多くのファンの関心を受けて9月1日に上映された「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序 EVANGELION:1.0 YOU ARE (NOT) ALONE」。僕は本作を初日朝イチに気合を入れて見に行った口である。観にいくこと自体がここまで楽しかったのも本当に久しぶりだ。4部作の第1弾としての本作品は、確かにこれといって目新しいところはないものの、第1話から第6話までを破綻なく1本にまとめた内容は満足できるものだった。
だが先に断っておきたい。この作品の評価は相当高いハードル越えのように思われる。本作観賞後、ネットで鑑賞者の感想を見ると大体誰かが先に自分の読みを絶対に言っている。それに今まで数多くの謎本が出版され、この10年の間に作品構造の解釈はあらゆる方面から嘗め尽くされてきたという経緯がある。ここで改めて作品解釈を滔々と語ったところでたちの悪い二番煎じとなるのが落ちだ。また一方でアニメに抵抗のある前作未見者と思しき人の酷薄で感情的な作品評を見ていると、モラル、節度という以上に本作に言及することの難しさに直面する思いがする。「エヴァンゲリオン」という作品の性質上、確かに観客自体へと評価が向きがちではある。それはなぜか。「エヴァンゲリオン」は、アニメというサブカルチャーへの受容姿勢が浸透しないうちに社会現象にまで広がった。するとやはり評価をするときには、しぜんあの異常とも見える社会現象を意識してしまう。その異常なほどの波及力の中に作品を読み解くカギがある、と見るからだ。しかしその評価はいわゆる「オタク文化」の社会認知と密接にリンクし、感情的な側面を持つ傾向もある。ここが問題となる。だからこそ、本作を評価するのはいずれの面からも困難だと今更ながら痛切に感じるのだ。個人的には本作での新たな発見と興奮を人目もはばからずお伝えしたいところだ(現実に多少やってしまった)が、度を過ぎるとそれこそ救い難いことになろう。今回は少なくとも作品解釈や社会現象についての無軌道な言及ではなく、できる限り自分のスタンスを踏まえた上で、本作がいかなるものと映ったか、その考えを伝えておきたい。
先にも述べたように本作は、TVアニメの第1話から第6話までを98分の中にまとめたものである。一見TVアニメ版と比べて内容は大差ないようにも思えるが、実際には一本に収める際に冗長となる部分―つまり沈黙や情景描写、回想による特定のプロットの強調など―は大幅にカットされ、流れをわかりやすくするためにストーリーは時系列的に並べられている。またTVアニメ版は監督が毎回異なっており、そのため1話ごとに絵柄はともかく世界観への切り口、テーマさえそれぞれ異なっていた。それを作画の段階から統一し、物語自体の再構成を図って1つの物語と編み直しているのだが、その結果TVアニメで不十分であった世界観と物語の説明が非常にわかりやすいものとなっている。
また、かつてTV版では作品全体に漂う陰鬱な感じ、つまり登場人物の内省的な側面が目立つように感じられる点もあった。主人公の内向的な性格も手伝ってか、これは人と人の関係に微妙だが決定的に埋めがたい隔たり、つまり“分かり合えなさ”を生み出していたのだが、その原因の一端は作中の沈黙や情景描写、各話構成という断章的な流れの不順さに負うところが大きい。しかし今回は前作の特徴を抑えてまとまりを持たせることで、「エヴァンゲリオン」という世界をより精緻に描出することに成功している。さらにはサブキャラの活動シーンを大幅に織り込むなど彼らの心情描写にも配慮を行き届かせており、感覚の共有や不和といった登場人物たちの有機的なつながりまでもがフォローされるものとなっている。もちろん、10年という歳月を経て視聴者が作品に改めて向き合って、理解を深めるという側面があることも十分に考えられる。
ともかく旧作と本作の全体的な違いは、いわば「ズレ」と「調和」という言葉に集約されると言ってもよいだろう。
タイトルに視点を移すと、ここでもいくつかのことが確認できる。まず副題“You are (not) alone”。これは今回の作品のテーマとして大きな意味を持っている。主人公シンジが一連の経験を通して何を感じ、何を得るか。そういう意味で、今回の作品は位置づけられているともいえる。次に「序」「破」「急」「?(完結編)」という4部作として予定で作られた第一作「序」は、その名の通り「本風」として、かつての作品と違和感なく、むしろ調整し取りまとめている感がある。しかし次回は「破」である。「序を破りて細やけて色々を尽くす」と本阿弥の能楽論にはあるが、予告篇を見る限り新しい設定が次々と盛り込まれ、本作は新たな道を歩むことになるのだろう。因みに「急」はその「揚句」で、「破を尽くす所の名残」となる。今までとは違う「エヴァンゲリオン」が期待できる。
しかし、旧作の未見者にとってこの作品はどう映るのだろうか。一定のテーマを掲げた上で、旧作よりも統一感のある内容となっており、過去の作品を見ずとも充分に楽しめるものとなっているとは思う。だが本来、本作は設定の大部分が伏せられたままで進行する性質の作品である。そのため、初めての人にとっては突然巨大ロボットに乗せられる主人公さながらに「何故こんな話になっているのか」と戸惑い、例えば「大日本人」(2007)のように大掛かりなハッタリかと思うことがあっても致し方あるまい。それに第一、本作が一般的な新作として位置付けられてはいないことも指摘しておきたい。本作の仮題は「REBUILD OF EVANGELION」であった。かつてのアニメ版や劇場版の視聴者に向けて作られたという要素が強く、旧作での名シーンを再確認し、新たな視点で描かれるエヴァワールドを発見することがこの作品の意義でもある。いや、過去の経緯を踏まえ、新たに過去を語り直す行為そのものが本作なのだ。それはかつて「新世紀エヴァンゲリオン」に熱中した一ファンとしても同様のことが言える。あの熱狂をもう一度体験したい、いかなるものだったか再確認したい、その思いで劇場に足を運んでいる点は大きい。現在の自己を形作った過去に改めて向き合い問い直すという意味で、本作を見る価値は充分にある。その上で誤解を恐れず言えば、実は根本的に本作の出来云々すら問題ではない。本作を観に劇場に向かうこと、それ自体がエヴァファンにとっての一大イベントなのだから。
(2007.9.9)
ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序 2007年 日本
原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:摩砂雪,鶴巻和哉
主・キャラクターデザイン:貞本義行
主・メカニックデザイン:山下いくと
声の出演:緒方恵美,林原めぐみ,三石琴乃,山口由里子,立木文彦,清川元夢,関智一,岩永哲哉,岩男潤子 他
(c)カラー・GAINAX
9月1日よりシネマスクエアとうきゅうほか全国公開
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結論から言うと、思い出は汚されませんでした。ちと悔しいけど。(^^ゞ
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