レビュー

メイキング・オブ・モータウン

( 2018 / アメリカ,イギリス / ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー )
全国公開中
ベリー・ゴーディとスモーキー・ロビンソンの友愛

Text:青雪 吉木

『メイキング・オブ・モータウン』画像『メイキング・オブ・モータウン』場面画像1近年の音楽ドキュメンタリーとしては屈指の傑作。映画は、いきなりモータウンの品質管理会議の録音が流れるところから始まる。会議を仕切るのはもちろん社長のベリー・ゴーディだ。幼い頃からビジネスと音楽に興味のあったベリー・ゴーディはジャズを扱うレコード店を開くが、あえなくつぶれ、フォードの組み立てラインに勤める。そこで思いついたのは、この生産ラインの仕組みは自動車を作るだけでなく、ヒット曲作りにも応用できるのではないか?ということ。映画はこの後、“モータウンのビジネスモデル 組み立てライン”と題されたフローチャートの項目をひとつひとつ解き明かす形で進行し、ベリー・ゴーディが興したモータウンの歴史を語っていくが、何より90歳近くでも意気盛んなベリー・ゴーディと、ボブ・ディランが偉大な詩人と呼ぶソングライターにしてミラクルズのリード・シンガー、そしてかつての副社長でもある盟友スモーキー・ロビンソンとの掛け合いが楽しい。

モータウン全盛期のヒット曲やクリップが全篇に流れるのはもちろん、“ベリー・ゴーディの優れた能力のひとつは才能を見抜く眼力だ”とある意味凄い発言をするスティーヴィー・ワンダーを始め、マーサ・リーヴス、メアリー・ウィルソン、テンプテーションズのオーティス・ウィリアムス、あるいはソングライターのホランド=ドジャー=ホランドやヴァレリー・シンプソンなどモータウンゆかりのアーティストやスタッフが多数出演して証言し、さらにはジョン・レジェンド、サム・スミス、ジェイミー・フォックスなどもコメントで登場。ニール・ヤングがマイナー・バーズ時代にモータウンと契約し、振り付けも覚えさせられたという仰天発言も飛び出す。ドクター・ドレーの肩書のテロップが、ラッパー、音楽プロデューサーと並んで起業家となっていたのも、モータウンが成功したノウハウを明かすというこの映画の性格を考えれば当然である。

歌手には不向きで、声はクソだが口が達者で人の扱いが上手いミッキー・スティーヴンをA&Rに登用した結果、ジャズ・クラブのミュージシャンが集まり、モータウンを支えるセッション・バンド、ファンク・ブラザーズが出来たとか、それとは逆に秘書として入社したマーサ・リーヴスがあるきっかけで歌手になったとか、マフィアかと思うイタリー系の白人、バーニー・エイルズを販売宣伝部に呼んで集金とラジオ局へのプロモーションを任せたとか、常識を破る適材適所の人事がモータウンを成功に導いたという逸話も盛りだくさん。アーティストに自信と自尊心を養わせるためにマナー指導の女性を雇っていたというくだりは、白人と渡り合うにはそうでなければダメだと、ジェームス・ブラウンがバンドメンバーにスーツの着用を命じたエピソードを彷彿とさせる。

『メイキング・オブ・モータウン』場面画像2『メイキング・オブ・モータウン』場面画像3嫌がるマーヴィン・ゲイに“セイ・イェイ・イェイ・イェイ”と入れてみろとベリー・ゴーディが助言してヒットさせた「スタボン・カインド・オブ・フェロウ」、メアリー・ウェルズの「マイ・ガイ」の次はこれだとスモーキー・ロビンソンが書いたテンプテーションズの「マイ・ガール」、ステージ上のアンコールで出来てしまったスティーヴィー・ワンダーの「フィンガーティップス(パート2)」など、ヒット曲の裏話が続々と登場するのも見どころ。あるいはテンプテーションズとフォー・トップスがしのぎを削るライバル関係にあったとか、ソングライターが切磋琢磨して競い合う様子とか、社内の競争によって互いの価値を高め合いながら、同時にモータウン・ファミリーとして愛情を失わない社風があったことも描かれる。

ヒット曲の力は偉大で、もともとホランド=ドジャー=ホランドがマーヴェレッツ向けに書いた「愛はどこへ行ったの」を、それまで鳴かず飛ばずだったスプリームスに録音させて大ヒット。その後もスプリームスはヒットの快進撃を続け、ついには黒人として初めてエド・サリバン・ショーにも出演するという快挙を成し遂げる。テレビを観た当時の感激を語るオプラ・ウィンフリーとリー・ダニエルズも微笑ましい。そしてベリー・ゴーディ式のヒット曲生産ラインが功を奏した最後のアーティストと思われるジャクソン5の活躍。ここまではサウンド・オブ・ヤング・アメリカのヒット曲が放つワクワクするような昂揚感と共に、胸躍らずにはいられない。

