大友 啓史 (映画監督)
映画「るろうに剣心」について
2012年8月25日(土)より全国公開中
「るろうに剣心」を観るきっかけを与えてくれたのは村上淳さんことムラジュンさんだった。三宅唱監督の「Playback」の初号試写を観に東映ラボテックを観に行ったときに主演のムラジュンさんが「今、『るろうに剣心』の試写を観てきたけど、いやー面白かったよ。林太郎くんも観たほうがいいよ!」と薦めてくれたのだった。「龍馬伝」の意欲的な姿勢は素晴らしかったと思っていたし、いくつかインタビューを読んで大友啓史監督には注目していたので「るろうに剣心」は観ようと思っていたがバタバタしすぎていて試写を観るのを失念していた。急いで試写日程を調べて観たのが最終から二回目の試写で、その勢いある映画作りが素晴らしかった。今年の日本映画では「ヘルタースケルター」と並んで新たな勢いを感じた。両作の監督とも映画畑の出身でなく2作目で成果を発揮したのも興味深かった。ムラジュンさんは「愛と誠」をスクリーンで3回観るほど武井咲さんの演技のファンで「るろうに剣心」も観たようだが、「るろうに剣心」の武井咲さんも今までにない魅力があった。急きょ企画して申し込んだ大友監督のインタビューをお届けする。 (取材:わたなべりんたろう)
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――「るろうに剣心」はまず何よりもアクション映画として秀逸だと思いました。アクションでシーンをつなぎ、アクションでキャラクター描写をしている。そこがとても魅力的な映画で日本映画では稀有だと思いました。
大友監督 それはとても嬉しいですね。今の日本でアクション映画としてどれだけのことが出来るかを考えて作りましたから。アクション映画は海の向こうも射程距離範囲内にあるなと思ってるんです。NHKを辞めたときに、それこそ多くの映画の企画の話を頂きました。その中で、「るろうに剣心」は何か今までにやったことがない新しいことができるとビビッと来た。公共放送ではジャンル的に制約もある、しかもテレビドラマというのは家事をしながら見ている主婦でも分かるように、できるだけ台詞で説明しなければならない、などドラマ作りとしての暗黙のルールもある。それらをとっぱらって、アクションでストーリーを語りたいと思ったんです。 (ここで持参していた、最近、日本語翻訳版が出た「脚本を書くための101の習慣/創作の神様との付き合い方」をプレゼントすると)どこかで読んで、この脚本の本の存在は知っていました。ありがとう。
――いえいえ。今作はアクションで語ることに成功していると思いますし、観応えがありました。今作の脚本も共同で書かれていますが、どのように脚本を書いていったのでしょうか?
大友監督 原作はしっかり読みこみましたが、とにかく登場人物が多かった。一方で、ぼくが参加する前に出来た脚本があったんですけど、何か足りないというか原作の核になるものを掴みきれていなかった。人斬り抜刀斎と呼ばれた男が人を斬れない刀=逆刃刀で闘わざるを得なくなる。その葛藤が、「るろうに剣心」のキモであるはずです。ですから、まずは原作にもどって映画の核にすべきものを中心に整理し、ブラッシュアップする作業から脚本をスタートしましたね。
――だからこそ、最後の剣心の葛藤にドラマ性が大きく昇華されて感動します。
大友監督 はい、そうであって欲しいですね(笑)。とにかく、魅力的な登場人物たち、その一人一人のキャラクターを大切にする。そこに素晴らしい俳優たちの演技を引き出して、魂を入れたかったんです。アクション映画に関していえば、ぼくはアメリカ留学中にアクション映画を集中的に勉強していた時期があった。香港映画の監督及びアクション監督が一斉にハリウッドにやってきた時代でした。同じアジア人として、とても刺激を受けましたね。例えばジョン・ウーの映画を観れば分かりますが、台詞というよりもむしろ、アクションの積み重ねや行動でストーリーやキャラクターの個性を語っているんですね。そして、カメラワークとカット割、編集を駆使してそのアクションをよりケレン味たっぷりに表現している。チャイナタウンに行って映画を観たり、DVDショップで漁っていろいろな映画を見て研究しましたよ。
――同じようなことを80年代後半から90年代初頭にしていたのが、タランティーノとビースティ・ボーイズのメンバーだそうです。お互いにいつもチャイナタウンの映画館で会うなと思っていたそうです(笑)。こちらも90年代に歌舞伎町のガラガラの映画館で香港映画時代のジョン・ウー作品を観まくっていました。
大友監督 ぼくも同じようなものです(笑)。そこでDVDを買って見て、随分ヤンチャしてるな(笑)と思った一本が「ドラゴン危機一発'97」(97)なんです。
――ドニー・イェンのブルース・リーへのリスペクト溢れまくりの作品ですね。「るろうに剣心」のアクション監督・谷垣健治氏はドニー・イェンとの密な仕事でも知られる方です。
大友監督 だからこそ、今回は谷垣さんにお願いしたんですね。お互いのアクション映画への愛情も一致したし、谷垣さんはどんどんアイデアを出してくれて素晴らしい仕事をしてくれましたね。「龍馬伝」の岡田以蔵役で一緒に仕事をした佐藤建くんの身体能力、その素晴らしさも分かっていた。それも「るろうに剣心」を撮りたいと思った理由の一つです。
――最後に大友監督が好きなアクション映画を5本教えてください。
大友監督 ブルース・リーの「燃えよドラゴン」 ははずせないですね。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」や「酔拳2」「ボーンシリーズ」も入るし、後は…5本では収まらない!
――香港アクション映画から挙げると、ツイ・ハークの「ブレード/刀」はいかがでしょうか? 斬馬刀を豪快に振り回す相楽左之助のアクションに通じるものを感じました。
大友監督 もちろん、今作を撮るにあたって見直した作品です。でも、今見直すとちょっと撮影や編集のテクニックに走り過ぎかなとも感じました。もちろん好きな映画で見直したときも面白い映画でしたが。
――続編も是非観たいのですが、続編の構想はありますか? それこそ続編は「帝国の逆襲」「マッドマックス2」「ダークナイト」のように「1」でキャラクター設定をしているので自由に撮れることもあって続編は傑作が多いのでも知られています。
大友監督 もちろん撮りたいですね。構想もいろいろあります。ただ、まずは今作がヒットしなければならない。そのためにも応援よろしくお願いします。
――はい、素晴らしい映画だと思いましたのでもちろん応援していきます。今日は忙しい中をありがとうございます。もう一つだけ補足で質問ですが、今日は国際フォーラムの一般披露試写前のインタビューですが、こちらが控え室に着いたときに大友監督はプリントの上映チェックをしている最中でした。いつもするのでしょうか? こちらが上映チェックにたまたま立ち会った方に石井岳龍監督がいますが、石井監督は音と映像のバランスにこだわる方で、その様子には感銘を受けました。ただ、日本ではまだ少ないと思います。
大友監督 観ると分かりますが、今作に関しては夜のシーンが多くて黒をどうスクリーンに映し出すかがポイントです。だから、上映チェックを入念にしました。作り手として観せたい映像を観客に届けるのは当然のことだと思っていますから。
――今日は忙しい中を急なインタビューの企画なのに受けていただき、ありがとうございました。
大友監督 こちらこそです。ありがとう。
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( インタビュー:わたなべりんたろう、撮影:菱沼康介)