インタビュー
内田伸輝監督

内田 伸輝 (映画監督)

映画「ふゆの獣」について

公式

2011年7月2日(土)より緊急レイトショー! テアトル新宿 他順次全国

昨年の東京フィルメックス・コンペティションで最優秀作品賞を受賞した内田伸輝監督の『ふゆの獣』がいよいよ劇場公開される。予算は110万円、男女4人の登場人物が繰り広げるのはありふれた今の若者の恋愛事情。だが幻想ゼロの小さい物語はやがてドラマティックに疾走を始め、恋愛の普遍的な神秘さは海外からの審査員の心も掴んだ。役者たちを追い込み、烈しく強靭な恋愛ドラマを作り上げた内田監督に、即興の演出術やキャラクター作りなどをうかがった。(取材:深谷直子

内田伸輝 1972年11月20日、埼玉県上尾市生まれ。画家を目指し油絵を学んでいたが、高校時代に映画に目覚め、絵筆をカメラに持ち替え独自の世界観を映像で表現し始める。ドキュメンタリー『えてがみ』、長編劇映画『かざあな』と数々の映画祭で受賞。長編劇映画2作目となる本作で、前年『息もできない』が受賞した、第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を獲得。その恐るべき才能に新時代の映像作家として高い期待が寄せられている。

――『ふゆの獣』は昨年のフィルメックスで観て、スリリングな心理ドラマにかつてないぐらいの衝撃を受けた作品です。公開が決まってとても嬉しく思っています。

内田伸輝監督2内田 ありがとうございます。

――この作品のいちばんの特徴というのは、大まかなプロットを基に役者の即興で展開していく即興劇の手法にありますが、こういう作品を撮ろうとしたきっかけから教えて下さい。

内田 前作の『かざあな』(07)でも即興の恋愛ドラマをやったのですが、ドキュメンタリー風な部分が強く、撮影期間も3年間という長い期間だったので、もっと短くコンパクトにして凝縮した恋愛ドラマを撮りたいと思って取り組みました。

――『かざあな』もプロットだけがあって、役者に即興してもらう感じだったんですか?

内田 はい、前作では本当に大まかなプロットをほとんどメールのやり取りで役者に伝えていました。大体土日を使って撮影していたんですけど、木曜日ぐらいに撮るシーンのプロットをメールで送って、撮影日になると「用意、スタート」とかもなしで、もう駅に着いたらカメラを回し始めるという感じでやっていきました。今回は現場に行って打合せをしてから撮影を開始して60分間長回しで撮るという感じでした。

――前作よりは今回の『ふゆの獣』の方が緻密にストーリーができていた感じだったのでしょうか?

内田 そうですね、ただあまり緻密過ぎるのは自分自身正直好きではなく、大雑把な部分があえてほしいというのもあるので、役者任せにして彼らが何を起こすか分からない状態で撮っていく楽しさというのを狙っていました。

――役者任せとは言っても偶然で面白くなっていくわけではないと思うので、役者をそこに導いていく、追い込んでいくというところが監督の手腕だと思うんですが、即興の演出というのはどんな感じでされるんですか?

内田 まず登場人物ひとりひとりの詳細なバックストーリーを書いていくんです。そこには生まれたときから現在に至るまでの背景が細かく書いてあり、その上で現在の主に精神状態を、まあ言わば小説風にシーンシーンで書いていって、あとは役者さんに自分で役を追い込んでいってもらうという形にしました。本当にちょっとしたことを役者さんに言って自分で考えざるを得ない状況に追い込み、自発的な行動をさせていったという感じです。

『ふゆの獣』『ふゆの獣』2――撮影は監督ご自身と、あともう1台カメラを回すというやり方ですが、即興で役者がどう動くか分からないというのは難しいのではないですか?

