リミッツ・オブ・コントロール
9月19日よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、
新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
カンヌが沸いた前作『ブロークン・フラワーズ』(審査員特別グランプリ受賞)から約4年――。
鬼才ジム・ジャームッシュの集大成ともいえるオールスター・キャスト出演の作品がここに生まれた。
主演はジャームッシュ作品4度目の出演になる盟友イザック・ド・バンコレ。さらに『ミステリー・トレイン』の工藤夕貴、オスカー女優・ティルダ・スウィントン、燻し銀の演技が光るビル・マーレイら過去の名作のオールスター達。新たな顔ぶれとして『モーターサイクル・ダイアリーズ』のガエル・ガルシア・ベルナルなど気鋭の俳優たちが終結した。 撮影監督には『花様年華』などで独自のカメラワークが世界的な注目を浴びるクリストファー・ドイル。色彩の国・スペインを舞台にオールロケを敢行! “色の洪水”ともいえる幻想的な世界がスクリーンに描かれる。
無情な大河を下りながら――
もはや船引きの導きを感じなくなった
アルチュール・ランボー
舞台はスペイン、名もなき孤独な男はある任務のため様々な街を巡り、さすらう。過去、目的、計画…全ては謎に包まれたまま、ただ男は任務の遂行だけを目指す。ありのままの現実と、夢の中を彷徨うかの様な非現実が交錯する。スペインじゅうを巡りながら、男は自身の意識の中をもさすらう――。
9月19日よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、
新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
アイデアについて
『リミッツ・オブ・コントロール』の構想にあたりジャームッシュは70年代、80年代に撮られたヨーロッパの犯罪映画を頭に描いていた。特にジョンブアン監督作の『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(68)を参考にする事になる。この作品はリチャード・スタークの小説(※邦題「悪党パーカー/人狩り」・早川書房刊)が下敷きになっており、悪党パーカーシリーズとして世界中で多くのファンを持つ。「パーカーはプロの犯罪者で、非常に落ち着いている。仕事に取り組んでいるときは、セックスにもアルコールにも他のどんな娯楽にも惑わされることはない。でも、いつも彼の周りにいる人たちがトラブルに巻き込まれて、彼自身の非常に慎重な行動とは正反対のむちゃくちゃな状況に陥るんだ。魅力的なキャラクターだよ」。製作会社に「ポイントブランクフィルム」と名付ける程にこの作品に影響を受け、撮影監督のクリストファー・ドイルとプロダクション・デザインのエウヘニオ・カバイェーロと共に研究を重ねたという。「映像のなかの中にある映像、ドアや窓やアーチ道などの枠で切り取られた物体、反射面を使って意図的に外部のものと内部のものを混乱させるように撮ったショットなど。リズムではなく作品を様式的に分析したんだ。」
脚本について
脚本の作業は今までのジャームッシュ作品の工程とは大きく異なった。「これはいつもの僕の手順じゃない。普段は最初からかなり細かい脚本を書いているんだ」、しかし今回はジャームッシュは決まった脚本は作らずに、25ページ分の物語だったものを制作段階で膨らませていくというやり方をとる。現場での指示も最小限で、最初はセリフもなく、撮影を進めるなかで一連のセリフが作られていった。「だから現場では常にアンテナを立てて作業していたし、いつも何かを再検討したり、作品が自然とある方向に向かっていくのに身を任せたりする態勢が整っていたんだ」。
「これがシーンのスケッチだけど、何を連想する?物でも何でもいい。新しいアイディアはないか?」。常に“変更ありき”というこの作業の中でプロダクション・デザインのエウヘニオ・カバイェーロや撮影監督のクリストファー・ドイルは大きく貢献をした。特にエウヘニオは撮影開始当初は全てオールロケだったにも関わらず、クライマックスのシーンのためにもう使われなくなった建物を見付けその中に撮影用セットを作る事になる。もともとは古い展示場だったものを土台にデザインし作り直し、この映画での唯一のスタジオでの撮影が行われた。製作のステイシー・スミスはこの時のことを「まさに“エウヘニオ・マジック”だった」と語っている。
