――共演者たちへの感想があったら教えてください。

春日　現場で印象に残っているのはスミッティ役のルーク・ブレイシーです。「すごい役者がいるなぁ、誰だろう」としか思ってなくて。あまりにいつもと違う役を演じていたので試写を見るまでルークだと気づかなかったほどです（笑）。もう一人はテーチ役のリチャード・パイロスです。彼の役は感情の起伏が大きく、難しい役でしたが、スクリーンで観る彼の演技表現は全編を通して素晴らしく仕上がっています。後は楽屋話みたいになりますが打ち上げでアンドリュー（・ガーフィールド）と「沈黙」の撮影のこととか話しましたが、とにかくイッセー尾形さんをべた褒めで、ずっと彼のことをしゃべってました。相当彼の演技が好きみたいです。アンドリューの父親役のヒューゴ・ウィービングは、気さくな方でプレミアのアフターパーティでもいろいろ話しました。「マトリックス」の話から、アニメ、日本、みたいに繋がっていき、「僕ら日本の映画にも出てくださいよ！」と懇願しておきました。

嶋本　私は日本軍側にいたのでメインキャストの方たちとは自分のシーン以外では直接絡むことは無かったので日本軍側の感想を述べさせていただきたいと思います。日本人の他のキャストの人たちとは毎日あの沖縄戦という逃げ出すことも許されない極限の状況下で一人の日本人としてどうやってこの状況と向き合う事ができたのかとか、選択肢は無かったとはいえ、生きて戻れないのを知っていながらなぜ一歩前に踏み出せたのかとか、そういうことを話していました。戦争を知らない私たちには到底解り得ない精神状態なのでしょうが、この歴史の一端を演じるものの責任として今の自分たちでできる限りあの時実際にいた人たちの気持ちとか覚悟とかに少しでも近づけるように努力して全員一丸となってセットに立つようにしていました。あの場所で働いていた人たちの心の部分を少しでも表現できていて、みなさんに感じて頂けたら嬉しいなと思います。

――日本の観客へのメッセージがありましたらよろしくお願いします。

春日　僕はもともと戦場が舞台の映画は殆ど見ません。でも、この作品は魅せる人間ドラマで、かつ見せる娯楽作品としても素晴らしい作品に仕上がっています。僕が一番好きな場面は、あれほどまでに信念を曲げない主人公のデスモンドが一度だけ信念を曲げる場面です。少し笑いを交えながらも圧倒的な加速度と気迫で思い出す度に心を震えさせます。戦争映画や暴力描写は好きじゃないという人ほど、この映画を見てほしいです。デスモンドも自分の信念を曲げてでも行った行為があるように是非一度見たことのない、感じたことのない体験へ一歩踏み出して下さい。
最後に僕は戦争も軍隊もないに越したことはないと今も思っています。この撮影で、はるかに楽な次元とはいえ、その疑似的戦争体験をしてみて、さらにその気持ちを再確認できました。こんな経験、絶対に誰にも現実でさせてはならない、と。逆説的に言うと、みなさんこういう撮影現場に参加してみるべきです。直射日光や豪雨の中、長時間の拘束、危険や怪我と隣り合わせの現場でしたが、それはあくまでも疑似体験。休憩ありの撮影程度じゃない、本当の戦争なんて絶対にすべきでない、と再確認するはずです。きっとメル監督も同じことを思っていると信じています。

嶋本　この映画はデズモンドという一人の人間の人生を描いたお話です。彼が大人へ成長していく過程で培われた強い信念、彼の最愛なる妻ドロシーとの愛、第一次大戦で受けた心的外傷後ストレス障害を持つ父親トムの彼なりの家族愛の形、そしてあの戦場で戦った全ての兵士達の気持ち、生き様、想い、そういった色々な形の心が本気でぶつかり合ってできた素晴らしい映画になっていると思います。是非、そういった人々の心の部分にも注目して観て頂けたらいいなと思います。