高橋 泉 (映画監督)
映画『ダリー・マルサン』について【4/5】
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第15回東京フィルメックス コンペティション部門出品
(取材:深谷直子)
――俳優では原田麻由さんが出ていますよね、冒頭でダリーのお姉さん役で。
高橋 あれは元々はおじいちゃんの役だったんですよね(笑)。
――え、何ですかそれ(笑)?
高橋 おじいちゃんがボケてフラフラ入ってきてああいうこと言うっていう。
――ああ、ちょっと怖かったですね。すごくにこやかにダリーの婚約者に向かって耳のことをズケズケ言って、無神経さにザワザワしました。
高橋 でもそのおじいさん役をやってくれる人というのがなかなか見つからないし、本当におじいさんでいいのか?とも考えていたときに、原田さんと「『群青いろ』のすべて」のあとお酒の席で一緒になったんですよ。並木さんの知り合いなので。で、お会いして「あ、原田さんにやってもらおう」と思ってすぐ脚本を書き換えて。
――一見おっとりした感じの原田さんはぴったり合っていましたね。唐突に「水は高いところから低いところに流れるから気を付けて」と言い出すのも不気味だったんですけど、ボケちゃったおじいちゃんなら分かります(笑)。導入としてもミステリアスでとてもよかったと思います。あと地曳豪さんが演じる婚約者の上司役も面白かったですね。社訓のようなものを復唱させるというシーンで、それもすごく怖くて。
高橋 あれはもっと笑ってほしかったです。「Here we go~」って(笑)。
――私はここぞとばかり笑いました。復唱の途中で「俺の目を見ろ!そこは繰り返さなくていい!」と殴るとか(笑)。あのシーンはかなり遊ばれているなと思います。地曳さんもスペシャル・ゲストのような感じですよね。
高橋 はい。あれぐらいいろいろ出ている人がワンポイントで出てくれるのってなかなかないのでありがたかったですね。
――きっと今回も笑いが絶えない現場だったのだろうと思いますが、すごく挑戦されている作品なので、作っていて難しかったことはありましたか?
高橋 難しかったところはあったかなあ? どこもすごく楽しく撮っていましたね。今回はカメラを変えたというのがすごいよかったなと思って。今まで使っていたカメラだと被写体に標準で寄るとかいうときに画がイマイチ決まらなかったんですけど、カメラを変えたらすごくしっくりくるようになったので、それがよかったですね。
――カメラは何台で撮っているんですか?
高橋 ワンカメですね。『あたしは世界なんかじゃないから』からワンカメでやっています。それまではマルチで撮って、表情は逃さない、みたいなことをやっていたんですけど、もうそれはいいなと。
――生々しく撮るのはもういいと。映像にはやはりとてもメリハリがあって、事故の回想シーンだけモノクロで、今回はちょっとパートカラーにしていますけど、それもこだわりですか? 以前の作品でもそうしていましたよね。
高橋 モノクロだと説明しなくても過去のカットだって分かるじゃないですか。やっぱりそれが得なような気がするんですよね。でもモノクロの映像に関しては、今回はカラコレも別の人にやってもらっていて、そこで今までとは違いが出ましたね。いつもはファイナルカットの中でモノクロにしていて、それだと本当に白と黒なんですけど、ちゃんとした機材でやると“赤がモノクロになるとこういう色”みたいな、モノクロはモノクロなんですけど元の色が分かるようなのがあるんですよね。
――ああ、そういうものなんですね。作り方としても今回は本当にプロのスタッフにお任せしていたところがあったんですね。
高橋 そうですね、仕上げの段階は。
――これからはこういう体制でやっていくんですか?
高橋 まああんまり次の体制とかは考えていないですね。
――次に撮る作品は決まっているんですか?
高橋 いや、この間廣末くんのが撮り終わって、僕は脚本を書かなきゃいけないんですけど、他の仕事でなかなか時間が取れなくて。
――映画やドラマの脚本をかなり書かれていますよね。それがあるから群青いろで思い切り好きなことをやるのを楽しまれているのだとも思いますが。
高橋 結局「商品」と「作品」をいい塩梅に融合させたものって本当にそうそうできないんで、それを毎回求めてもしょうがないし時間の無駄なので。商品と決めたら商品として作る、作品と決めたら作品として作る、と二つに分けたほうが自分の中の矛盾がなくなって楽なので、そう考えてそれぞれやっていますね。
監督:高橋泉 出演:廣末哲万、大下美歩、松本高士、並木愛枝 ほか
製作:群青いろ 製作協力:カズモ
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