大友 啓史 (映画監督)
映画「るろうに剣心」について
2012年8月25日(土)より全国公開中
「るろうに剣心」を観るきっかけを与えてくれたのは村上淳さんことムラジュンさんだった。三宅唱監督の「Playback」の初号試写を観に東映ラボテックを観に行ったときに主演のムラジュンさんが「今、『るろうに剣心』の試写を観てきたけど、いやー面白かったよ。林太郎くんも観たほうがいいよ!」と薦めてくれたのだった。「龍馬伝」の意欲的な姿勢は素晴らしかったと思っていたし、いくつかインタビューを読んで大友啓史監督には注目していたので「るろうに剣心」は観ようと思っていたがバタバタしすぎていて試写を観るのを失念していた。急いで試写日程を調べて観たのが最終から二回目の試写で、その勢いある映画作りが素晴らしかった。今年の日本映画では「ヘルタースケルター」と並んで新たな勢いを感じた。両作の監督とも映画畑の出身でなく2作目で成果を発揮したのも興味深かった。ムラジュンさんは「愛と誠」をスクリーンで3回観るほど武井咲さんの演技のファンで「るろうに剣心」も観たようだが、「るろうに剣心」の武井咲さんも今までにない魅力があった。急きょ企画して申し込んだ大友監督のインタビューをお届けする。 (取材:わたなべりんたろう)
大友 啓史 1966年岩手県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、90年にNHK入局。97年から2年間LAに留学。ハリウッドにて脚本や映像演出に関わることを学ぶ。帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、「ハゲタカ」「白洲次郎」「龍馬伝」等の演出、映画「ハゲタカ」(09年、東宝)監督を務める。2011年4月、NHK対局。株式会社大友啓史事務所設立。最新劇場公開作に「プラチナデータ」(13年、東宝)が控える。
――たまたま、このインタビューの前日に観た日テレの「火曜サプライズ」に佐藤健さんと香川照之さんが出ていて、香川さんが「るろうに剣心」に関して、こう言っていたんです。「何と言っても、あの大友監督が映画界に打って出た作品ですよ。画角とかカメラワークとかとにかく画作りも素晴らしいんです!是非観てください」と言っていました。
大友監督 嬉しいことです。
――香川さんといえば、ポン・ジュノも含めてさまざまな監督と仕事をされていて、同じ監督と何度も仕事をすることでも知られるし「キネマ旬報」でも連載しているように大の映画好きでもありますが、その点はいかがでしょうか?
大友監督 香川さんとは「龍馬伝」でも組んでいますが、素晴らしい俳優としか言いようがないです。映画好きの面ももちろんあって、そういう話しもしますが……そういえば「るろうに剣心」の香川さんに関して言えば、演技がトゥーマッチだって意見もあるんですが。あなたはどう思いましたか?
――いいと思いました。
大友監督 映画の楽しみ方っていろいろあっていいと思うんですね。アメリカに映画の勉強で留学したときに「アナコンダ」を映画館で観たんです。その中で、人を飲み込んだアナコンダの腹がそのまま人の形になっていた。そこで大爆笑と拍手喝采です。なんていうのかな、そういうシンプルな映画の楽しみ方を、「るろうに剣心」では僕自身が取り戻したかったというのがある。
――こちらも同じような経験をしたことがあります。ハリウッドに行ったときにロードショー公開中の「クライング・ゲーム」を観たときに、中盤でヒロインの秘密が分かるんですけど、日本ではボカシが入っていましたがアメリカではそうでなく「ジーザス!」「オー、マイ・ゴッド!」などの叫びと拍手して大盛り上がりでした。
大友監督 そう、きっとそれでいいんですよね。全身で映画を感じる体験です。香川さんの演技に話しを戻すと、ああいう江戸時代から明治時代になったばかりの混乱した時期に士農工商で一番下だった商の人物がのし上がろうとしたら、時代を引っくり返すような、ああいう物凄いエネルギーを孕んだ言動になってもおかしくない。香川さんの演技は、
あの時代に彼なりに必死で生きていた武田観柳を演じるにあたって、もっとも適切な素晴らしい表現だったと僕は思っている。あの演技を受け入れ、楽しむような度量の大きさを観客と共有したいとも思っています。
――今作を観て思ったのが、大友監督がアメリカに留学して映画を学んだこともあるのかもしれないですが、特に現在のアメリカの娯楽映画的な面を強く感じ、こちらもアメリカ映画で観て育ち、まだドキュメンタリーしか劇場公開していないですが、そういう劇映画を作りたいと監督になった者なのでとても共感したし嬉しかったです。アメリカの留学に関しては数年前の朝日新聞の土曜版の大友監督のロングインタビューを読んで知りました。「龍馬伝」を放送中の時期のインタビューでした。
大友監督 アメリカでは、たくさんの映画の現場を見てきました。あまり有名でない映画もありますが、例えば知られた作品ではスコット・ヒックス監督のハリウッド進出作の「ヒマラヤ杉に降る雪」 (99)などがあります。それらの現場で学んだことや影響されたことを、自分では客観的に分析はしきれませんが、身体に入っていて意識しなくても出てしまうというのはあると思います。
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