今泉 力哉 (映画監督)
映画「こっぴどい猫」について
2012年7月28日(土)より、新宿K’s cinemaにてレイトショー!
若者たちの微妙な恋愛模様を描く自主作品で数々の映画賞を受賞し、2010年に伝説のバンドのドキュメンタリー『たまの映画』で商業デビューを果たした新鋭・今泉力哉監督。60歳を迎えたモト冬樹を主演に据えた『こっぴどい猫』では、総勢15人による複雑怪奇な恋愛群像劇を昭和的なやさしさといかがわしさの中に描き、またも新境地を見せてくれた。なんと取材に赤ちゃん連れでいらした人間味たっぷりの今泉監督に、絶妙なキャスティングや脚本作りでの試行錯誤、取材前日に撮ったという本作のスピンオフ作品についても語っていただいた。(取材:深谷直子)
――お忙しくて大変ですね。でも結婚したら映画が撮れなくなるかもという不安は乗り越えられたということで。
今泉 撮ってますね。友達の話とかが元ネタになったりしてます。実体験みたいなことも登場人物の恋愛観とかに関してはあったりしますね。例えば、弟役のできちゃった結婚のくだりとかは、あそこまで愛情がない感じじゃないですけど嫁と自分が本当にできちゃった結婚だったりもするので、やっぱりこういう生活なので子供ができなかったらもっと結婚は先だったかもというのはリアルにあって。そういうのを劇中で過剰にやらせたりということは結構していますね。
――映画のために自分の経験とか友達の話とかを集めてしまっている感じですか?
今泉 そうですね、メモったりはしていないけど話として面白いものは映画にしたりしていますね。別れた後に子供ができているのが発覚しちゃった知り合いがいて、過去に映画にしていますし。大きい事件ではなくても身近にいっぱい映画にできる話はあるなあと思っていて。
――今回の作品もそういう小さいエピソードの積み重ねから始まって、主人公が最後に爆発するシーンはすごかったですね。
今泉 モトさんのポテンシャルを今までに見てきているので、その面白さは使いたいなと思いましたね。でも自分の想像している感じとは全然違うものになって、やっぱりすごいなあと思いましたね。あれだけ長いセリフをあれだけやって、しかも間にアドリブも入ったりもしてて。本当に面白かったなあ。
――ご自分でやっていても面白いんですね。
今泉 あの日は相当いろいろあって、自分が現場で思考が停止するという事態に陥ったりとかしてて。撮影が7日連続であって、7日目にあの立ち回りをやったんですけど途中からわけが分からなくなってきて。撮影とか助監督とかずっと一緒にやっているスタッフから「今泉は何がやりたいの?」と訊かれて、「俺は手持ちで寄りが撮りたい……」とか答えると「じゃあそれやろう!」と、病人を扱われるような。
――(笑)。
今泉 あれはもう本当に限界という状況でやってました。でもそういうのもモトさんにも見られてたけど、モトさんは自分からあの長回しのところのリハとかも何度もやってくれていたし。面白かったですね。撮影はちょうど去年の今ごろでしたね。8月1日から7日までと、ちょっと間が空いて11日の8日間で撮りました。
――限定されたシチュエーションのお話とは言え、8日間というのは大変そうですね。
今泉 タイトでしたね。
――特に順撮りとかではなかったんですか?
今泉 活かせるところは順撮りしつつ、場所ごとにまとめて撮りましたね。モトさん演じる高田と小宮(一葉)さん演じる小夜の二人の部屋のシーンとかは、そんなに量があるわけではないですけど2日間かけたりとか。演奏もあったのでゆっくりやりました。
――ピアノもすごくよかったですね。
今泉 小宮さんは今回の作品で唯一過去にも出てもらったことがある女優なんですが、音大を出てピアノが弾けることも知っていたんです。僕はクラシックとか全然分からないので、曲選びとかも相談して。台本とかで内容を見てもらって任せていました。
――そうなんですね。音楽も監督が詳しいのかと思っていました。
今泉 いや、全然。弾いてもらって「あ、いいんじゃないすか」みたいな。基本的に人に任せてやっていくスタイルです。丸投げスタイル(笑)。
――(笑)。でも脚本から編集まで自分でされていますよね。
今泉 そうですね、そこだけはやると言うか。
――そこは自分でやりたいところなんですか?