だが、ホランド=ドジャー=ホランドが離反して裁判沙汰になり、天才少年として発掘されたスティーヴィー・ワンダーが契約更新時にセルフ・プロデュース権を条件にした辺りから、モータウンの栄光にも影が見え始める。ノーマン・ホイットフィールドとバレット・ストロングが書いた「クラウド・ナイン」は60年代末の時代を背景に、テンプテーションズがサイケデリック・ソウルに舵を切った曲だが、ベリー・ゴーディは会社としてドラッグを勧める曲は推薦できないと主張。品行方正なシングル曲を量産する会社は時代遅れに。商業路線で政治は扱わないベリー・ゴーディが、その反戦的な内容に難色を示したマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」は発売してみれば大ヒット。ベリー・ゴーディとのやり取りで“感じたことを書けと教えたじゃないか?弟はベトナムに行ったんだ”というマーヴィンの言葉には頷けるし、コンガ、マーヴィンのメイン・ヴォーカル、マーヴィンのコーラス…と、この曲のトラック音源の波形を一つずつ重ねていくシーンは、従来の制作とは違うことも示していて感動的。セルフ・プロデュースによる多重録音とマーヴィンの内省が結びついているのだ。さらにこの曲はベースのジェームス・ジェマーソンをバックにマーヴィンがピアノを弾きながら歌うライブシーンもあって、これもたまらない。

『メイキング・オブ・モータウン』場面画像4『メイキング・オブ・モータウン』場面画像5スモーキー・ロビンソンが“好きな曲は迷うが、アルバムなら『ホワッツ・ゴーイン・オン』”と語り、2020年にアップデートされたローリングストーン誌が選ぶ500のオールタイム・グレイテスト・アルバムでも第1位になるなど、今なお評価の高い『ホワッツ・ゴーイン・オン』は、アメリカの社会問題に言及したコンセプト・アルバムとしても大成功。ラブ・ソングばかりのシングルからアーティスト主導のアルバムの時代になり、かつてのモータウンの輝きも薄れていってしまうという流れを示して映画は終えていくが、結末は意外に明るい。

ダイアナ・ロスの「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」がかかり始める中、“モータウンは特別”とオバマが言い、“どこにも才能のある人間はいる。だがベリー・ゴーディというリーダーはいない”とスモーキー・ロビンソンが語り、ニール・ヤングは“モータウンはアメリカの文化だ 黒人文化に限らない”と述べるなど、絶賛の嵐には盛り上がるしかないという感じだが、当のベリー・ゴーディはスモーキー・ロビンソンを相手に“金儲けと音楽作りと女しか頭にない”ととぼけて笑わせる。そして最後に出てくるモータウンの社歌。

“私たちはイカした会社 毎日懸命に働く 身だしなみの整った社員 有能で知識も豊富
正直さが唯一の社訓 1人は1人のために 1人は皆のために どこよりも固い結束
ヒッツヴィル ヒッツヴィル ヒッツヴィルUSA!”

インタビューに登場したモータウン関係者が一様にどんな歌だったかしらと首をひねる一方、ベリー・ゴーディとスモーキー・ロビンソンは楽しそうに歌う。あれだけヒット曲を連発したレーベルとは思えないすっとこどっこいな曲なのが可笑しい。次第に立ち行かなくなっていくモータウンの歴史とは裏腹に訪れる幸せな気持ち。モータウンを支えたのはこの2人の友愛なのだ。そしてエンドロールに流れるマーサ&ザ・ヴァンデラスの「ヒート・ウェイヴ」を聴き終えた頃には、即座にもう一度観たくなるだろう。ブラック・ライヴ・マターズが叫ばれる今、少しでも黒人音楽に興味があるなら、いやヒット曲が人種や国境を越え、精神的な絆を生むことを理解したいなら、必見の映画であることは間違いない。

(2020.10.5)

メイキング・オブ・モータウン ( 2019/カラー/5.1ch/アメリカ、イギリス/ビスタ/112分 )
監督:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
出演:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン
字幕翻訳:石田泰子 監修:林剛 配給:ショウゲート © 2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved
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全国公開中

ヒッツヴィル:ザ・メイキング・オブ・モータウン(サウンドトラック) ヒッツヴィル:
ザ・メイキング・オブ・モータウン
(サウンドトラック)
2020/10/05/19:00 | トラックバック (0)
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