で大乱闘を演じる醜態を全世界に晒し、金メダル剥奪の上に男子シングル部門から永久追放されてしまう。
 それから3年半、スケート業界の片隅でひっそりと食いつないでいた二人に転機が訪れる。永久追放されたシングル部門ではなく、ペア部門なら規約上出場できるというのだ。大会が目前に迫る中、パートナーを探すジミーはひょんな事から因縁のチャズとペアを組んでメダルを目指すことに。前代未聞の男子ペア出場は全米の注目を集めるが、二人のコンビネーションはバラバラのままだった……。

 男女ペアが基本のペアスケートを男同士のペアでやらせてしまおう、という荒唐無稽な発想(ちなみに国際ルールでは男女ペアが原則)からわかるように、本作は冒頭から幕切れに至るまでギャグとネタで構成された高純度なスラップスティック・ムービーだ。ウィル・フェレルが下ネタを、ジョン・ヘダーが天然ボケをそれぞれ担当、加えてわかりやすいブラックジョークをちりばめることで、かなりキャパシティの広い笑いが盛り込まれており、B級おバカ映画好きには堪えられない面白さが全編に醸し出されている。

俺たちフィギュアスケーター2 注目したいのは、本作がギャグ映画であるにもかかわらず、スポーツ映画のクリシェを丁寧になぞった構成を踏襲している点だろう。メインプロットとなる「敗者復活」は勿論、対戦相手からの妨害工作、特訓シーンなど、各プロットだけを取り出せば本作で描かれる内容はスポーツ映画の王道そのもの。それゆえに、観客は安心してネタをネタとして笑うことができるのである。

 そうしたスポーツ映画を強く意識している本作だが、注意したいのはありがちな「コミカルなスポーツ映画」をコンセプトにしているわけではない、ということではないだろうか。本作にとってフィギュアスケートはあくまでも「ネタ」であって、「お笑い」こそが作品のメインなのである。
 実際、コミカルかシリアスかを問わず、スポーツを題材にした作品の場合、必ずと言っていいほど競技シーンが「見せ場」として用意されるものだが、意外にも本作にはそれらしいシーンが見当たらない。勿論、本作のために数ヶ月の特訓をしたというウィル・フェレルとジョン・ヘダーのスケーティング・シーンはあるにはあるのだが、明らかにネタとわかる劣化特撮(ワイヤー・アクションやCG)で表現された各技への繋ぎ程度であり、「ショートプログラム」であれ「フリースケーティング」であれ競技シーンをまともに見せることはない。これは「スポーツ映画」ではまずあり得ない演出と言えるだろう。このため、「コミカルなスポーツ映画」を期待して観に行くとやや肩透かしを食らわされるかもしれないが、本作に含まれた「スポーツ映画的要素」は全て笑いのための前振りであると理解しておけば、素直に本作を楽しめるはずだ。

 なお、蛇足的に付け加えるならば、本作には「好敵手同士による衝突と和解、共闘」というサイドプロットがあるのだが、メインプロットである「敗者復活」と合わせると、この物語が「努力」「友情」「勝利」という、日本で有名なあの三要素で構成されていることに気がつく。物語終盤で、コーチが二人に授ける幻の大技「アイアン・ロータス」(アホすぎて爆笑必至だが、漫画的な『必殺技』そのもの)の成否がメダルの獲得の鍵を握るというお約束的な展開も含めて、本作には妙に「少年ジャンプ」的な要素が到る所で見え隠れしているように感じられたのは筆者だけだろうか。それがどうしても鼻につく、という人もいるだろうが、往年のジャンプ漫画に親しんだ世代なら割とすんなりと本作を受け容れられることだろう。
 ある意味でベタな笑いのオンパレードだが、下ネタと身体を張ったギャグこそがお笑いの基本であることを再確認させてくれる一本である。

(2008.1.15)

俺たちフィギュアスケーター 2007年 アメリカ
監督:ウィル・スペック,ジョシュ・ゴードン
脚本:ジェフ・コックス,クレイグ・コックス,ジョン・オルトシューラー,デイヴ・クリンスキー
撮影:シュテファン・チャプスキー 美術:スティーヴン・ラインウィーヴァー
出演:ウィル・フェレル,ジョン・ヘダー,ウィル・アーネット,エイミー・ポーラー,
ウィリアム・フィクトナー,ジェンナ・フィッシャー,クレイグ・T・ネルソン
(C) 2007 DREAMWORKS LLC,All Rights Reserved.
公式

2007年12月22日より渋谷シネマGAGA!、なんばパークスシネマ他にて全国公開

2008/01/15/17:26 | トラックバック (0)
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