インタビュー
白石和彌監督

白石 和彌(映画監督)

映画「ロストパラダイス・イン・トーキョー」について

公式

2010年9月18日(土)より、ポレポレ東中野にてレイトショー!

不況が続く日本社会の中で生きる孤独な若者たち。自閉症の兄と、秋葉原地下アイドルと、社会のどん底の世界から、彼等はここではないパラダイスを目指す。
現代社会を背景とした繊細な人間関係を、真正面からかつ爽やかに描ききった白石和彌監督に、長編デビュー作となる今作に込められた思いを伺った。(取材:「人の映画評<レビュー>を笑うな」編集部 文:笹ろこ)

白石和彌
1974年北海道生まれ。1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。以後、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として行定勲、犬童一心監督などの様々な作品に参加。 2007年、鈴木亜美ショートムービー『join』、PV『O.K.FunkyGod』で初監督。2008年、魔法のiらんどTV「呪われた学校」を演出。今回の『ロストパラダイス・イン・トーキョー』が長編デビュー作。

――そもそも何故こういうテーマの映画を作ろうと思われたのですか?

ロストパラダイス・イン・トーキョー1白石 僕は1974年生まれで、団塊ジュニアの最後の方なんですが、ちょうど社会に出る前にバブルがはじけて、それ以降ずっと今現在に至るまで不況が続いていますよね。僕は会社員になったことはないですが、僕ら世代というのは、社会に出ていい思いをしたことがないんです。閉鎖的な社会やそのシステムに希望を持てないというか。例えば、若松孝二監督が描いた連合赤軍の若者達のように、革命を起こして社会のシステムを変えよう、という方向には行かない。でも、生きていく中でどこか幸せを感じたいし、幸せになって行きたい。そう言う状況の中でじゃあ何が幸せなんだろうと考えた時に、その原点は人と人とのつながりというか、人との関係性の中でしか今現在幸せを見出していけないんじゃないかという思いがあって、こういう話になりました。

――その中で、たまたま自閉症の方を題材のひとつとして選んだのですか?

白石 そうです。たまたまそういうキャラクターを選んだということですね。知的障害者の方を描くことはリスクもあるけれど、今回モデルとしている自閉症の方の取材をしている中で、「自閉症は僕らと全く同じ感情を持っていて、ただそれを表現したり、相手から何か言われたことを理解する事が難しい障害なんです」、と自閉症の方と普段一緒に生活している方から聞いたんです。持っている感情が僕らと全く同じであれば、自閉症自体を重く描く必要はなく、同じ目線で描いていけば、どこか普通の青春映画になり、家族の物語になり、普遍的な物語になるだろう、と踏ん切りがついたんです。実生役のウダタカキさんとは一緒に取材も行きました。1日一緒に軽作業をさせてもらったり、普段の生活を見させてもらったり、ということを何回かしました。

――物語の舞台を東京としたのは?

白石 メインのロケ地は川口ですが、空き地があって、大きいタワーマンションがあって、ああいうのを見て生活している感じというのがすごくぴったりくる気がして。僕は北海道出身なんですが、20歳の時に東京に出てきた時に感じた、東京の匂いが忘れられなくて。デビュー作なので、そういうのを入れていきたいと思いました。雰囲気というか空気というか、東京の、人とぶつかってしまったり離れてしまったりという感じを出せたかなとは思っています。秋葉原に関しては、撮影当時の2008年の頃、秋葉原が日本で一番元気のある街だと言われていたんです。日本経済が厳しい状況にあって、誰も夢も希望も見出せないような状況にあっても、もしかしたら秋葉原だけちゃんと夢を見れたり希望を見れたりしている人がいるのかなと思ってよく見に行っていました。そういう元気のある所から物語をスタートさせたいとずっと思っていたんです。そうでないと見ていてしんどい映画になるのではないかと。その流れで秋葉原の地下アイドルのイベントを見に行ったりもして。彼女達を何人か見ているうちに、これって俺なんじゃないかと感じたんです。自分もこれまで映画を撮りたくてもなかなか撮れなくて、浮上したいんだけど浮上できない感じとか、どこか自分を見ているような気がして。

――ドキュメンタリータッチで俳優陣の演技が本当に自然でしたが、演出はどんな風に。

白石和彌監督2白石 演技に関しては、予算と製作日数が限られていたので、事前にリハーサルの時間を1週間ほどつくってもらいました。その中で3人(小林且弥さん、内田慈さん、ウダタカキさん)と話し合いながら芝居を80%くらいつくり、あと20%くらいは撮影をしながら調整しました。撮影がドキュメンタリータッチということについては、その方が今回の映画にはいいのかなと思ったんです。話が、島を買うとか障害とか、わりと普通の人の現実と離れているところもあるので、3人の空気感だけはなるべく自然なところに落としたかったんですね。撮影に入ってもらった辻(智彦)さんは、そもそもドキュメンタリー畑の方だったので、辻さんにはそんなに芝居を見せないで、現場で芝居を見せて撮ってもらうというような状況で。そういう意味ではまさにドキュメンタリーっぽく撮って行きました。それは上手くいったと思っています。

――編集の段階では苦労されましたか?

白石 今回、台本が95ページあったんですが、それぐらいのページ数だと撮影すると大体100分位なんですよ、普通は。でも思いっきり撮ったら何故か2時間20分位になっちゃって(笑)。そこから25分切りました。編集が終わった当初は適正な長さだと思ってましたが、何度も繰り返し見返してみると、もう少し切っても良かったかなと(笑)。ただ、メインキャストの3人の台詞の間や空気感がもの凄く良かったので、あまりそれをいじりたくなかったんです。

――本当に3人の演技は自然でしたが、俳優陣はどのように決められたのですか?

