杉田 協士 (監督) 映画『ひかりの歌』について【2/7】
2019年1月12日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
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――それが最終的には『ひかりの歌』という長編映画になりました。偶発的に映画作りが始まったわけですが、監督のほうではこのころ新作の計画などお持ちだったのでしょうか?
杉田 なかったです。私、たぶんそんなに映画を作ることへの欲がなくて。
――そうなんですか? 映画にはずっと関わってこられていますが、監督をすることにそれほど思い入れをお持ちではないと?
杉田 映画のそばにはいたいんですが、たとえば自分が作りたい映画の企画などは持ってないんです。前作の『ひとつの歌』が公開されていたときも、映画関係で会う人は必ず「次回作はどんな映画を考えていますか?」と聞いてくれるんですが、「と、とくにないです……」と答えるのがいつも申し訳ない気持ちでした。なんといいますか、映画館で映画を観て「ああ、いいな」と思っているときと、現場で映画を作っているときに感じるうれしさみたいなものに、あまり変わりがなくて、それ以外にも、ワークショップで子どもたちや定年を迎えられたご年配の方とかと一緒に映画を作ったりするのもたのしいですし、刺激としては十分なんです。映画を作ることと、そういった時間との唯一の違いは、映画製作にはものすごくお金がかかるということです。今回の『ひかりの歌』もトータルで考えたらかなりのお金を使っています。
――そうですよね、まったく計画なく始まっていったらそれは大変だろうなと(笑)。でもこんな傑作が生まれたわけですから、短歌コンテストが監督を映画作りに向かわせてくれて本当によかったです。どんなふうに映画を作っていったんですか?
杉田 作り始めたときは、4本全体でどんなふうになるかは考えられていませんでした。自分で映画を作ること自体がひさしぶりだったのと、短歌を原作にすることが何なのかは未知のことだったので、まずは1本のことだけを考えることにしました。そのスタートとして、加賀田優子さんの「反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった」をまず撮ろうと直感で決めました。そのときは、ストーリーはまだ浮かんでいなくて、主演の北村美岬さんからちょうどそのころに聞いた、高校生のころに美大に行こうか迷っていた時期があるという話と、私が非常勤講師をしている高校の校長先生が「映画を作るときはいつでも学校を使ってください」と言ってくれたのと、夏休みの課外授業の形を借りて、私の授業を受けている生徒のみなさんに映画作りを手伝ってもらえるらしいということがわかって、じゃあ高校を舞台にして、北村さんの役は臨時の美術講師にすれば、映画が始まる舞台は用意できるとわかりました。生徒の中に、すごく素敵な野球部の生徒が二人いて、授業では毎回映画のワンシーンを各自に撮ってもらうようなことをしているのですが、彼らは撮るのも演技をするのも抜群でした。野球選手だからか、頭より先に体で反応しながら考えるようなところがあって、嘘がないんです。北村さんと一緒にお芝居をしてもらったら、すごくいいだろうなと。そんなふうにひとつひとつ「これはいいかもしれない」というものを結びつけていく作業でした。その過程で、背景音楽として自分のなかでずっと加賀田さんの短歌を流しているような感覚です。
――野球部の生徒たちが本当にかわいかったです。北村さんとのお芝居はすごく照れくさそうでしたけど。
杉田 あの二人には脚本を当日か前日に渡したんですよね。考える時間がいっぱいあると、いやだと言って撮影に来なくなる可能性があるなと思って(笑)。直前に渡したら、困った顔をしていましたが、根がやさしいから何も言わずに演じてくれていました。彼らのやさしさに甘えました。最初の方のシーンにある、あの二人が自転車でじゃれ合いながら走る姿は、私が学校から帰るときに実際によく見ていた姿でした。「先生さようならー」と挨拶して去ってく二人の背中を見るのが好きで。そういった、私の心に残っていた時間も手がかりになっています。
――脚本はどんなふうに書いていくんですか?
杉田 どの章も、書き始めるときには構成は考えていないです。お話ししたような流れで、舞台になる場所と出演者が決まって、「今書けるな」と思った段階で一気に書きます。商業映画と自主映画の両方の経験からわかってきたのが、商業でやるのと同じことを自主でやると、お金のなさが画に映るということです。だから、自主が商業に対抗するには、たとえば美術部が入らなくても大丈夫なロケーションで撮影するということがあります。商業のように脚本を先に用意してからロケーションを探し始めると、どこかで限界をむかえます。逆にこの場所で撮れるというのを先に決めて、人物だけではなくて場所もすべて当て書きすれば、まるで美術部がいるかのような作品になるんです。目標は「お金がないのに贅沢に見える映画を作る」ということでした。このやり方は、作りたい映画をとくに持っていない私に向いているんです。現場のスタッフは私と撮影と音響の3人だけでした。
――照明もなしですか。
杉田 はい、それも先にその場所の光を見てから脚本を書けば大丈夫です。
――ああ、それが大事な映画ですよね。実際のその場所の光のままで、暗くなったら懐中電灯を灯すということですね。4章ともそれぞれの短歌に合うストーリーになっていますが、短歌から最終的に物語を完成させるのは難しくはなかったですか?
杉田 難しかったです。2年間ぐらい毎日4首の短歌を見ていました。たまに、選ばなかった他の短歌を読み返すと、いい短歌がそのなかにもたくさんあって、じゃあどうしてこの4首を選んだんだろうともう一度考えたり。撮り終わったあともずっとつづく時間でした。そのうちに、短歌に書かれている内容の先にある、こういう状況に至ったその人の人生みたいなことに興味があって選んだのだとわかっていきました。第2章の「自販機の光にふらふら歩み寄り ごめんなさいってつぶやいていた」であれば、ある人の人生の中で、たまたまそのとき自販機に謝ることになったということなんです。大事なのはその時間に到るまでと、その先の時間を思うことでした。その、短歌のなかで描かれていることの外側が今回の原作なのかもしれません。そういう難しさがあります。それが面白さでもありました。
出演:北村美岬,伊東茄那,笠島智,並木愛枝,廣末哲万,日高啓介,金子岳憲,松本勝,リャオ・プェイティン,
西田夏奈子,渡辺拓真,深井順子,佐藤克明,橋口義大,柚木政則,柚木澄江,中静将也,白木浩介,島村吉典,
鎌滝和孝,鎌滝富士子,内門侑也,木村朋哉,菊池有希子,小島歩美,岡本陽介
監督・脚本:杉田協士 原作短歌:加賀田優子,後藤グミ,宇津つよし,沖川泰平 撮影:飯岡幸子
音響:黄永昌 編集:大川景子,小堀由起子 音楽:スカンク/SKANK カラリスト:田巻源太
写真:鈴木理絵 題字:岸野統隆 配給協力・宣伝:髭野純 宣伝:平井万里子 宣伝デザイン:篠田直樹
配給: GenuineLightPictures 製作:光の短歌映画プロジェクト © 光の短歌映画プロジェクト
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