舞台スペインについて
「この作品は物(アイデアやイメージ)が集まり始めたことで実現したというのもある」。前々からジャームッシュはスペインで映画を撮る事を思い描いていた。『リミッツ・オブ・コントロール』の企画が進むと、舞台はスペイン東西南北あらゆる場所が撮影場所に挙げられた。マドリードからスタートして、アルメリア、サン・ホセ、そして最後はセビリア…、行かなかったのはバルセロナぐらいだったという。
過去にジャームッシュ自身、スペインには何度か訪れている。その度にやがてロケーションのアイデアとなる記憶を重ねてきた。早い段階で撮影場所に決めていたのは20年近く前から気にかけていた“トーレス・ブランカス”という円柱状のアパートメント。「常々なぜ他の連中がもっとあそこで撮影しないのか不思議に思っていた」程だという。ビル・マーレイの演じる人物に遭遇する場所には元クラッシュのジョー・ストラマーが生前に薦めていた家を使用する。またスペイン南部の都市セビリアについても80年代に訪れて以来ジャームッシュの中で「世界で一番好きな街でずっと魅了されつづけている」場所となっていたことを思い出す。様々な記憶や体験が『リミッツ・オブ・コントロール』の構想に繋がっていく。「全てのピースをつなぎ合わせていき、セビリアを念頭に置いたとき、スペインで全てが形をなし始めたんだ」。
撮影現場について
『リミッツ・オブ・コントロール』の現場は『イヤー・オブ・ザ・ホース 』(97)以降、12年間ジャームッシュと組み続けている製作のステイシー・スミスにとっても今まで最も大変な現場だったという。「ジムの映画って、ストーリーの中身が濃いんだけどスタッフの数は少ないのよ。普段は空港や駅で撮影することもないし、ヘリコプターなんて登場しないもの(笑)」。
中でも苦労するのは俳優たちのスケジュール調整だった。世界中からジム・ジャームッシュのために名優達がスペインに集まった。「あれには少しやきもきしたわね。ちゃんと調整はできたけど」と製作のグレッチェン・マッゴーワンは語る。ガエル・ガルシア・ベルナルは別の映画を監督する準備をしながら参加。ティルダ・スウィントンは、一度アカデミー賞の授賞式に出席しそれからまた合流した。アレックス・デスカスとジャン=フランソワ・ステヴナンはパリでのストライキにより調整に苦労することなる。
「列車の調整は、出演者に都合をつけてもらうより大変なのよ!」さらにマッゴーワンは役者だけでなく施設や機材の調整にも頭を悩ました。工藤夕貴が出演するシーンは『ミステリー・トレイン』(89)同様、列車の中でのものだった。貨物列車を使いセッティングや特殊効果担当の手配を含めたった1日で撮り終えなければならない。「本当にハードだったけど彼女は嫌な顔ひとつせずがんばってくれたわ」。
キャストについて
『リミッツ・オブ・コントロール』は過去にもジャームッシュ作品に出演した俳優が多く参加している。彼らに対してジャームッシュは脚本の段階でほとんどのキャスティングを想定をしていた。「出演を承諾してくれた時点で、脚本を書き足したり、直したりしたんだ」。特にイザック・ド・バンコレについては構想の段階で主演に据えることを決めていたという。「ここ何年か、彼をある種の人目を忍ぶ任務を負った寡黙で力強い役柄で使って映画を撮りたいという思いがあったんだ」。
「今回の役を演じるにあたってイザックがすごかったのは、自分が本番に入っている時と同じぐらい待ち時間も真剣に過ごしていたというところね」と製作のスミスが評価するようにイザック・ド・バンコレはわざと他の俳優たちと距離を置き、宿泊も離れたアパートメントを選び“孤独な男”を演じるための役作りに励んだ。ジャームッシュとイザックのリハーサルも他のキャストよりも大幅に時間をかけ行われた。「俳優としての彼の一番好きな点は、大げさな演技をする必要がないところだ。彼はすごく人間らしい小さな動きで演じることができる。僕はそれを捉えたかった」とジャームッシュはイザックに対して語っている。
音楽について
