杉田 協士 (監督) 映画『ひかりの歌』について【3/7】
2019年1月12日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)
――短歌は短いから読み手の方でも想像力を働かせていろんな解釈ができますよね。
杉田 その怖さはありました。自分は短歌の玄人ではないので、読み間違いはまずしているだろうというところからスタートしています。一緒に選んだ枡野さんとも、短歌について具体的な話はしていないんです。「これいいですよね」と確認をし合っただけで、実際に枡野さんがその短歌から何を読み取ったのかは未だに聞いたことがないです。でも自分は映画を作る者としての責任というか、そんなことは自分で考えて答えを出すものだという気持ちがあって、枡野さんにも訊かずにやってきたから、2年ぐらいこの短歌を本当にずっと見ていましたね。
――作者の方たちは映画を観てどんなことを言われていましたか?
杉田 東京国際映画祭での上映にみなさん各地から駆けつけてくれて、すごく喜んでくれていました。
――でもきっと作者が思い描いたものとは違う世界になっているんでしょうね。
杉田 一人だけ具体的に判明しましたけど、全然違いました(笑)。第3章の「始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち」の歌を、私はそのまま始発を待っている駅のホームの光だろうと読んでいたのですが、実際は深夜の居酒屋で、始発までの時間をつぶしている人の描写だったんです。「ああそうか、だからピーナツか!」と(笑)。
――えーっ! こんなに美しい映画になってしまって(笑)。
杉田 本人はすごく喜んでくれていて、ほっとしました。居酒屋の光だと知っていたら選んでいなかったかもしれないです(笑)。
――主演の4人以外のキャスティングはどうしたんですか?
杉田 第1章の高校生のように、まずは主演の4人と合いそうな人を考えるところからはじめました。あとは、私が知っている人のなかで「この人がいいな」とそのとき思いついた人、ひさびさに会いにいきたい人とか、頭に浮かんだらすぐに電話していました。脚本を書いているときも、電話が片手にあるような感じで、ああ、ここであの人が登場するんだと閃くとその場で電話をして、スケジュールの確認も合わせて相談を進める流れです。出演者の中で、もともと知り合いじゃなかったのは、4章の食堂のご夫婦と、写真館の館長です。
――実際にあのお店の方々なのですよね?
杉田 そうです、いずれも千葉にあるお店です。ちょうどそのとき千葉大学と千葉市美術館の企画で学生のみなさんと一緒にドキュメンタリーを作っていたんです。一人1本ずつ、自分が居心地がいいと思う場所に通って撮り続けるという課題を出して、あの写真館を選んだ学生がいました。館長はその学生の従兄弟で、長いこと会っていなかったんだけど、これを口実に会いに行くことにしたんですと言っていました。私もついて行ったら、写真館も館長のお人柄も素敵なので、ロケーションと合わせて出演もお願いしたんです。食堂はすこし段階があって。そことは別の中華料理店を撮りに行っていた学生がいて、映像を見たら餃子やチャンポンが美味しそうなので、私も後日あらためて連れていってもらったんです。そうしたら、たまたま休みの日で、みんながしゅんと落ち込んでいる姿を見て、これはよくないと思い、おいしい店を探すスイッチを入れたんです。私が持っている数少ない才能のなかに、その街のおいしい店を見つけるというのがあるんですが、ちょっとここで待っててと伝えて探しにいきました。それで、あの第4章の夫婦でやられている食堂を見つけたんです。表に洗濯物が干してあって、きれいな光が当たっていて。そこで学生たちと食事をして、その後も私は通うようになって、お二人から馴れ初めとか、食堂を始めたときのこととか、いろんなお話を聞きました。4章にもう1軒出てくる古書店も、実際にこの食堂のお隣にあって、たまにああいうふうに出前をお願いしている関係だったんです。隣同士だから、お盆を持ってそのまま訪ねてくるような。
――実際の街や人の姿をそのまま取り入れているのが本作の不思議な魅力になっていますね。第2章のガソリンスタンドも素敵でしたが、これはどこですか?
杉田 私の育った多摩ですね。私に残っている一番古い記憶がこの場所なんです。父にオロナミンCを買ってもらって飲んでいた記憶です。
――監督の思い出が映画に入っているんですね。
杉田 はい。あのガソリンスタンドはとても好きな場所で、光もきれいだし空間も面白いので、「ここで映画を撮れたら面白いだろうなあ」と行くたびに思いつつ、ご迷惑をおかけしたくないので言い出さずにいたんです。でも閉店するということを聞いて、それなら映画にして残しておきたいと、思いきってその場で相談してみました。「いいですよ」「ちなみに出演もしてもらいたいんですが」「……」といった流れで、店長の政則さんは固まって、澄江さんは首をぶんぶん横に振っていました。
――(笑)。でも出演してくれて、ちゃんと演技していますよね。「キモイな」って(笑)。
杉田 あそこはいつも笑いが起こるから嬉しいです。韓国で上映したときも大ウケで。鉄板のシーンですね(笑)。
出演:北村美岬,伊東茄那,笠島智,並木愛枝,廣末哲万,日高啓介,金子岳憲,松本勝,リャオ・プェイティン,
西田夏奈子,渡辺拓真,深井順子,佐藤克明,橋口義大,柚木政則,柚木澄江,中静将也,白木浩介,島村吉典,
鎌滝和孝,鎌滝富士子,内門侑也,木村朋哉,菊池有希子,小島歩美,岡本陽介
監督・脚本:杉田協士 原作短歌:加賀田優子,後藤グミ,宇津つよし,沖川泰平 撮影:飯岡幸子
音響:黄永昌 編集:大川景子,小堀由起子 音楽:スカンク/SKANK カラリスト:田巻源太
写真:鈴木理絵 題字:岸野統隆 配給協力・宣伝:髭野純 宣伝:平井万里子 宣伝デザイン:篠田直樹
配給: GenuineLightPictures 製作:光の短歌映画プロジェクト © 光の短歌映画プロジェクト
公式サイト 公式twitter 公式Facebook