インタビュー
田尻裕司

田尻裕司(映画監督)
Part2

渋谷シネ・ラ・セットにて
11/19(土)~12/9(金)の連日21:30よりレイトショー公開

『孕み~白い恐怖』公式サイト:http://www.harami.jp/

田尻 裕司(映画監督)
田尻裕司。1968年北海道生まれ。90年に獅子プロダクション入社。瀬々敬久、向井寛らの作品で助監督を務める。『イケイケ電車 ハメて、行かせて、やめないで!』(97)でデビュー。監督二作目『OLの愛汁 ラブジュース』(99)はピンク大賞ベストテン1位、99年日本プロフェッショナル大賞7位を受賞。他の作品に『未来H日記 いっぱいしようよ』(01)、『姉妹OL 抱きしめたい』(01)、『不倫する人妻 眩暈』(02)、『淫らな唇 痙攣』(04)など。

前回は最新作『孕み~白い恐怖』についてのお話を中心にお伺いしたが、今回はピンク映画業界に入るきっかけや、いわゆる「濡れ場」の演出について、さらには最近の作品について語っていただいた。

盟友いまおかしんじについて

田尻裕司4田尻 イジケ話で申し訳ないんですけど、僕、自主映画やってて、コンテストに何度か出したんですが全然駄目で、大学の映研仲間の中にも自分より才能があると思える人がいて……。それで「どうしよう、この先」と思っている時、獅子プロ(獅子プロダクション、代表・向井寛)の助監督募集の張り紙を見た。話を聞きに行ったら「ピンク映画なら3年で監督になれる」と、当時獅子プロにいた瀬々さん(敬久、映画監督。『雷魚』『肌の隙間』等)に言われて。元々、学生時代から瀬々さんと佐藤寿保さん(映画監督、『秘密の花園』『乱歩地獄』等)のファンだったので、獅子プロに助監督で入れてもらったんです。

獅子プロの同期には、いまおかしんじ監督(『たまもの』『かえるのうた(援助交際物語 シタがる女たち)』)がいた。田尻監督にとって、いまおかしんじの存在は特別だったようだ。

田尻 いまおかさんは馬場当さん(脚本家、『復讐するは我にあり』『サヨナラCOLOR』等)に師事していて、そこをやめて獅子プロに入られた人で、最初から凄い脚本を書いてた。獅子プロ入って最初に書いたのが『イボイボ』(96、『痴漢電車 感じるイボイボ』)という、いまおかさんの2作目なんですけど、これを読んで僕は感激してですね、「また身近にこんな天才がいる、打ちのめされたけど、この人とずっと一緒にいられたらなァ」と思って、憧れてて。それで獅子プロを辞めずに続けられたんだと、いまでは思います。いまおかさんは滅多に人を誉めないんですよね。脚本を読ませあってもクソミソなんです。いままで10本以上いまおかさんにホンを読んでもらっていますけど、「面白いと思ったこと一度もない」って言われますから。面白いと思った映画自体、『姉妹OL 抱きしめたい』(01)しかないって。瀬々さんに誉められたのも唯一これだけ。あとはみんなクソミソに言われて……。尊敬する人たちに言われるので、イジケ虫に育ってるんです(笑)。

田尻裕司といまおかしんじは、神代辰己監督の遺作『インモラル 淫らな関係』(95)にそれぞれ制作と助監督してついた。性愛を軸とした恋愛映画を得意とする両者が、神代辰巳という巨匠の遺作に参加していたという事実は、何かしら感慨深いものがある。

田尻 助監督はいまおかさん1人で、制作が僕1人でしたね。それと監督補の鴨田さん(好史、監督)がいらっしゃって。3人ではとてもできないということになって、現場の2、3日前に制作部と助監督に1人ずつ来ていただいて、それでインしました。

――神代監督はどういう状態だったんですか?

田尻 神代さんはもう車椅子で、酸素ボンベをしてて……。そんな状態なのに急に興奮して叫びだしたり。カメラが回ってる間も熱中してて息をしないんですよね。圧倒されました。それにテストを重ねるうちに、芝居がどんどん変化していって役者が輝いていく。あの現場に居合わせることが出来て、僕は本当に幸せでした。