白石 幹生役の小林且弥さんは、ご本人が持っている雰囲気もとてもよかったのですが、最初にお会いした時に、たまたま彼が俳優としていろいろと悩んでいる時期で、そのもがいている感じが幹生の役にぴったりあっていて(笑)、その瞬間に決めました(笑)。マリン役は、難易度が高い役だったので、本当に見つかるのか一番不安だったんですが。プロデューサーが小劇団を良く観る方で、内田慈さんを提案してくれて一緒に舞台を見に行って会わせてもらって。会った時の目線の送り方や細かい表情の作り方にピンとくるものがあって、彼女に決めようとすぐ思いました。実生役については、知的障害者の役をやりたい方がどれだけいるかわからなかったのですが、(若松監督の)『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』で見ていたウダタカキさんはすぐやりたいと言ってくれて。3人に関しては迷うことなく決まり、今でも本当に正解だったと思います。

――スタッフの方は以前からお知り合いの方が多かったのですか?

白石 そうですね。ただ僕らには美術がいなくて、プロデューサーがその前の現場で一緒だった今村力さんに相談したら、じゃあやるかと言って下さって。今村さんは日本の美術監督を代表する大巨匠なんですけど、本当にありがたかったです。実生が描く絵はどういう絵なんだろうというのが僕らもずっと悩んでいたのですが、今村さんが実際に施設に取材に行って、紙と鉛筆があればああいう絵を1日ひたすら書いている方の絵を貰ってきて、こういうのはどう?と。実生が見ている世の中ってなんなんだろうとずっと思っていたのですが、その絵にはヒントが確かにあると思いました。規律正しさと、どこか混沌とした部分。地下アイドル達と同じような、爆発したくても爆発できない何かみたいなものを感じました。

――幹生や実生の名前は何か由来があるのですか?

ロストパラダイス・イン・トーキョー2ロストパラダイス・イン・トーキョー3白石 知的障害者のキャラクターを作品の中に出すと決めた瞬間、どうしても『(秘)色情めす市場』という田中登監督の日活ロマンポルノを思い出してしまって。その作品にも“実夫”という名前の知的障害を持つ弟が出てくるんですが、部分部分でオマージュになったらと思い、“実生”という名前が決まりました。“実生”に対して弟の名前は何か、というところで(共同脚本の)高橋(泉)さんが“幹生”と言って(笑)。じゃあそういう兄弟にしようと。

――終盤にある事故には少し驚きましたが、どんな意図があったのでしょうか?

白石 終盤にかけて主人公達がいろんなことに気付いてリスタートをきれる喜びに比べれば、事故は蚊に刺される程度のことでしかない、という意味合いなのですが。実は元々の台本上にはなかったんです。ただラスト5分を、必死に生きる若者たちの滑稽さと同時に爽やかな希望で終わらせたかった。そのためには何か一つ足りないなとずっと思っていて、クランクインする直前に思いつきました。

――ラストに込められたメッセージとは?

白石 ラストは意見が分かれるところなのですが、僕はリアルにまとめてしゃんしゃんと終わらせたくなかったんです。障害があるないに関わらず、人間誰しも変われる、変わることはできると思うんです。想像もできない力強さで生きている。その生きている力強さを目の当たりにした時、たぶん、リスタートする力が湧いてくるんじゃないか。そんなメッセージを込めています。ただ、映画のその後、彼等の社会的地位が劇的に変わるわけじゃない。いざ生活を始めたら、明日のご飯代や来月の家賃というような現実的な話が押し寄せてくる。それでも3人がいることを出発点とできる喜びが表現できれば、と思いながら演出をしていました。

――今作が長編デビュー作となりますが、体験してみていかがでしたか?

白石 自分はもう映画を監督できないんだな、と思っていた所でこういう機会を頂いて、もうただ思いっきり好きな事をやろう。次撮る機会なんて自分には巡って来ないという気概で自分の中の熱を映画の中に閉じ込める作業を必死でやりました。そういう部分では満足してますし、たくさんの人に見て頂きたい作品にはなりましたが、いろんな人に感想をもらったり、また何度も作品を見直すと不思議なもので、すぐ次の作品を撮りたくなる(笑)。初恋のようにジリジリ胸を焦がす感じというか。なんと因果な職業なんだろうと。

――今後はどんな作品を撮っていきたいですか?

白石 今脚本を作っているのは、ある社会的な事件から着想を得た、罪と罰の話であり、家族の再生の話です。常に社会の底辺というか弱者の立場から生きていく希望みたいなものを描ければと思って。社会派な映画ばかりを撮りたいというわけじゃないですが、どこか社会を見据えた姿勢が必要なんだろうと思っています。社会と人とを見つめ続けて行きたいですね。

――最後に映画を観る方へのメッセージをお願いします。

白石 とっつきは結構ハードというか重い映画ではあるんですが、観終わった後はある種の清涼感や爽快感というようなものを必ず味わえる映画なので、是非たくさんの人に観てほしいです。

(2010年9月9日 東中野・ポレポレ坐で)
取材・撮影:「人の映画評<レビュー>を笑うな」編集部 文:笹ろこ

ロストパラダイス・イン・トーキョー 2009年 日本
CAST:小林且弥 ・ 内田 慈 ・ ウダタカキ 奥田瑛二
プロデューサー:大日方教史 齋藤寛朗 脚本:高橋 泉・白石和彌
撮影:辻 智彦 照明:大久保礼司 録音:浦田和治 美術:今村 力 音楽:安川午朗
監督:白石和彌
製作:KOINOBORI PICTURES/制作協力:若松プロダクション/カズモ
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
2009/日本/115min/HD (c)2009 Cine Bazar
公式

2010年9月18日(土)より、ポレポレ東中野にてレイトショー!

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2010/09/18/17:12 | BBS | トラックバック (0)
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