今泉 いや、今はそうしていますが、脚本も編集も別の人でやれるような機会があればやってみたいとは思います。でもこの作品に関しては毎日のように脚本を差し替えたりしてて。その日の朝「すみません、今日の台本ちょっと変わります、これです」っていうのを8日間連日やってたんです。書き上がっている脚本にまだ自信がないと言うか、ギリギリまで探っていて。さらに編集のときにシーンの入れ替えもガンガンやってたので、この作品に関しては人に任せられない作り方で。全然決まっていなかったという。
――そうだったんですか。緻密に作り込まれた脚本で、これは書いて「やった!」って自信たっぷりな感じだったろうなと思っていたんですが。
今泉 いや全然……。撮影前のあの準備稿を見てこういう映画になるとは誰も思っていない状況だと思います。しかも差し替えを毎日やっていたので自分が出ていないシーンがどう変わっているかも分からない人がいっぱいいて、出来上がりを観て「こんなところなかったじゃん!」というのがいっぱい起こっている映画ですね。
――でもこの脚本が今度出る「月刊シナリオ」(9月号)に掲載されるんですよね?
今泉 だからそれが大変なんですよ。全然違うシナリオが載るっていうことになるんで。
――あ、最終版じゃないんですか?
今泉 最終版ってものが存在しないので、どうするか迷った挙句撮影3日前版というみんなの手元に初めて行ったシナリオを載せてもらうことにして。ただ終盤があまりに違うので、当日こう差し替わりました、というもう1個のバージョンを載せてもらうことにしました。なので映画と比べて見てもらえると現場中にここまで面白くなったんだということが分かると思います。
――あんまり面白くないんですか(笑)?
今泉 全然ヤバイですね。久々に元の脚本見てびっくりしましたからね。「こんなひどいの配ってたんだ。こっから、完成まで、俺がんばったー」って思いましたよ(笑)。撮影期間中と編集をよくがんばったなあと本当に思うぐらいあの脚本はボコボコでしたね。ド頭のシーンから違っていて、普通に男二人が殴り合いをしているシーンになっていて、そこを猫が横切る、タイトルインとか書いてあって、しかも助監督含め、誰も猫を用意してないっていう(笑)。「これ猫はいらないですよね?」「あ、いらないです、書いただけです」みたいなツーカーな感じが素晴らしいなと。
――そういうツーカーですか(笑)。助監督は平波(亘)監督ですよね。
今泉 はい、平波さんとじゃないと映画撮れないですね。もうここ10本ぐらいで助監をやってもらってます。先週も撮影やってそれも助監をやってもらったんですけど、それでもう平波さんは自分の助監人生を閉じるって言ってました。やり過ぎなんで、彼は。自分でも映画を撮っているのに人の助監をやり過ぎて、どうやって生きてるんだろうって思うぐらいで。自分は昨日また別の作品の撮影をしていたんですけど、それは平波さんが久々にいない現場になりました。大変でしたね。
監督・脚本・編集:今泉力哉|撮影:岩永洋|照明:長田青海|録音:宋晋瑞
助監督:平波亘|衣装:山本屋歩|ヘアメイク:寺沢ルミ|制作:手島昭一
アソシエイト・プロデューサー:一ノ瀬優太朗|エグゼクティブ・プロデューサー:小西亮一
出演:モト冬樹,小宮一葉,内村遥,三浦英,小石川祐子,平井正吾,後藤ユウミ,高木珠里,結,工藤響,今泉力哉,木村知貴,前彩子,泉光典,青山花織
企画・製作:DUDES/1gramix.|配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS ©2012 DUDES
2012年7月28日(土)より、新宿K’s cinemaにてレイトショー!
- 監督:今泉力哉
- 出演:芹澤興人, 天正彩, 川上望美, 小宮一葉, kia
- 発売日:2010/11/05
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