内田 いや、楽しかったですね。どう来るのか分からないので毎回毎回役者との勝負をする感じがあって、とてもワクワクしました。撮っていて自分自身がワクワク・ドキドキしたりしないと撮った気がしなくなってしまって、どうやればドキドキするかを考えながら役者さんを煽りつつ撮っていきました。

――撮影期間は2009年の年末から2ヶ月ほどの土日を使って、実数で言うと14日間かけたということですが、順撮りだったんですか?

内田 順撮りのところもあれば、そうでないところもありますね。基本的には順撮りで進めていったんですが、補足するシーンが必要だったり、スケジュールの都合上どうしても先にこっちを撮らなければ、というところもあったので、そういうときは順撮りではなく撮っていきました。

――感情の移り変わりを追うためには順撮りなのかと思いましたが、そこは合理的にやっていったのですね。また、撮影日数もタイトなら場面も限定されていますよね。シゲヒサの部屋と駅の地下道と、会社だったら屋上っていうふうに。なんだかお芝居のようで非常にシンプルだなと思いました。でもユカコが身体を拭くのに屋上でするのか、というようにちょっと強引なところもありますね(笑)。

内田 そうですね、普通身体を拭くならトイレだろうと思うんですけど、そこはあえて屋上でというゴリ押しで(笑)。元々身体を拭くというのはユカコ役の加藤めぐみさんのアイディアで、屋上で突然その演技を始めてしまい、僕もそれを見て面白いと思ったので広げていったところがあるんです。まあ力技の映画って好きなので自分としてはすごく楽しくやりました。

――ストーリーとしては職場の同僚4人だけで成り立つ物語で、すごく狭い世界ですよね。最初のうちはこれが面白くなっていくんだろうかと疑いたくなるようなところがあったんですけど、見事中盤で膨らんで。こういう設定にしようと思った狙いは何ですか?

内田 まず狭い世界がすごく好きだったんですよね。4人の中で物語が展開していき、その小さい世界の中だからこそお客さんも共感をしてくれるのではないかなと思って、あえて最初から4人という設定でやりました。

――確かに、リアルな痴話げんかのような、言ってしまえばくだらないやり取りが続いて映画でこれをやるのかと思いつつ、「分かる分かる」って見入ってしまうんですよね。役者さん4人もなり切ったいい演技で、特にユカコ役の加藤めぐみさんが圧倒的でした。最初は弱々しいのにどんどん変身していって、最後は野性的でふてぶてしいようなところもあって。

『ふゆの獣』3『ふゆの獣』4内田 めぐみさんは役にワッと入り込む方なんですよ。終盤に恋人のシゲヒサを追いかける場面がありますが、スケジュールの都合上、シゲヒサ役の佐藤博行さんが来られなかったので、あそこはめぐみさんの一人芝居なんです。でも彼女はいないはずのシゲヒサが見えたって言ってました。

――すごい。編集だなんて思いも寄りませんでしたし。そのシゲヒサの方はユカコと好対照ですね。誰に対しても高圧的だったのに、最後は仔犬のように不安げで。

内田 シゲヒサ役に関しては、彼はアダルトチルドレンなんだというのが明確な意図としてあったんです。それまで散々毒づいていたのに、誰も追ってこなくなると関心を持たれなくなったのではないかと不安になって、子供のようにシュンとしているっていうのがラストのシーンでの彼の行動として佐藤さんと話し合って出てきたものでした。

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ふゆの獣 2010/日本/カラー/ステレオ/92分
監督・編集・構成&プロット・撮影・音響効果:内田伸輝
制作・撮影・スチール・ピアノ演奏:斎藤文 録音:日高隆 制作進行・衣装・小道具・車輌:内田文
ヘアメイク協力:高橋萌 制作協力 杉沼えりか 部屋提供:日高隆 協力:長谷川恵 零式 製作:映像工房NOBU
出演:加藤めぐみ,佐藤博行,高木公介,前川桃子
配給:マコトヤ All Rights Reserved. (c)映像工房NOBU
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2011年7月2日(土)より緊急レイトショー! テアトル新宿 他順次全国

2011/06/26/18:59 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー
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