『モラトリアム』は、都内の小さな公園を舞台に描く青春群像劇。ドキュメンタリーやMV等で実績を積んできた澤佳一郎監督が4年前に撮影した長編フィクション第１作となる。品田が演じる葛城と、尾身美苗演じる吉原という男女が主人公となるが、物語は吉原の感情の流れを追うものとなり、一方の葛城は群像劇の中心にいながら本心の見えない人物として描いたとのこと。公園によく現れていたというピエロも登場人物をつなぎ合わせるモチーフとなり、現実と幻想が交錯する映像表現に個性が光る。 舞台挨拶で澤監督は「モラトリアムという猶予期間に『私って一体何者なんだろう？』と問いながら自分という抽象的な線が具体的になっていくという、若者たちの群像劇になっています。観る方はそれぞれ好きなところに共感を持ってもらえたらと思います」と見どころを語った。若い俳優たちは、そんな監督と意見を交わしながら、自分自身を投影して役を作り上げていったようだ。尾身美苗は「撮影当時はまだ20代で、とりとめのないことにすごく不安になったりしていましたが、できあがった映画を観たとき、ポンと背中を押してくれるような気がしました。それぞれの役に人間らしさがすごく出ている、素晴らしい作品だと思います」と胸を張った。

澤佳一郎監督 尾身美苗 藤原季節＆品田誠トークイベントでは、本作を観客とともに鑑賞したばかりの品田と藤原が、まずはその感想を語った。品田が「僕も初めて劇場で観ました。あの公園で2年間かけて撮影した初めての長編の主演作が、シネマ・ロサでかかっているという状況がすごく嬉しいです」と晴れやかに語ると、藤原はさらに感極まった表情で「この映画を観ていて、多分監督の人生が詰まった映画なんだろうなと思いました。それを満席の中、177人一緒に観れるって素晴らしいことだなあと。品田誠が主演じゃなかったら世に出ていなかったかもしれないけど、こうして観てもらって、しかも満席で。マコちゃん（品田）の底力すごいなって思う。おめでとうマジで」と声を詰まらせながら言い、品田に抱き付いて祝福。気鋭の俳優二人の友情のこもった抱擁に観客も胸を熱くした。

そんな品田と藤原は5年来の付き合い。品田が旭川、藤原が札幌と北海道出身同士気が合い、性格的にもおおらかさやチャレンジ精神に富むところがよく似ている気がする。友人の紹介で出会い、その後藤原が品田のブログを読んで連絡を取ったことをきっかけに急接近したという。「品田くんのブログに『イミテーション・ゲーム』（14）がすごく面白いと書いてあったので映画館に観に行って。自分を動かしてくれた男に会ってみたいなというのがありました」と藤原が明かすと、品田も「ブログはずっと書いていたんですが、誰も読んでいないと思っていたら、(藤原)季節が見てくれて連絡してきて。それから一緒に映画を観に行ったりするようになりました。新文芸坐とかに」と振り返り、藤原が「やらしい映画ばっかり観て（笑）。ラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアック』(13)とか」と楽しそうに語ると、品田は「2本立てで観るという、すごく濃い時間を過ごしたりしました（笑）。そんなこともあって今日は季節と話したいなと思ってこういう場を設けてもらいました」とトークイベントの実現を喜んだ。