『ボーン・スプレマシー』(2004 / アメリカ / ポール・グリーングラス )
『ザ・キーパー 監禁』(2003 / カナダ・イギリス / ポール・リンチ)
「きょうのわんこ」と「変態熊の妄想」について

鮫島 サメ子

 年明け以降、職場でいろいろ追い詰められているせいか、突然、課長(♀:通称「ヒロシ」)が、やっぱ会社やめるわあたし宣言をし、 それを聞いた主任(♂:通称「姫」)がシクシク泣き出すという洒落にならない悪夢に飛び起きたりしたもんで、ああケッタクソ悪い。 何か口直ししなくてはと、久々に映画館へ。

 こんな脈絡のない2本を纏めて紹介するってのも何ですが、これだけ毛色が違ってれば、どちらかはソコソコだろうと連チャンで見た次第です。 監督の名前が偶然にも同じなのと、筆者的には「動物映画」繋がりってことでご容赦いただければと存じます。

 さて、まずは『ボーン・スプレマシー』。
記憶を失った元・CIAエージェント、ジェイソン・ボーンが、(彼にとっては)理不尽極まりない襲撃から逃れつつ自分の正体を突き止め、 愕然としながらもそれまでの人生と決別して愛する女性と新しい生活を始めるに至る前作『ボーン・アイデンティティ』の2年後。 不祥事資料の入手目前に、取引現場であるベルリンで情報屋と調査員を殺されてしまったCIA。その現場に残されたボーンの指紋。だが、 その頃インドでボーンは殺し屋に襲撃され、愛するマリーを喪っていた。ボーンを捜索するCIAと、「トレッドストーン計画」 の関係者が自分たちを襲ったのではと思い、自らを囮に「追う」立場となるボーン。事件の真相、そしてボーンの「悪夢」の正体とは――。

 忌憚なく申し上げて、本作にはたいして期待しておりませんでした。何より、マット・ デイモンという役者にシンパシーを覚えたことがなかったので、ワクワクの仕様がなかったのですね。
 巷間囁かれているように、ジミー大西の従兄弟にしか見えない容貌にはハーバード出身という知性の欠片も窺えず、トム・ クルーズのようなカリスマ性もなければブラッド・ピットのような華もなく、かと言って特別なインパクトや個性があるわけでもない、 微妙なポジションの彼。世紀の愚作『オーシャンズ11』でも、見栄えのしない役を思い切り見栄えしなーく演ってたもんなあ。 これほど地味なスターも珍しい。

 ところが。蓋を開けてみれば嬉しい誤算。ロバート・ラドラムの原作未読のため、『マイ・ボディガード』 の時のようなイケズを言わなくて済むのも何よりですが、見る者を決して飽きさせないテンポの良さと絶妙のカメラワーク、迫力充分のカー・ チェイス、溜め息が出るほどキレの良いマット・デイモンの所作、ツボを心得た音響効果等々、面白いったらありゃしない。ホント、 ハリウッドってこういう作品は巧いよなあ。マット自身、某雑誌で「アクションはポルノと同じで、ストーリー上の必然でなければいけない」 てなコトを述べていたが、確かに本作は「ソコソコのストーリー+上質のアクション」が奏効し、見応え十分のスパイ・ サスペンスに仕上げられている。
中途半端に贖罪の旅に出る元・スパイというイタイ甘さ(両親を彼に殺された娘にしても、今さら打ち明けられたって、ねえ。おまけにホント、 ただ打ち明けるだけだったし)や、有能なエージェントが嵌められる設定の真犯人は大抵獅子身中の虫、 それもソコソコ大物てのが相場だけどまさかこいつじゃないだろうなと思った相手がまんまその通りという捻りのなさ、 ボーンの指紋がダミーだなんてことはもっと早く気がつくだろ素人じゃあるまいしという基本的な問題、そして恋人の敵でもあるその「虫」 を目の前にしながら、自分が手を下したら彼女が悲しむ、なんてクサイ台詞を吐く主人公等々、 個人的には何だかなあという部分も諸所に見受けられるが、作品本来の魅力を損なうものではないので、安心して見てほしい。

