――ミチロウさんが『お母さん』の公開時のトークの中でおっしゃっていたことなんですけど、盆踊りには「振付を知らないと踊れない」という問題点があるんですよね。だからその盆踊りでもみなさんなかなか踊りにくそうなんですけど、だんだん踊っていってしまうというのがすごいなあと思いました。

遠藤　そう、踊りは何でもいいんですよね。でも「何でもいい」っていうのがいちばん難しいんですよ。踊りたくてもどう踊っていいかわからないから誰かの踊りを真似して、結局みんなこんな感じ（手を左右交互にかざして）。どの曲をやってもそうなるから、「ああ、振付の基本はこれなんだな」って。

――確かに（笑）。

遠藤　1曲1曲全部振付が違っていたら大変ですよ。全部なじんでいないとできないから。ところがその基本と違うのもあるんですよ。福島の有名な民謡「会津磐梯山」って元々は違うんですよね。“なんとか踊り”（※）とか言って、それが速いんですよ。
※かんしょ踊り。「かんしょ」とは会津弁で「一心不乱、無我夢中になるさま」を意味する。

――えっ、「〽エイヤ～」じゃないんですか？

遠藤　いや、（かなり速いテンポでテーブルを叩きながら）「〽エイヤー、会津磐梯山は」ってもっとリズミカルで。普通の「〽エイ～ヤ～ア～」っていうのはどちらかというと歌のほうに力が行っているんだけど、本来はそのなんとか踊りって振付が自由なんです。みんな好き勝手に踊っていて「ああ、こういうのありなんだな」って。

――そうなんですか。それが復活したらどんな曲でも乗せられていいですよね。

遠藤　そうですね。振付というのはひとつの決まり事みたいなものじゃないですか。決まり事を守らないと参加できないというのは窮屈でもあるし、ある意味ではそれでみんな同じになる、同じ振付をすることで「みんな同じだよ」となるというのでもあって、そこはすごく相反するものがありますよね。フォークダンスでもそうなんですけど、絆的な感じで「みんな同じで繋がっているんだよ」っていうのもあれば、ある意味ではマスゲームみたいなものだから自由じゃないっていう。そういうことを感じますね。

――それは盆踊りをやってみて気づいたことですよね。

遠藤　ええ、この映画の中でも、志田名の盆踊りと、その前の浪江音楽祭の盆踊りと、橋の下世界音楽祭の盆踊りとで全部違うんですよ。浪江のはみんなきちんと同じ振付を踊っていて、志田名のは「自由にやって」と言ったけど結局みんな同じような感じで踊っている。橋の下になるとライブの踊りと一緒ですよ、勝手にみんなワーッとなっていて。

――(笑)。そういう場所による違いも興味深いですね。見ていてお祭りの意義についても考えました。

遠藤　そうですね。お祭りって、参加する人がそれぞれ自分の楽しみ方ができるお祭りだったらいいんですけど、今は違うじゃないですか。特に大きいお祭りだとやる側と見る側に分かれているし、ある意味観光資源のようになっちゃっていて。まあどこの町でもそれはありますけど、本来はそうじゃなくて、そこに住んでいる人たちにとってのハレのときなんですよね。日常から離れてそのときだけはハレの気分になるという、それがお祭りだと思うんですよね。

――そうですよね。平常があってのお祭りであって。橋の下世界音楽祭の主宰者が「何もないところを見てほしい」って言っていたのが印象的でした。普段はただのだだっ広い空間にあんな活気を生み出すんだから、お祭りってすごいなあと。

遠藤　空間から作っていこうみたいな世界ですからね。