高橋泉監督/『ダリー・マルサン』

高橋 泉 (映画監督)
映画『ダリー・マルサン』について【3/5】

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第15回東京フィルメックス コンペティション部門出品

(取材:深谷直子)

舞台挨拶 並木愛枝、松本高士、大下美歩舞台挨拶/並木愛枝、松本高士、大下美歩――今回はどのシーンもしっかり決めて撮られていると感じました。音楽も印象的でしたね。激しいシーンでとてもきれいな曲が流れてきて。

高橋 平本(正宏)さんという方にやっていただきました。プロデューサーが紹介してくれて。

――篠山紀信さんとユニットを組まれたり、バレエや舞台の音楽も手がけられている方なんですよね。今回のテーマ曲もポップで幻想的な曲で、それが劇中の本当に悲痛なシーンで何度か流れてきて、面白い使い方だなあと思いました。監督からこんな曲をという注文をされたんですか?

高橋 元々大道芸人のだいちさんに重力に抗うような踊りをしてほしいというのがあって、そこに合う音楽を考えていったんですよね。最初に僕が彼の踊りを見たときは中島みゆきの「糸」で踊っていたんですけど、そういう悲しい、言ってみればオルゴール音楽みたいなものを付けるとぴったり合っちゃってそれ以上のものにはならないと彼が言って、ジョン・レノンの「スタンド・バイ・ミー」とかを一生懸命提案してくるんですけど、それはさすがに使えない、何千万かかるんだ、って(苦笑)。だからあんまりそこに合わないものにしたら面白いんじゃないかなって思って、それでああいうサウンドにしました。

――ダリーの婚約者と、善川が想いを寄せる女性は、とても苦しい境遇の中でそれぞれ過ちを犯していて、それが一度に露わになるというクライマックスは壮絶でしたが、すごく清々しいものでもありました。音楽も優しく包み込んでくれるようで。

高橋 確かに壊しているんですけど、あそこでちゃんと壊す決断をしなきゃいけないというのがテーマだったので。

――そうですね。思い切って壊してしまったらそこからは1歩1歩上っていけるのだなと。あの重力に抗う踊りもそこまでの世界を逆転させてくれて、素晴らしいラスト・シーンでした。今回は本当に苦しい世界を描いていますよね。息苦しく暮らしている人が、自分よりも弱い者にやつあたり的な暴力を振るってしまうという、自分にも身に覚えのあるすごく嫌な部分で。善川がダリーに対して「お前たち障がい者は保護されている」と言うのはヘイト・スピーチにも通じるなと思ってゾッとしましたが、そういうところから思い付かれたんですか?

高橋 いや、そうではないと思いますね、多分。実はヘイト・スピーチって何となくイメージはあるんですけど、実際には何だかよく分かっていなくて。

――あれもやつあたりみたいなものだと思います。在日の外国人のほうが特権を持っていて、そのせいで日本人のほうが苦しい生活をしていると言って責めるというものなので、まさに善川が言っているようなことですよね。

高橋 ひどいことを言わせているなあとは思いながら。

――でも、そういうことが起きてしまう背景となっているものがとてもよく分かりました。「高いところから低いところへ」という流れの中では、本当に底辺にいる人もその鬱屈をぶつけるためにさらに下にいる人を見付けなければいられなくて、こういう世の中は本当に辛いなあと。でもダリーのほうでも、どういう思いで善川がそれを言っているのかということまで感じ取って、その上で「許可を得ながら生きてきた」ということを一生懸命伝えて、とても胸に迫るシーンでした。ダリーは手話や読唇術も使うけれど、それよりも聴こえない分一生懸命相手の思いを読み取ろうとしているのだと思って、やっぱりそれが「対話」っていうことだなと思いました。

高橋 ああ、そうですね。

――感情の細やかさや人の繋がりの大切さをしっかりと描いて、いろいろなことを考えさせてくれる作品でした。それが映画のいろいろな要素とも渾然一体となっているのが、今回すごく世界が広がったなと思ったところです。音響も凝っていましたよね。車の音とか家の中がきしむような音がかなり大きく聴こえてきました。

高橋 ああ、そうなんです。僕らの作り方って編集のところまで全部自分たちで好きにやって、そこから整音とか音響効果とかの方に入ってもらうんですけど、今回の音響効果の中村翼さんという方が「このぐらいやっちゃいたい」みたいな感じで(笑)。羽が落ちる音に「ウィン」とか絶対僕らのイメージでは付けないような音を付けて、そういうのがこの世界観だったら全然ありなんだなと思いました。

――不穏な感じがしましたね。動物の鳴き声などもかなり細かく聴こえてきて、普段の生活では見過ごしているところに別の世界があるんだなあと。

高橋 音でここまで印象が変わるのは初めてでしたね。音の重要性をあらためて感じました。

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ダリー・マルサン 日本 / 2014 / 103分
監督:高橋泉 出演:廣末哲万、大下美歩、松本高士、並木愛枝 ほか
製作:群青いろ 製作協力:カズモ
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第15回東京フィルメックス コンペティション部門出品

2015/01/10/19:23 | トラックバック (0)
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