尊敬する先輩たちに鍛えられ、同期のいまおかしんじらと切磋琢磨しつつ、田尻監督は『イケイケ電車 ハメて、行かせて、やめないで!』(97)で監督デビューを飾る。

田尻 デビュー作もいまおかさんに書いてもらったんです。第1稿でOKが出て、クランクインできたはずなのに、僕が「これじゃ撮りたくない」と言い出した。どう見てもふだんいまおかさんが撮ってる映画なんですよ。いまおかさんのまんまじゃないかって。それで「ホンを直させてくれ」と言って自分で直したんです。それを国映のおねえさん(朝倉大介、国映代表)に見せたら「こんなんじゃダメ」って(笑)。「前のバージョンで撮りなさい!」「いやだ!」(笑)。それからインがずるずる延びて、配給に間に合わなくなり、おねえさんと一緒に新東宝に謝りに行ったりして……。4稿目をいまおかさんに直してもらって、5稿目を僕が直して、6稿目の時に、当時チーフ助監督をやってもらっていた女池さん(充、映画監督、『花井さちこの華麗な生涯』公開中。『ビタースイート』が12月9日から公開)に直してもらったんです。それで会社も僕もOK出して、やっとクランクインできた。

『OLの愛汁 ラブジュース』(99)について

ピンク映画は成人映画館で上映される。したがって、女優の裸や濡れ場さえ見ることができればそれでOK、という客の多さも否定できない。しかし、田尻監督の二作目、『OLの愛汁 ラブジュース』は、映画史に残る恋愛映画の名作として人々の脳裏にくっきり刻みこまれている。物凄く好きになってしまった相手と恋愛が始まったら、最初の一ヶ月くらいは寝食を忘れてセックスにふけるもの。男のほうが若い場合はなおさらだ。相手の身体が恋しくて仕方がない。つねに相手と繋がっていたい。映画はそういう激しくも甘美な感情を丁寧に掬い取り、「普通の人々による普通の恋愛」をじっくり描出する。監督自身、「映画監督をしていける」と思えるきっかけになったと語るこの逸品は、ピンク大賞ベストテン1位、99年日本プロフェッショナル大賞7位に輝いた。

田尻裕司5田尻 僕が、国映のおねえさんや脚本の武田浩介君に「やりたい」と言ったのは、パトリス・ルコントの『髪結いの亭主』(99)だったんです。そしたら武田君はフランス映画の甘美な感じとか、そういうのが嫌いで。とにかく現代の恋愛の心情をリアルにやりたいと言うわけです。僕は『髪結い~』をやりたいというくらいだから、かなりふわふわした幻想的なものに頭がいっちゃってる。その話をしたら「だったら書きたくない」と言われちゃったんで、僕のほうが折れて……。そういう風にして『ラブジュース』の第一稿は出来上がった。それ以降に組んだ西田さん(直子、脚本、『不倫する人妻 眩暈』『ビタースイート』等)もリアリティの人なんです。僕は割とファンタスティックなものが好きで、リアリティがある映画は、見るのは好きなんですけど、自分では思いつかないタチなんです。脚本家と何をやろうかと話し合いをして、上手く話がまとまらない場合、自分は脚本が書けないわけだから、無理にストーリーやキャラを押し付けずに、脚本家の持っている世界観をどうやったら面白く撮れるかを、考えるようにしています。

『孕み~白い恐怖』の前に公開された映画、『SEXマシーン 卑猥な季節』(05)は、第2回ピンクシナリオ大賞入選作、『ヒモのひろし』(作・守屋文雄)の映像化作品である。コオロギ相撲に熱中するヒモ男・ひろし(吉岡睦雄)とその周辺の人々の交流を描いたストレートなコメディで、これまでは生々しくリアルなタッチで描かれてきた濡れ場も、男女がセックスをすると部屋がガタガタと震えるとか、キュウリを尻に突っ込まれて苦悶する男といった、喜劇的表現を前面に押し出している。

――これまでの話で行くと、『SEXマシーン』というのは、実は割と監督自身のテイストに近づいた作品ということでしょうか?

田尻 ああいうのは前からやりたかったんですが、撮ったことがなかった。ピンクシナリオ大賞で(ホンを)1位に選んだ時、みんな「いまおかさんがやったほうがいい」と言っていて、それでほぼ決まりかけていたんですけど、僕がいまおかさんにお願いして譲ってもらったんです。「一度こういうのが撮ってみたかったので、やらせてください」って。そしたら「いいよ」って。

――じゃあそれまで監督をしているあいだは、葛藤が渦巻いていたところはあるんですか?