自身も「映画の作り手として、僕は自分がミュージシャンのような反応をすると思っている」と言うように、ジャームッシュの作品には常に音楽が大きな要素を持つ。『リミッツ・オブ・コントロール』では構想の段階から日本のロックバンド・Borisの音楽を扱うことが候補に挙げられていた。「Borisはサイケデリック・ノイズ・メタルバンドに分類されるんだけど、彼らはとにかく独創的なんだ」。他にもジャームッシュが愛してやまないというシューベルトの弦楽四重奏曲である「アダージョ」、イザック・ド・バンコレ演じる主人公がベッドに横になっている時に窓から漏れ聞こえてくる音楽にはマヌエル・エル・セビージャノの「(ボル・コンパシオン・)マラグエニャス」という小曲が使われる。
また作品の音楽要素の1つとしてジャームッシュは様々な形式のフラメンコを探したという。その中でも特にペテネラスという様式のものに心惹かれる。「かなり風変わりで、ほとんどのフラメンコ・ミュージシャンやジプシーの間では禁じ手なんだ。複雑な理由があって、縁起が悪いとされている。彼らの世界でいうブルースのようなものだね。ほとんどが死や悲劇、失恋を歌ったものだ」。最終的にペテネラスの「エル・ケ・セ・テンガ・ポル・グランデ」という曲が使われ、歌詞は劇中のセリフにも採り入れられた。
『コーヒー&シガレッツ』(03)や『ブロークン・フラワーズ』(05)同様、音楽の編集については今作でも編集のジェイ・ラビノウィッツが兼任をしている。彼についてジャームッシュは「音楽をうまくはめ込んだり短く編集したりすることの天才」と評価しており、実際にジェイとジャームッシュが編集室に入るまでは、扱う音楽は決めれておらず、どの音楽をどのシーンに使うか未定だったという。
9月19日よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、
新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
脚本/監督ジム・ジャームッシュ
製作:ステイシー・スミスグレッチェン・マッゴーワン 製作総指揮:ジョン・キリク
撮影監督:クリストファー・ドイル(香港専業電影撮影師学会)
編集:ジェイ・ラビノウィッツ(全米映画編集者協会) プロダクションデザイン:エウヘニオ・カバイェーロ
音楽:Boris サウンドデザイン:ロバート・ヘイン 衣装:デザインサビーヌ・デグレ キャスティング:エレン・ルイス
ユニット・プロダクション・マネージャー:パトリシア・ニエト
第1助監督:エイドリアン・グリュンベルグ 第2助監督:リチャード・ダイメント
孤独な男/イザック・ド・バンコレ クレオール人/アレックス・デスカス フランス人/ジャン=フランソワ・ステヴナン
ウエーター/オスカル・ハエナーダ ヴァイオリン/ルイス・トサル ヌード/パス・デ・ラ・ウエルタ
ブロンド/ティルダ・スウィントン モーレキュール(分子)/工藤夕貴 ギター/ ジョン・ハート
メキシコ人/ガエル・ガルシア・ベルナル 運転手/ヒアム・アッバス アメリカ人/ビル・マーレイ
アメリカ人2/ヘクトル・コロメ フラメンコクラブウエートレス/マリア・イサシ
フライトアテンダント/ノルマ・イェセニア・パラディンズ
ストリートキッズ/アレキサンドル・ムニョス・ビジエ,クリスティーナ・シエラ・サンチェス,パブロ・ルーカス・オルテガ
フラメンコダンサー/ラ・トゥルコ フラメンコシンガー/タレゴン・デ・コルドバ
フラメンコギタリスト /ホルへ・ロドリゲス・パディージャ
(c) 2008 PointBlank Films Inc. All Rights Reserved.
http://loc-movie.jp/ (海外公式トレーラー)
9月19日よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、
新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
- 監督:ジム・ジャームッシュ
- 出演:ウィノナ・ライダー, ジーナ・ローランズ, ロベルト・ベニーニ
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主なキャスト / スタッフ
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