インタビュー

アレクサンドル・ソクーロフ映画監督)

アレクサンドル・ソクーロフ監督
  • 映画『太陽』について

8月5日より銀座シネパトスにて公開

公式サイト: http://taiyo-movie.com/

アレクサンドル・ソクーロフ(映画監督) 1951年6月14日、 ロシアのイルクーツク生まれ。ゴーリキー大学卒業後、モスクワ国立映画学校で学ぶ。1986年のペレストロイカまで、彼の作品は上映禁止だった。日本で監督作品が公開されたのは、1992年になってからである。 ハイビジョン撮影でワンカットで撮りあげた「エルミタージュ幻想」(02)は、ヒットした日本だけでなく世界中で大変な話題になった。主な作品は「孤独な声」(78)、「セカンド・サークル」(90)、「静かなる一頁」(93)、「穏やかな生活」(97) 、「ファザー、サン」(03)など。

<ストーリー>
1945年8月。疎開した皇后や皇太子らとも離れ、地下の待避壕か唯一残った研究所での生活を送る天皇。敗戦が決定的となる中、御前会議では陸軍大臣が本土決戦の用意ありとの進言に対して国民に平和を願う天皇は降伏を示唆する。空襲の悪夢にうなされ、皇后と皇太子の写真を優しく見つめる天皇だが、連合国占領軍総司令官ダグラス・マッカーサーとの会見の日がやってくる…。

取り上げている題材ゆえに日本公開を危ぶむ声もあった、昭和天皇を題材にした話題作「太陽」が遂に日本公開される。今作はアレクサンドル・ソクーロフ監督が歴史上の人物を描く全4部作のうち、ヒトラーの「モレク神」(99)、レーニンの「牡牛座」(01)に続く3作目である。昭和天皇が敗戦直前からマッカーサーとの会見を経て人間宣言を決断するまでを、綿密な考証と想像力を駆使して描く。ひとりの人間としての孤独と苦悩を見つめて描いている点が斬新なだけでなく、素晴らしい作品なので、是非多くの人に観てもらいたい。主演はイッセー尾形、共演に桃井かおり、佐野史郎であり、日本の俳優が素晴らしい演技をしていることにも注目だ。来日したアレクサンドル・ソクーロフ監督に話をうかがった。音楽担当でプロデューサーでもあるアンドレイ・シグレも同席してのインタビューとなった。

 

――セットが見事でしたが、どのように再現したのでしょうか?

アレクサンドル・ソクーロフ監督2ソクーロフ 御前会議のシーンのセットは、 岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』(67)の御前会議のシーンを詳細に研究して参考にしました。 退避壕の御前会議の短いシーンでしたが、とても参考になりました。他にも、入手困難な資料をなんとか手に入れて、 それを参考にしました。ただ、描くのは人間ですので、あくまでセットの資料として使用しました。 そしてセットを作るときには、ロシアの建築家にも来てもらい、素材も含めてアドバイスをもらいました。 地下鉄などの建築を手がけている方なので、地下の退避壕のセットは特に参考になりました。

――今作を製作にあたって、どのような準備をしたのでしょうか?

ソクーロフ 『太陽』を作るにあたっては、 ロシアの日本研究家にも意見をもらいました。映画の中で昭和天皇が明治天皇へ、たびたび言及するのはロシアの日本史研究家と調べたうえでのことです。実際に、ああいう局面で発言したかどうかは私の直感から来る想像上のことです。ただ、調べたら、明治天皇へ言及するのは実際にはしていることなんです。おそらく、第二次世界大戦への皇室に関する秘密の文書は、まだまだたくさんあると思います。そして、それらが明らかになればこういった発言が出てくるとも思います。

――今までのソクーロフ監督の映画は台詞より映像に比重が置かれていましたが、今作では台詞にも重点が置かれている点が興味深かったです。

アレクサンドル・ソクーロフ監督ソクーロフ 今作では、 台詞の多さが特徴のひとつです。台詞が多くなったのは日本の俳優の方々が素晴らしかったこともあります。イッセー尾形さん、佐野史郎さん、桃井かおりさん他、皆さんと共に考えた台詞がいくつもあります。日本の偉大な俳優たちと仕事ができてとても光栄でした。世界的な水準で見てもユニークな素晴らしい才能を持った方々だと思います。今回の経験で、今まで興味のなかった演劇も手掛けてみたくなりました。

――昭和天皇をどのように描こうと思ったのでしょうか?

