――俳優さんも、やはりそれぞれのパーソナリティを活かしているんですよね。2章の伊東茄那さんは走るのがお得意だと。

杉田　伊東さんは走っている姿がいいんですよ。彼女はもともと私が授業をしていた高校の生徒で、卒業後は映像を作る道を選んだ人だったんです。俳優デビューはマームとジプシーの『COCOON』で、私がオーディションに行くことを勧めました。伊東さんは原作者の今日マチ子さんの漫画が好きで、たぶん受けたら選ばれる予感がして。オーディションではずっと走る時間があったようなので、やっぱりその姿が気に入られたんじゃないかと想像しています。第3章の笠島智さんは歌が得意で、ぜひ映画のなかでも歌ってほしくて、それでライブのシーンを考えました。今回音楽をやってもらっているスカンクさんに、せっかくだからロックな曲を作ってもらえたら嬉しいと思ってお願いしたら、５拍子のかっこいい曲を用意してくれました。ただその５拍子の合わせが難しくて、ライブシーンでギターを弾いているのがスカンクさんなんですが、ご自身も含めて現場で苦戦していて、「あれ、これ難しいな」と笑いながら撮影を進めていたのがたのしかったです。

――（笑）。笠島さんが主演する第3章だけ関東を離れて北海道でロケをしていますね。

杉田　舞台になっているマッキナフォトという写真店は、2008年に私が写真の個展を東京でやったときに、うちでもやりたいと連絡をくれたお店なんです。ただ、私の交通費までは出してもらえず、パネルを送ってもらえたら責任を持って展示しますということでした。それで「はい」と言いつつ、そのころ札幌にはまだ行ったことがなくて、写真だけ行くのはくやしい気持ちがしたので、映画のワークショップをやらせてもらえないかと相談しました。その参加費を旅費にあてますと言ったら、それはやりましょうとがんばって参加者を集めてくださいました。行ってみたら店長に言われたからしょうがなく参加したみたいな顔をした人たちが集まっていて、アウェイ感がありましたけど（笑）。

――地方ではワークショップなどはまだ馴染みがなかったかもしれませんね。やってみていかがでしたか？

杉田　それがすごく盛り上がったんです。むしろそういう顔をしていた人ほど熱心で、私が帰るときは寂しそうにしてくれて。あんまり寂しそうだったんで、「また来ます」と言って、あらためて一緒に映画作りをする提案をしました。希望する人だけ、マッキナフォトの店長を主人公にした短編映画の脚本を書いてくれたら、半年後にまた来るので、全員でそれを撮ってオムニバス映画にしませんかと。完全に遊びですけど、13人の人が脚本を書いてくれて、私も２週間、ちょうどそのころマンションを買ったばかりで部屋が余っていた人のところに泊めてもらいながら作りました。それも面白かったですし、ちょうどその年から小樽で短編映画祭が開催されることになって、小樽を舞台にした作品を募集しているということを参加者が教えてくれたんです。優勝すると賞金が20万円もらえるから、この期間に杉田も1本撮れ、みんなで手伝うから１日だけ小樽に行って、賞金をもらって、それを杉田のギャラにしようと。それで私も作ったと言いますか、作らされたと言いますか。ちゃんと20万円もらえたのでありがたかったです。

――おお、さすがですね。

杉田　そういう場所です。それでひさしぶりに会いに行きたくなったんです。私がいなくなってからもそのときの参加者のみなさんで自主映画を作ったりしているんですよ。『ひかりの歌』のなかにも、その作品を上映しているシーンがあります。あと、マッキナフォトはフィルムに今もこだわっている店なんです。ここ何年かでどんどんフィルム写真は廃れていっているし、フィルム自体も製造中止になっていく中で、応援したい気持ちもいつも持っていました。そういうタイミングです。これを口実に札幌に行こうと。