今泉 力哉 (映画監督)
映画「こっぴどい猫」について
2012年7月28日(土)より、新宿K’s cinemaにてレイトショー!
若者たちの微妙な恋愛模様を描く自主作品で数々の映画賞を受賞し、2010年に伝説のバンドのドキュメンタリー『たまの映画』で商業デビューを果たした新鋭・今泉力哉監督。60歳を迎えたモト冬樹を主演に据えた『こっぴどい猫』では、総勢15人による複雑怪奇な恋愛群像劇を昭和的なやさしさといかがわしさの中に描き、またも新境地を見せてくれた。なんと取材に赤ちゃん連れでいらした人間味たっぷりの今泉監督に、絶妙なキャスティングや脚本作りでの試行錯誤、取材前日に撮ったという本作のスピンオフ作品についても語っていただいた。(取材:深谷直子)
今泉 力哉 (いまいずみ・りきや) 1981年福島県生まれ。自主映画『微温』『最低』がそれぞれ映画祭でグランプリを受賞。2010年『たまの映画』で商業デビュー、2011年『終わってる』を発表。2012年には音楽×映画をテーマにした映画祭「MOOSIC LAB」で審査員グランプリと監督賞をW受賞。近作にオムニバス映画『ヴァージン』に収録の『くちばっか』などがある。
――『こっぴどい猫』をとても面白く拝見させていただきました。今泉監督はとても多作で、ホームページのフィルモグラフィーを見るとこの作品が20作目ということですよね。自主作品から、最初から劇場公開作として撮られているものまでいろいろある中で、この作品はモト冬樹さんという誰でも知っているタレントさんを主演に迎えたということで監督の中でも大きな映画になったのではないかと思いますが、どのようなきっかけで撮られたんですか?
今泉 モトさんの事務所の社長さんが自主映画とかいろいろ観たりされている方で、モトさんの60歳を記念してディナーショーとかもいいんですけど何か形に残るものをできないかという中で映画が出てきたらしいんです。で、たまたま自分の知り合いで製作をされている方が何かのモトさんの現場で社長さんとお話をする機会があって、「映画を作りたいんだけどそんなに簡単にできるものですかね?」と相談を受けて「できますよ!」と安請け合いしたのがきっかけですね(笑)。その後、社長さんが自分の作品を観て気に入ってくださって、それで話をいただいたんです。
――脚本もとても凝った面白いものですが、モトさんの映画としてお話をいただいてから書かれたんですか?
今泉 そうですね、モトさんが主演の長編映画ということ以外は自由に、他のキャスティングに関してもストーリーに関しても一切注文はなくやらせていただきました。
――モトさんは作家役ですが、役柄のアイディアはどのようにして思い付いたんですか?
今泉 話をいただいたときに脚本が全然書けなくて。それはモトさんの映画だということでプレッシャーがあったり、ある種「チャンスだ!」と思ったりしたからなんですが。それまでは若者たちのダメな恋愛映画をずっと撮っていて、年齢的に60代の方が出る作品を撮るのも初めてだったので、そういうことからも書けずにいたんですけど、迷った挙句最終的には自分が撮り続けてきた若い人たちの映画の中にモトさんが普通に入っているという映画を作ろうと考えたんです。そうした中で、普通に働いている人ではなく作家で、しかも今は書いていない作家だとしたら、フリーターとかと同じように毎日どこにいてもいい、自由にできるキャラクターだなというのがあって。あとは作家の家とかは分からないんですけど、そういうものに惹かれている部分があって。それを着想してから映画の中で小説とか文章とかを使っていったらどうだろうかと考えました。自由が効くキャラクター、職業だということでそうしました。
――元々監督は文学もお好きなんですか?
今泉 いや、自分は今でも小説はそんなに読みませんし、昔はいちばん苦手な科目が国語という感じで、漢字とかも全然で。うちの父親が昔小説を書きたかった時期が多分あったらしく、それっぽい本が家にあったりしていたんですけど、国語のできなさから父親に結構いろいろ教えられ、小説を読むということではなく映画も勉強になるらしいとビデオをいろいろ観たりしました。だから本当に小説とか文章を読むことは得意ではなかったですけど、中学・高校で映画を観まくったりはしていましたね。
――そうなんですか。でも映画には文壇の雰囲気とかも感じられますよね。
今泉 ああ、机とか。自分の中でアナログ的なものへの憧れがあって、やるんだったらパソコンではなくて原稿用紙とかカセットテープとかわざと今の時代のものではないものでやりたいなと。
――監督自身の雰囲気にも合ってらっしゃいますよね。無頼派と言うか。
今泉 基本的にアナログ人間で。パソコンも編集に使いますけど、その編集ソフトは分かるけどエクセルがいまだにまったく分からなくて、スケジュールを組むのとかも自分ではできないですし、ワードも文章を打つことしかできなくて、いつもテンパりながら使っています(笑)。
――モトさんを役者さんとして演出して、これまでと勝手が違うようなところはあったのでしょうか?
