シドニー・ポラック監督の初のドキュメンタリーである「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」が公開される。タイトル通りに建築家のフランク・ゲーリーを扱っているドキュメンタリーである。建築家のドキュメンタリーでは、最近では「マイ・アーキテクト」があった。「マイ・アーキテクト」は、著名な建築家のルイス・カーンの本妻ではない息子が、空港で変死した父親の足跡を追う内容で、最後に胸がしめつけられるような感動のある作品だった。
「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」はタイトル通りに、監督の友人でもあるフランク・ゲーリーをスケッチのように描いているが、見応えは充分である。ポラックは製作のきっかけを次のように語っている。「これまで、フランクのドキュメンタリーを制作しようとアイデアを持って、何人かの映画人が彼にアプローチしてきたという。それゆえに、彼が私にそれについて興味があるかと尋ねてきたとき、私は彼が狂っていると思ってしまった。なぜなら、私はそれまでドキュメンタリー映画の作り方もほとんど知らなかったばかりでなく、建築に関しても何も知らなかったからだ。すると彼はこう言った。だからこそ、君が適任なんだよ、と」。だからなのか、劇中でポラックは質問しながらデジタルカメラを持っている。俳優としても実績のあるポラックが、初のドキュメンタリーで緊張しているような素の部分が観られるのも興味深い。
フランク・ゲーリーは、斬新すぎるデザイン及び素材のスペインのグッゲンハイム美術館で知られる。日本のポスターとチラシにも、グッゲンハイム美術館の写真が使われているが、あまりにも現実とは思えない形状にミニチュアかと見紛う人もいるだろう。なお、この美術館の候補の建築家はフランク・ゲーリー以外に、日本の磯崎新がいたことは、今作を観て初めて知った。その異端ぶりから、若いときは貧乏であり、苦労の連続であったが、デニス・ホッパーを始め、今や多くの俳優やアーティストが支持する建築家になっている。若いときの苦労を語るフランク・ゲーリーの言葉は思慮深く共感できるだろう。
ボブ・ゲルドフが「ヨーロッパなどの建築を見ると、あまりにありきたりで憂鬱になるので建築は好きではなかった。だから、オーベロン・ウォーの『パーティで建築家に会ったら殴れ!』の言葉が好きだった」との発言も、元パンクミュージシャンらしい機知に溢れている。フランク・ゲーリーは「アーティストであることの喜びは、見る者と作者が一つになる瞬間にある」と語っているが、このことはまさに映画や絵画、音楽のライブなどにあてはまることだ。ポラックが「才能とは液化して消えていかない病気だ」と語るのも、才能を持つゆえの悲劇を思わせる言葉として深く、言い換えれば「フランク・ゲーリーのように本当の才能を持つ者しか生き残れない」ことを表しており、ゲーリー本人も同意している。アーティストの発想や作業過程を見る楽しみとともに、人生の深淵にも到達している秀作である。
(2007.5.22)
6月2日より、Bunkamuraル・シネマ他にてロードショー。
スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー 2005年 アメリカ
監督:シドニー・ポラック
出演:フランク・ゲーリー,デニス・ホッパー,ジュリアン・シュナーベル 他
主なキャスト / スタッフ
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