レビュー

ロスト・リバー

( 2014 / アメリカ / ライアン・ゴズリング )
2015年5月30日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

わたなべ りんたろう

『ロスト・リバー』 『ロスト・リバー』場面1 『ロスト・リバー』場面2ライアン・ゴズリング初監督作で「ロスト・リバー」は製作中から注目していた。ライアン・ゴズリングは「きみに読む物語」「ブルーバレンタイン」「ドライヴ」で知られるが、こちらが注目したのはプレスを書いた「ステイ」で謎めいた青年を演じてプロフィールを調べた時に子役時代にディズニーチャンネルの「ミッキー・マウス・クラブ」に出演していた経歴を持っていることだった。この「ミッキー・マウス・クラブ」び同期にはジャスティン・ティンバーレイクやブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラなどがいた。「ステイ」の次に「ラースと、その彼女」でラブドールと暮らす風変わりな青年を演じていて名前を覚えておく俳優になった。その後もアンサンブルコメディの傑作「ラブ・アゲイン」に出ていたり、作品選びの的確さにも注目するようになった。

そのゴスリングが監督した「ロスト・リバー」は悪夢的な世界観から一見するとデヴィッド・リンチのような悪夢的な世界だが、根底にはテレンス・マリックの世界を継承しているのが嬉しい驚きだった。アメリカの郊外の荒れた風景の中で「ここではないどこか」を夢見る少年と少女が主人公であり、しかも「地獄の逃避行」がマリックの監督第一作ならではのきらめきに満ちていたように「ロスト・リバー」にもゴスリングの監督第一作ならではのきらめきに満ちているのだ。ゴスリングがDead Man's Bonesというゴスバンドを結成していることからも(2009年にセルフ・タイトルのアルバム発表)、今作の悪夢的な世界観がゴスリングの好みであることも分かる。海外の雑誌でDead Man's Bonesの画像を初めて見た時は骸骨の衣装の人物と一緒に写っていて「ゴスリングはこういうバンドをやっているのか」とゴスリングの志向性に興味を持っていた。ゴスではないが悪夢的な世界観の充満する「オンリー・ゴッド」で主演俳優が交代になり「ドライヴ」で盟友になったレフン監督の依頼とはあれ、主演したときはゴスリングらしいとも思ったものだ。

今作は脇の俳優陣も素晴らしく「ドライヴ」で共演したクリスティナ・ヘンドリックスが離れ離れになりそうな家族を必死に支える母親を、「フィルス」のイアン・デ・カーステッカーがその息子を、「つぐない」「ハンナ」などのシアーシャ・ローナンが近所の少女を、「ドクター・フー」のマット・スミスが街を荒らすブリーを演じている。『ロスト・リバー』場面3 『ロスト・リバー』場面4 『ロスト・リバー』場面5「ドクター・フー」のイメージと全く違うヴァイオレントな役柄を怪演するマット・スミスは見所だ。脇で光るベン・メンデルソーンも下心丸出しの男を怪演。ゴスリングの彼女のエヴァ・メンデスがグランギニュールショーの花形を持ち前の華やかさで魅せる。ヒロインの祖母をイタリアン・ゴシック・ホラーの女王のバーバラ・スティールに演じさせているのは実に素晴らし配役だ。俳優の監督が演じてほしい俳優を過去に共演していたり、知り合いだったりなどで見事な配役をして演技が楽しめるのも今作の大きな魅力である。ギャスパー・ノエとのタッグで知られるブノワ・デビエの幻想的な撮影も是非スクリーンで体験してほしい美しさだ。これだけの作品を監督第一作で作り上げたゴスリングの監督としての活動も楽しみに待ちたい。

(2015.6.14)

STORY 湖底に沈んだ街をめぐる、妖しくも切ないダーク・ファンタジー
経済破綻し、住人たちがほとんどいなくなった、とあるゴーストタウン。この街に住む少年、ボーンズ(イアン・デ・カーステッカー)は、廃墟だらけの街でクズ鉄集めをしながら暮らしていたが、日々生活は厳しくなるばかりだった。ボーンズの母、ビリー(クリスティナ・ヘンドリックス)はシングル・マザーとして二人の息子を育てているが、すでに家は差し押さえ寸前で、街を去るか否か、というギリギリの選択を迫られていた。彼女はローンの相談に銀行を訪れるが、支店長のデイヴ(ベン・メンデルソーン)から怪しげなショーを行う店で働く事を勧められ、断りきれずに承諾してしまう。一方、ボーンズは近所に住むミステリアスな少女、ラット(シアーシャ・ローナン)と行動を共にするようになる。年老いた祖母と暮らす彼女もまた、壊れゆく街に囚われながら、行き場のない不安と孤独を抱えており、二人は次第に心を通わせていく。そんな中、ラットはボーンズに謎めいた噂話を聞かせる。この街が衰退した原因は、貯水池を造るために街の一部を水の中に沈めた時、一緒に「あるもの」を湖底に沈めてしまったからだという。そのせいで、ここには呪いがかけられてしまったのだ、と――。
真偽を確かめるために、湖底の街“ロスト・リバー” を探索するボーンズだったが、それを快く思わないギャングのブリー(マット・スミス)に目を付けられてしまう。この街の全てを掌握したいと願うブリーは、ボーンズから全てを奪おうとして嫌がらせを繰り返す。さらに、彼の果てしない欲望はやがてラットにも向けられていくのだった。ボーンズとラット、そして、生活ために自分を犠牲にするビリー、崩壊寸前の街で足掻きながら生きる彼らが、最後に選んだ道とは――?


ロスト・リバー 2014年/アメリカ/95分/カラー/DCP/シネスコ/5.1ch/日本語字幕:ブレインウッズ
製作・監督・脚本:ライアン・ゴズリング
製作総指揮:ゲイリー・マイケル・ウォルターズ『ドライヴ』
撮影:ブノワ・デビエ『スプリング・ブレイカーズ』『エンター・ザ・ボイド』
出演:イアン・デ・カーステッカー『エージェント・オブ・シールド』/シアーシャ・ローナン『つぐない』『ラブリーボーン』/クリスティナ・ヘンドリックス『マッドメン』/エヴァ・メンデス『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』/マット・スミス「ドクター・フー」/ベン・メンデルソーン『ダークナイト・ライジング』
配給・宣伝:トランスフォーマー ©2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC.
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2015年5月30日(土)より、
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

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