今泉 モトさんはやる前に自分の過去作品もきちんと観てくれていて、ドキュメンタリーではないですけど生っぽいところをすごく面白がってくれていたんです。個性が強くて『ヅラ刑事』(06)のように映画ではいじられることが多い方なので、ご自分でもこれは挑戦だと思っていたようで、逆に「今泉くんの映画に違和感なく入れるかな?」と現場に入る前から言ってくださっていました。もうそれを考えてくださっている時点で、「あ、これは大丈夫だな、ありがたいな」と思っていて、特に不安はなかったです。モトさんの理解があったというのがとても大きく、あとは自分としては家族ものに憧れてはいたけど年代が上の人が出ないと成り立たないので、ある種家族もののようなことができたのはよかったなと思いますね。
――本当にモトさんはいつもは押しの強いイメージですが、今回はサラッとした純愛モードで素敵でしたね。
今泉 いつもの映画のモトさんみたいな感じではないものを自分がやるからには出したいと思っていました。なるべく自然にただ淡々と、普段のモトさんがどうなのかは分からないんですけど、普通に喋っているような芝居でやってもらって派手さを削ぎ落としていったら、元々アーティストの方なので声とかがすごくいいことが伝わってきたりとか、色気があるなというのを感じたりしました。
――この映画はとても淡々と始まって、でも徐々に狭い世界の中で人間関係が錯綜していってとんでもないことになるんですけど、これまでの映画も恋愛などの小さい世界のお話を撮り続けていらっしゃいますよね。
今泉 そうですね、誰かが亡くなったりとか大きい事件を描くことよりも、浮気をしたりそれがバレたりとか、人間関係の小さい揉め事を描くことが多くて、この作品はその集大成にしようと思いました。……とか言いながらこの後もそういう映画を撮っているんですけど(笑)。でもやっぱりそういうのに興味があって、大きい分かりやすい映画によくするようなテーマとかではない、もっと日常の中にもドラマとか怖さとかがあるなと思って撮っていますね。
――恋愛の素敵さというものがすごく伝わってくる作品だと思いました。どんどん面倒臭いものになってはいくんですけど(笑)。モトさんの役は奥さんが亡くなってから黄昏れていたのが、恋愛に出会って生き生きとしてまた書くことも始めるというものでしたが、監督にとっても恋愛は活力になったりするんですか?
今泉 そうですね、結婚しているのであんまり言えないんですけど(笑)、それはありましたね。恋愛経験が多いわけでもないんですけど、好きな人がいない時期がないぐらい誰かがずっと好きで、告白してフラれて、っていうことを繰り返していて。だから結婚したときに怖いなと思ったのが、ネタもですけどモチベーション的に映画が作れなくなるんじゃないかということでした。「ヤバイ、これは映画が作れない状況になるな」と。
――今泉かおり監督が奥様ですが、結婚されたのはいつですか?
今泉 2009年の8月に籍を入れて、結婚式が11月です。
――あ、じゃあもうすぐ3周年ですね。
今泉 そうですね。毎年「あ、今年も撮影だ」という感じで記念日的なことも何にもしたことがないです。あんまりそういうのに怒ったりしないんですよね、お互いにですけど。
監督・脚本・編集:今泉力哉|撮影:岩永洋|照明:長田青海|録音:宋晋瑞
助監督:平波亘|衣装:山本屋歩|ヘアメイク:寺沢ルミ|制作:手島昭一
アソシエイト・プロデューサー:一ノ瀬優太朗|エグゼクティブ・プロデューサー:小西亮一
出演:モト冬樹,小宮一葉,内村遥,三浦英,小石川祐子,平井正吾,後藤ユウミ,高木珠里,結,工藤響,今泉力哉,木村知貴,前彩子,泉光典,青山花織
企画・製作:DUDES/1gramix.|配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS ©2012 DUDES
2012年7月28日(土)より、新宿K’s cinemaにてレイトショー!
- 監督:今泉力哉
- 出演:石川浩司, 滝本晃司, 知久寿焼, 大槻ケンジ
- 発売日:2011/07/02
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