田尻 もしピンク映画をやってなかったら、もう少しちがっていたかもしれないですけど、ピンク映画では僕の好きなファンタジーとかSFとかアクションだとか、そういうジャンルの映画を作るのはなかなか難しい。それにピンク映画はやっぱり女の子が主役でなければいけないんじゃないかというのがあって。僕はアイドルが主演する角川映画とかが好きなので、それ自体に抵抗はないんですけど、「作りたいもの」というと、割と男主役の話が多くて。吉田聡とか安達哲とか水島慎二の野球漫画とか、あと「男組」とか……。


濡れ場の演出について

――監督の映画は、いつも濡れ場の撮り方が凄く丁寧で、「納得がいく」という気がします。

田尻裕司6田尻 ピンク映画のお客さんはセックスシーンを観に来ますし、自分が納得するようなものを見せたい。それに、映画に出演してくださる女優さんが納得できる仕事であって欲しいと思っています。女性が人前で裸になるのはやっぱり大変なことなので。脱いで貰う以上は、脱ぐ理由があるようなセックスシーンにしたいと思っているんです。普通、カラミのシーンはみんな「早い」って言うんですよ。カラミってもう決まった型があるから、パパパッと撮れると言うんですけど、僕の場合は逆で、カラミになった途端に時間がドーンと押してしまう。手の動きとか、目の動きとか、愛撫の仕方とか、いまこの女性は相手のことをどういう風に思っているかとか、いつもはそういう描写を細かく積み重ねていくんです。台詞じゃなくてアクションでもって感情を表現したい。でもそれをやっていると、もの凄い時間を食うんです。それで、カラミの時間を確保するために、他のドラマ部分を時間のかからない方法で撮り始める。言い方は良くないですけど、カラミを撮るために他を捨てるというか……。それに映倫対策があります。映倫ではアソコを写しちゃいけない。撮りたいカットが撮れないんですよ。アクションでセックスの最中の互いの感情の流れを撮ろうとすると、どうしても下半身を映さないと。それで映倫対策に膨大な時間をとられてしまう。でも結局思ったものはいつも映っていない。だったらやり方を変えてみようかなと、そう思って『卑猥な季節』は撮りました。

――サトウトシキ監督の『団地妻 隣のあえぎ』(01)に役者として出演する経緯はどういうものだったんですか?

田尻 (サトウ)トシキさんから頼まれて。

――いきなり「出て」という感じで。

田尻 ええ。基本的に負けず嫌いなんで、ここで断ると負けたような気がするというだけなんですけど。「逃げた」とか思われると癪に障るんで(笑)。

――普段は演出家としてキャメラの後ろにいるわけですが、役者として出演したことで何か学ぶようなところはありましたか?

田尻 学ぶことは特別ないですけど……。僕は監督している時に、役者さんやスタッフが「僕(田尻監督)の作品だから」とか「僕のために」みたいな姿勢で取り組まれるのが嫌いなんです。「モノ作り」というものは自分のためにやってほしい。役者も「俺が、俺が」であって欲しいし、スタッフもそうあって欲しい。ふだんそう思っているので、トシキさんの映画に出た時も自分の作品だと思って取り組みました。脚本の解釈を巡って現場でちょっと言い争いになったこともありましたけど、先輩だし、トシキさんが監督だし、僕より演出力あるし(笑)。「はい、わかりました。納得しないけどやります」みたいな感じでその場は収めて(笑)。……僕は、僕の組でもみんながそうであって欲しいと思っています。

――今後、「こういう映画をやりたい」というヴィジョンはありますか?

田尻 一番やりたいのは、『風の谷のナウシカ』現代版みたいな話です。現代の東京で戦争が起こるとか、第三次世界大戦後とか、そういう感じで。といっても戦争物をやりたいわけではなくて、アドベンチャー・ロマンが好きなんです。そこにちょっと戦争を絡めたものというか。「ナウシカ」も戦争がメインではないですからね。そういう話をやりたいです。自然と戦争とそこに生きる人々の話を。

――最後に好きな映画を3本挙げていただいているんですけども。

田尻 えー、好きな映画3本ですか?

――すみません……。

田尻 いまですよね? コロコロ変わりますからね。子供の時は全然ちがいましたからね。いまですよね。邦洋問わずですよね。……『黒猫・白猫』(98、エミール・クストリッツア)。……『おっぱいとお月さま』(94、ビガス・ルナ)。……『明日を夢見て』(95、ジュゼッペ・トルナトーレ)。

――結構意外なチョイスだったな、という気がするんですけど……。

田尻 え、何を言えばよかったですか?

――いや、随分前のことなんですけど、ネット上のインタビューで、監督が『狂った果実』(81、根岸吉太郎)の話を延々とされていたような記憶があって。

田尻 いや、もともと『狂った果実』が一番好きなんですよ。ずっーと。本当に大好きです。ただ、いまは日本映画を挙げる気にはあまりならなかった。

――どうもありがとうございました。

取材/文:膳場岳人、撮影:仙道勇人

2005/12/05/09:28 | トラックバック (0)
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