――とても素晴らしい映画で感動しました。水木しげる夫婦を描きながら、時代に関わらずクリエイター、それはマンガ、映画に関わらずにエールをおくっている作品だと思いました。

鈴木卓爾（以下、鈴木）　ありがとうございます。そのことは触れておきたかった事のひとつでもあります。伝わって嬉しいです。マンガだろうが映画だろうが何かを作っている人たちにとって、50年前と何も変わっていないということです。

――鈴木監督は、最近も動脈硬化に注意を促すCMに出ていたりと俳優としても活躍されていますが、映画では「トキワ荘の青春」で藤子不二雄Aを演じているのがとても印象に残っています。惜しくも急逝してしまった市川準監督作品で、市川監督に対する思い、すなわち先の質問の「クリエイターに関する思い」もあったのでしょうか？

鈴木　とてもありました。個人的な事なのですが、あれだけの役を長編映画で演じさせてもらったことは大きな経験ですし、市川監督との出会いはとても大きなものです。奇しくも、「トキワ荘の青春」でマンガ家を演じて、今作でマンガ家を主人公にした作品を監督したのは何かの縁を感じます。市川監督に捧げる想いはあります。

――「トキワ荘の青春」で鈴木監督が演じる藤子不二雄Aが机に向かってマンガを描くシーンと、今作「ゲゲゲの女房」で宮藤官九郎さんが演じる水木しげるがマンガを描くシーンの撮り方が似ているとも思いました。人物の右横から撮っている構図です。

鈴木　部屋の作りと机の位置からも、あの構図になっているのですが偶然とはいえ、映画って不思議だなとつくづく思いました。

――こちらも助監督や照明助手などをしていたので、何度も経験あるのですが映画の現場は不思議な偶然性のあることが起こることがあります。スタッフ・俳優が共に強い集中力を発揮しているので、超自然的なものはあまり信じないのですが、磁場のようなものが生まれているのではと思っています。

鈴木　あれは何なんでしょうね。映画の不思議さと魅力を感じる瞬間ですね。例えば、前作の「私は猫ストーカー」では、実際のノラ猫を主人公が追う様子を同じ撮影監督のたむらまさきさんが撮ったのですが、そのような不思議な偶然が何回も起こりましたね。幸福な偶然だと思っています。

――映画の撮り方で興味深かったのが、戦争などの過去のシーンおよびマンガで描かれてる内容が、カメラがパンすると同じ場面内で展開されたりすることです。「私は猫ストーカー」でも主人公が元恋人に電話して、送ってもらったリンゴのお礼を伝えているシーンでも、同じような手法を使っています。

鈴木　ありきたりな手法で語りたくないというのがあるんですよね。過去のシーンをフラッシュバックにするとか、マンガの内容を映画の中における、おとぎ話しのように語るとか。そこでの工夫が映画にとって大事ではないかと思います。

――そういう意味で思い出したのが、鈴木監督と同じく、脚本家としても活躍しながら、素晴らしい監督作もいくつもあり、俳優もしているジョン・セイルズの「真実の囁き」（96 、原題’Lone Star’、日本未公開ビデオリリースのみ）です。アカデミー賞のオリジナル脚本賞候補にもなった秀作で、この作品でも同じように過去がワンシーンで展開されて、この作品以降、アメリカ映画で同じような手法が一時、使われるようになりました。

鈴木　その映画は知らないですが、面白そうですね。

――セイルズによると、予算が少ないのを逆手にとったのと、ラテンアメリカの文学の手法を意識したりもしたそうです。予算が少ないというので思い出すと、ヨーロッパ映画でも見る手法でもあります。

鈴木　映画はそうやって時代も国も関係なく、影響を与え合っているということですね。他の表現形式である文学などからも。そういうことでいえば、日本では鈴木清順さんなんか凄いですよね。

――確かに清順さんはそうですね。大好きな作品ですが「野獣の青春」とか、その点で凄まじいです（笑）。

鈴木　襖を開けると、全く予想もつかないシーンにつながっていたりしますからね（笑）。映画の面白さに気付かされます。

――最後に監督から、このインタビューを読んでいる方々へ言葉をお願いします。

鈴木　主演の宮藤官九郎さんと吹石一恵さんを筆頭に演技も素晴らしく、自信のある作品に仕上がりました。是非、劇場のスクリーンで観ていただけたらと思います。

――本日はありがとうございました。

取材：わたなべりんたろう