ソクーロフ 今作はドキュメンタリー映画でもなく、歴史映画でもなく、あくまで芸術映画つまりアートなんです。昭和天皇の実際の人生は、政治的判断もあったと思いますが、秘密に包まれていることもあって、御伽話のような語り口にしました。今作で描かれたのは、後世の私たちが目にしたい昭和天皇像なのかもしれないですね。私の願望としては、深い教養と繊細な感情を持ち、思慮深い人物です。映画の芸術作品としての力は、あらゆる例を提示することです。こうではなく、こうではないかという作り手の判断です。映画の力として、歴史的人物を生き返らせてどのようにも描くことができるのですが、それは使い方によってはプロパガンダのように破壊の力を持っているのです。わたしは、いつでも映画を観た後に心の中が廃墟のようにならないように提示しています。

――日本人の俳優のキャスティングはどのようにしたのでしょうか?

アレクサンドル・ソクーロフ監督3ソクーロフ イッセー尾形さんのキャスティングの理由は、協力していただいたラインプロデューサーの方や通訳の方など日本側の尽力がまずとても大きく、感謝しています。この映画は何年も前から企画していましたが、5年前にある日本の著名な方から「この映画は作ることは不可能でしょう。なぜなら俳優が誰も出たがらないから」と言われたことがあります。でも、実際にわたしたちがオファーした方々は誰も断らずに前向きに出演してくれました。昭和天皇役に関しては、まずビデオで5人ほどをチェックしました。わたしの活動場所であるサンクトペテルブルグで、さまざまな角度から検討して、尾形さんに決めました。尾形さんの一人芝居のDVDなども見て、「ユニークでユニバーサルな俳優だ」と思いました。ただ、始めは映画にあうか疑問ではありました。ロシアにも同じタイプの俳優がいて、舞台で良くても映画には向いていない方もいるのです。しかし、日本に来て尾形さんに会って、その考えは変わり、尾形さんに決めたんです。そして、その時に尾形さんのスタジオに桃井さんがいらしたんです(尾形さんと桃井さんは何度も二人芝居などで共演している)。桃井さんは「わたしを使ってください」と言っていました。始めは軽い挨拶のような冗談も兼ねて言ったのかもしれないですが、 桃井さんと会って話すうちに桃井さんを皇后役に決めました。皇后は、この作品の中で唯一出てくる女性なので難しい役です。桃井さんは非常に柔軟性があって、賢い方でしたので、素晴らしく演じてくれました。桃井さんの演技が、作品に余韻をもたらすことにもなっています。佐野さんは、会った瞬間に「この人だ」と思い決めました。とても知的な方で、撮影現場では台詞や動きなどにチェックを入れてくれました。そのことが、とても役立ちました。編集が終わって、音入れも終わった後にサンクトペテルブルグに佐野さんに来てもらって、最終チェックもしてもらいました。このように、とても協力的な方で感謝しています。今回、一緒に仕事をしてみて、日本の俳優は素晴らしいことを学びました。若い日本の俳優とまだ仕事をしていないのは残念ですが、 今作で一緒に仕事をした俳優の方々は、とても才能のある方ばかりで、日本の俳優の世界的水準の高さが分かりました。

――歴史上の人物を描く4部作の次作はどのような作品になるのでしょうか?

アレクサンドル・ソクーロフ監督4ソクーロフ 歴史上の登場人物を描く映画の次作はゲーテ自身とゲーテの著作の「ファウスト」の主人公ファウスト博士が統合された人物を描きます。4部作になりますが、始めてフィクションの人物であり、「こういう人がいてくれたなら」という希望で描きます。

――最後に昭和天皇の戦争における歴史的な面はどうお考えでしょうか?

ソクーロフ 今作でも描かれた戦争における天皇の責任問題は、日本の方々が真剣に話し合うべきことです。今作は、先にも述べたように芸術映画です。私は日本を愛しています。愛しているからこそ、映画の中で歴史的なことを裁こうとは思わないのです。終戦に関して、いろいろなことが言われていますが、一つ言えることは、戦争末期の時点で陸軍は本土決戦を強行しようとしたのに、昭和天皇は戦争を止めることを決断しました。この決断を評価したいです。

取材/文:わたなべりんたろう

2006/08/04/11:36 | トラックバック (0)
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