「通夜の客」より わが愛(1960・松竹京都) |
■スタッフ 監督:五所平之助/脚本:八住利雄/原作:井上靖/撮影:竹野治夫/美術:平川透徹/音楽:芥川也寸 |
■キャスト 佐分利信/丹阿弥谷津子/乙羽信子/関千恵子/浦辺粂子/河野秋武 ほか |
■あらすじ 終戦から四年。昔新聞記者をしていた新津礼作(佐分利信)の通夜に、水島きよ(有馬稲子) と名乗る女性客が現れる。未亡人の由岐子(丹阿弥谷津子)は彼女のことを知らなかった。それもそのはず、 きよは礼作の愛人だったのである・・・。礼作と愛人の純愛の日々を、きよの回想形式で描くメロドラマ。 |
原作のタイトルは『通夜の客』。当時の松竹は、それでは客が入らないと思ったようで、『わが愛』となった。戦争に協力したことを後悔し、山にこもって中国塩業史を書いた実在の新聞記者が原作のモデルらしい。
よくある「二号さんの純愛映画」。佐分利信も有馬稲子もとことん愚直。巨匠の晩年、これまたよくあることだが、すっかりと角が取れてしまったよう。
山奥での甘い生活三年間、東京に取り残された妻子のことがいっさい描かれていないのが気になる。三年間も夫を手放しで平気な妻が、あの時代にいたのだろうか?山村の生活はそんなに優雅なものか?! とケチのひとつもつけたくなる。(舞台設定は中国山地だが、実際には信州のアルプスのよう。山が穏やかすぎてロケ地としてはふさわしくないということになり、目の高さに山が聳えているところで撮った、とのこと。どおりで。中国山地にあんな峻険な雪化粧の連峰はまずない)そして、新津が戦争に協力したことやそれを後悔して隠遁したなどというくだりもこの映画には一切ない。
いわば戦中・戦後派のインテリ貴族映画かもしれない。同じく井上原作・五所監督の不倫貴族映画では、『猟銃』(61年・松竹。これまた山にこもった佐分利信のところに女二人が押しかける話だ)があるが、こちらは妻(岡田茉莉子)と不倫相手(山本富士子)の鋭い心理描写(クローズアップがすさまじい)が秀逸なのだが。
光るのは浦辺粂子。向こう三軒両隣のちょっと小うるさいおばさんという、いつもながらの役どころだが、「(有馬稲子の二号さんについて)あの女が何者かって悪者に違いねぇ!」とか「(最後には有馬とうち解けて)アンタがいなくなったら愚痴を聞いてもらう人がいないので、猫にでも聞かせるしかねぇ!」とか、相変わらずエスプリのきいた台詞が冴えまくっている。ちょっとした動作にも独特のユーモアがある。ひょっとして浦辺の台詞はどの映画でもシナリオにあるのではなく、彼女のアドリブなのだろうか?『稲妻』(成瀬巳喜男監督・52年・東宝)や『日本無責任野郎』(古沢健吾監督・62年・東宝)でも彼女は圧巻だった。いずれ浦辺粂子の特集上映をやってほしいものだ。
鑑賞余話 なお、7/31(日)~8/6(土)上映の『夜の鼓』の初日のことでした。立ち見もできないほどいつにもまして超満員。 私は隅のほうでパイプ椅子に窮屈に腰掛けていましたが、 隣の席のおばちゃんがクライマックスのあたりで妙に涙をすすっています。「そんなに感動するもんかなぁ」と感心していたら、 なんと有馬稲子さん本人でした。おそらく事前告知があったのでしょう。 「やっぱり昔はいい仕事をしたのだと、われながら感動いたしました」 と涙ながらに短い談話を残して早々と劇場を後にされました。 ハイカラな麦藁帽子を深々とかぶっておられたのであまり見えませんでしたか、可愛げなおばあちゃんというような印象でした。 駆け寄ってサインをねだろうかと思いましたが、あまりにも不意なことで萎縮してしまい、軽く会釈を返すにとどまりました。 |
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