 ――とまあ、一応映画紹介らしくもっともらしいことも述べたりしたが、実のところ筆者の感想は「マット・デイモン、意外と可愛いじゃないの! !」の一点に尽きる。いやホント、吃驚ざんす。

 もちろん、ジミーちゃんが前述の見解を覆すような美的変貌を遂げようわけもなく、本編でもシャープなアクションこそ素晴らしいものの、 横顔が大写しされるたび、白骨化しても一発で面が割れるに違いないと確信してしまう先祖返りの骨格や、 寡黙かつクールに決めているはずなのに、 何故かオツムの出来が今ひとつであるがゆえに黙ってるだけの問題児にしか見えない子供っぽさは顕在である。カッコ良く決まるはずのラスト (台詞と映像は完璧なのに)で思わず失笑したのは、サスペンスのヒーローには不可欠な渋味や重厚さとは丸っきり無縁なキャラゆえだろう。

 では、そんな彼のナニが琴線に触れたのか。どうやら、3ヶ月ものトレーニングの成果を発揮すべく、 華麗なフットワークで走って走って走りまくるブーたれ顔の主人公を見ているうちに、情が移ってしまったらしい。
 というのも、おぞましい過去の因縁から恋人を喪い、ヤケクソ気味に攻めに転じたボーンはクールな「抜け忍」なんかじゃなく、 愛する主人を亡くして街を彷徨う野良犬にしか見えないからだ。そう、本作はスマートなスパイ映画などではなく、『きょうのわんこ』 拡大版スペシャル・アクション編に他ならない。出勤前の『わんこ』が欠かせない筆者がほだされたのも理の当然というものであって、 よくよく見てみれば、同じチンクシャでもディカプリオ(注:血統書付き)なんかよりはよっぽど可愛いし。
 「マイナス(不細工)×マイナス(雑種)=プラス(不憫な愛らしさ)」という公式の正しさをしみじみ実感することとなった『ボーン・ スプレマシー』。かくして本作は、筆者お気に入りの「動物映画」の一本となったのでありました。


 そして、駄犬が走り回る『ボーン~』の次は、アブナイ親爺を演らせたら天下一品のデニス・ホッパーをイヤってほど堪能できる『ザ・ キーパー 監禁』。
ホント、「シネパトス」ってば上映作品の選択がマニアック。最近、小綺麗な映画館(特にシネコン)が多い中、 わざわざ怪しげなガード下に潜るのも何だかなーとは思うのですが、ここのミョーなラインナップは、やっぱり捨て難い味ざんす。

 ストリッパーのジーナ(あの『トリプルX』のアーシア・アルジェント。『ボーン』のフランカ・ポテンテの15倍は色っぽい) がボーイフレンドと入ったモーテルで暴漢に襲われる。恋人は殺されたものの、ジーナはすんでのところを助けられるが、 事情聴取を終えた彼女は一難去ってまた一難、彼女を保護した巡査の上司・クレブス警部補(D.ホッパー)に拉致され、 彼の自宅地下室に囚われの身となる。彼女の自堕落な生活を非難し、従順であることを求めるクレブスに、 当初反抗していたジーナも改心したふりをし、逃げるチャンスを窺うが…。

 タイトル通り、D.ホッパーが行うのはあくまでも「監禁」と、調教…じゃなくて身勝手極まりない「教育」でありまして、 えっちシーンそのものはなし。んでもって露出も少ないので、「花と蛇」的プレイを期待する方々にはオススメできず。とはいえ、 歪でエゴイスティックな幼児性丸出しのオッサンが行う妄想全開の飼育っぷりは、一見の価値アリなんですけどね。 地下室の鉄格子も程よく錆びていて、ジーナが最初の犠牲者なんかじゃないことを早々に教えてくれるし、案の定、「行方不明」 になりっぱなしのダンサーが過去にもいたことが明らかになったりして。

