遠藤 ミチロウ (監督・ミュージシャン)
映画『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』について【2/9】
2016年1月23日(土)より、新宿K's cinemaにて公開、
以降、全国劇場および上映機会にて順次公開
公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)
――ミチロウさんが震災後初めて福島に入ったのは4月のことで、映画には瓦礫だらけの福島の映像も収められていますが、そのときはどんな思いを持たれましたか?
遠藤 そのときはちょうど「福島差別」とかが言われていたんですよね。放射能に関しては、そのころはまだよく分かっていなかったじゃないですか? 原発がメルトダウンしていたというのもあとで知らされたことで。だから放射能汚染が現実問題として怖いとかいうよりも、汚染によって差別を受けるとか、そういうことが住んでいる人たちの会話の中心にあったんです。「新しい差別ってこうやって生まれていくんだ」っていうのをすごく感じましたね。日本にはいろんな差別があるじゃないですか? 同和の問題もあるし、在日の問題とかもあるし、東北自体もある意味では歴史の中で差別されていますけど、新しい差別が生まれていくのを目撃したというか。それが故郷の福島だというのが、プロジェクトFUKUSHIMA!をやろうといういちばんのきっかけになりました。
――一方で、ミチロウさんは福島や自分の家族に対して反発のような想いもずっと抱えていて、この映画ではそういう想いもさらけ出しています。出自についてあらためて考えることになったのも、震災がきっかけなのですか?
遠藤 この映画の中で、ツアー先で大きく取り上げているのは広島と奄美大島と宇和島かな? 広島は原爆と今度の原発事故が繋がるというのがあるんですけど、奄美大島は僕を福島にもう1回振り返らせるきっかけになった土地だったんです。僕は(作家の)島尾敏雄さんがすごく好きだったので、元々それで奄美に行ったんですけど、島尾さんの実家は福島で、福島と奄美に繋がるものを感じたんです。それまで僕にとって福島は、イヤ~なところ、「もういいよ、帰りたくない」っていうところだったんですけど、奄美大島と似ているなというのを感じて、そこから割と福島を見直すというか、想いを新たにしたんです。だから震災があったから急に福島に向かったのではなくて、実はその前からそういう想いがありました。
――では震災がなかったとしても、映画で福島についての自分の想いを掘り下げたいと思っていたのですね。ルーツ探りのようなことを映画でしてみたいと。
遠藤 そうですね、福島に対する矛盾した気持ちと、母に対する矛盾した気持ちと。福島に対しては、嫌だと思う部分がある一方で、自分の生まれ育った故郷を愛する部分もあるんです。その想いは母に対する想いと似ているんですよね。
――お母様のことも、映画の中で振り返って考えてみたいというような気持ちが元々あったんですか?
遠藤 いや、最初はそんなことは考えていなかったです。本当にロード・ムーヴィーを撮ろうと思っていたので。やっぱり震災が起こってからですよね。福島を撮るとなると、どうしても自分の家っていうものに向かわざるを得ないじゃないですか。
――映画の中で、自分の家の平凡さが嫌だったということをおっしゃっていますよね。理想的な家庭であるのが嫌だったと。それはどうしてなんでしょうか?
遠藤 いやあ、それが分かんないんですよね。例えば、「家族の絆」ということが、特に震災後は家族がバラバラにされたりして、よく言われたじゃないですか? でもそういう意味での家族にまったく思い入れが持てないんですよ。だから震災の支援をやっていても、「家族の愛が~」とか高らかに言えないところがあって、そこは常にアンビバレントなんですよね。うちは何も問題のない、まさに理想的な家庭だったんですが、でもそれが耐えられないとなると、ひとりになるしかない。自分の家庭も作りたくないし。結婚したいと思ったことが一度もないんですよ。
――それで、大学で家を出て以来、家を顧みることはほとんどなかったと。
遠藤 家から遠ざかりたい、福島を出たい、っていうのは、普通の人だったら「田舎から東京へ」みたいなことになると思うんですが、僕の場合はむしろ逆で、「もっと田舎に行きたい」っていうのがあったんです。だから大学受験のときも北海道に行きたかったんです。それは失敗して、結局福島よりちょっと北の山形に行ったんですけど。
監督:遠藤ミチロウ
プロデューサー:志摩敏樹 撮影:高木風太 録音・整音:松野泉 制作進行:酒井力
編集:志摩敏樹、松野泉 撮影協力:柴田剛 宣伝美術:境隆太 配給担当:田中誠一
出演:遠藤ミチロウ、THE STALIN Z(中田圭吾、澄田健、岡本雅彦)、THE STALIN 246(クハラカズユキ、山本久土、KenKen)、NOTALIN’S(石塚俊明、坂本弘道)、三角みづ紀、竹原ピストル、盛島貴男、AZUMI、山下利広(BIG MOON Cafe)、麓憲吾(ASIVI)、伊東哲男(APIA40)、中川澄夫(TE-TSU)、中川ミサ子(TE-TSU)、佐伯雅啓(OTIS!)、大友良英、和合亮一、二階堂和美、オーケストラFUKUSHIMA!、遠藤チエ
2015年/日本/カラー/DCP/5.1ch/102分
製作・配給:シマフィルム株式会社 ©2015 SHIMAFILMS
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