ファスビンダー監督　没後30年

1982年6月10日、36歳の若さでこの世を去ったファスビンダーはドイツの時代感覚そのものを映像化することにこだわり、アメリカ映画のメロドラマを意識した手法をとりながら常にドイツを忘れなかった人でした。
愛に絶望しつつ人を愛することを生涯やめなかった彼は、女性の姿を通してドイツの戦後史を再検証する為、悲劇の過去を封印し前向きにたくましく生きる“廃墟の女たち”を数多く作品に登場させています。早撮りの名手ファスビンダーは短い生涯に４0本以上の作品を残しました。膨大なフィルモグラフィのなかで今回お届けする3本はそのごく1部。けれどもここに登場する3人のヒロイン、マリア、ローラ、マルタたちのドラマチックな人生模様は、観るものの心に愛の美しさ、不条理さを刻みつけてくれます。死への憧れをもつ作家が生への意志に満ち溢れた女たちを描いた至局の作品たち。

「マリア・ブラウンの結婚」
（1979年／120分／カラー／35ｍｍニュープリント版）
ファスビンダーの名を一躍世界に轟かせた最高傑作！本国ドイツで大ヒットを記録しました。主人公を演じたドイツが誇る名女優ハンナ・シグラが熱演。彼女は見事ベルリン映画祭で銀熊賞を受賞。ラジオ放送や効果音を巧みに用い時代相を演出しつつ、全人生を愛に賭けたヒロインの姿をロマンティックに描いたこの映画は究極の“女性映画”といえるでしょう。

「ローラ」（1981年／115分／カラー）
映画史に幾度となく登場する永遠のヒロイン“ローラ”。田舎の歌姫と気まじめな小役人のメロドラマへと大胆に変更したファスビンダーは、往年のアメリカ映画へオマージュを捧げつつドイツ成長期の精神的退廃を見事に映像化。主演のバルバラ・スコヴァの最新作「ハンナ・アーレント」は今年の東京国際映画祭のコンペに登場した。

「マルタ」（1975年／112分／カラー）
世間知らずのブルジョワ娘が結婚した男は潔癖症のサディスティックな男。マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラの作品で世界的な撮影監督となったミヒャエル・バルハウスによる鏡を多用した映像がヒロイン、マルタの孤独な内面を見事に表現。エキセントリックなメロドラマでありながら心理サスペンスの要素も加味された傑作です。