 レクター博士のインパクトが図抜けていたため、最近は怪優=アンソニー・ホプキンスのイメージが人口に膾炙しているようですが、「元祖」 は何と言ってもこの方。しかも、目付きからして見るからに怪しいA.ホプキンスと異なり、一見、テディ・ベアのように愛らしい顔立ちと、 もはや首という部位の痕跡すら認められないずんぐりむっくり体形で、見事に異常者役に嵌るとこが凄い。これでもかと銃弾を撃ち込まれる、 変態熊に相応しい殺されっぷりもなかなかです。虚ろで小さな(顔面比)青い目がラブリー。

 そして身勝手と言えば、クレブスにご執心の中年女を演じるヘレン・シェイバーが怖い。D.ホッパーが一目惚れされるという、 どうにも無茶な設定のリアリティはどうよという疑義は呈したいものの、独占欲に満ち満ちた、舌なめずりせんばかりの表情といったら、 これまたハラショー。クレブスといい、こいつといい、「暴走する中年 VS いい面の皮の若者」 (気の良いバーンズ巡査も刺されちゃったしなあ)という図式が何とも笑えたりして。

 ただ、クレブスの狂気が自身の少年時代の体験のトラウマに拠る、というありがちな設定は、少々興醒め。原因あっての結果はわかるけど、 このオチじゃ「美学」がねえもんな。その意味では、数多の監禁作品の原点であり、筆者の鬼畜な琴線に響きまくった名作『コレクター』 の美意識には遠く及ばず。まあ、比較するにはタイプが異なり過ぎるのだけども。

 えと。ついでながらこの『コレクター』はもちろんリメイク版の駄作じゃなくて、ウィリアム・ワイラー監督、テレンス・ スタンプ主演の方ですからね、念のため。蝶の収集が唯一の趣味である内気な銀行員が大金を手にした(遺産相続でしたっけ?) ことからその趣味をバージョンアップし、蝶の代わりに女子大生を誘拐・監禁。何を求めるでもなく、まるでペットのようにただ優しく飼育。 そして彼女が死んでしまうと次の「蝶」を採集するべく、再び街という猟場へ赴く主人公。クレブスとは異なり、 自分の何を押し付けることもなく、ただ収集するための収集というお耽美コンセプトがすーばーらーしー。 この静かではにかみがちな狂気にウットリざんす。未見の方は是非ぜひ。

 ということで、誰もが愉しめる雑種犬大活躍作品と、少々マニアックな変態熊怪気炎作品。この変態熊が肉付き良すぎて、 サングランスなんざ顔面に埋もれてるトホホ状態ですが、それもまたご愛敬でしょう。
 それぞれがそれぞれの持ち味で魅せてくれる二作品。久しぶりの「オススメ」でした。

(2005/2/19)

ボーン・スプレマシー 2004年 アメリカ
監督:ポール・グリーングラス 脚本:トニー・ギルロイ,ブライアン・ヘルゲランド 撮影:オリヴァー・ウッド
出演:マット・デイモン,フランカ・ポテンテ,ブライアン・コックス,ジュリア・スタイルズ,カール・アーバン,ジョアン・アレン

ザ・キーパー 監禁 2003年 カナダ・イギリス
監督:ポール・リンチ 脚本:ジェラルド・サンフォード 撮影:カーティス・J・ピーターセン
出演:デニス・ホッパー,アーシア・アルジェント,ヘレン・シェイヴァー,ロックリン・マンロー

ボーン・アルティメイタム
ボーン・アルティメイタム
おすすめ度:おすすめ度5.0
ボーン・アイデンティティー
ボーン・アイデンティティー
おすすめ度:おすすめ度4.0
ボーン・スプレマシー
ボーン・スプレマシー
おすすめ度:おすすめ度4.0
ジェイソン・ボーン スペシャル・アクションBOX
ジェイソン・ボーン
スペシャル・アクションBOX

おすすめ度:おすすめ度4.5

2005/04/30/20:07 | トラックバック (0)
鮫島サメ子
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Googleブックマークに追加
記事内容で関連がありそうな記事

TRACKBACK URL:

メルマガ購読・解除
INTRO 試写会プレゼント速報
掲載前の情報を配信。最初の応募者は必ず当選!メルメガをチェックして試写状をGETせよ!
アクセスランキング
新着記事
 
 
 
 
Copyright © 2004-2020 INTRO