今週の一本
(2006 / 日本 / 山本草介)
足止めされて見た夢は

膳場 岳人

もんしぇん1 都会に生まれ育った16歳の少女が、 たまたま訪れた天草の海辺で天恵の如きインスピレーションに打たれる。「ここで映画を作りたい!」。 使命にも似たそんな思いを抱え、彼女はそれから12年の歳月を、映画の実現のためだけに走り続けた。そしてことし、 ついに映画は完成する。映画のタイトルは『もんしぇん』。少女の名は玉井夕海という。『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督) のリン役の声優であり、音楽、舞台、建築など、アーティストとして幅広い活動を展開する彼女が、脚本(海津研、山本草介と共同)・ 主演・音楽を務めあげたこの映画は、柔らかい手触りの小品に仕上がった。

 旅の途中、林道を走るバスで悪阻をもよおした妊婦のはるは、下車した先の入り江で泥人形作りに精を出す老人たちに出会う。 彼らに押し切られるように人形作りの手伝いをする羽目になったはるは、いつしかこの入り江に深い安らぎを覚えるようになってゆく。同じ頃、 消えた妻を探す男(近藤正臣)もこの海に導かれ、不思議な共同体の仲間入りをすることになる。彼がそこで見たのは、 子どもを亡くして家を出た妻の姿だった――。

もんしぇん2 老人たちで成り立つこの共同体は何なのか。最後まで見ても答えは出ない。 老人たちは他愛のないお喋りと単調な人形作りのうちに長閑な時間を過ごしている。「新入り」 がくると賑やかな酒宴を開いてもてなし、声を張り上げて合唱する。現実社会から切り離されたように、 ここにはヒトの原初的なやさしさと陽だまりのあたたかさが備わっている。彼らは淡々と泥人形作りに励むが、 それを生活の糧にするわけではない。彼らはその人形を海の中へ捨てる。捨てる? いや、海に"納める"のだ。

 映画では説明されていないが、これは隠れキリシタンが「マリア観音」として大切にしていた人形だという。 もちろんそこに宗教的な暗喩を見出すこともできよう。しかし、海に沈むためだけに作られる素朴な泥人形は、 狭い解釈にとどまらぬ豊かな寓意を孕んでいる。さしあたり不毛にしか映らぬ営為からは、すべてに合理性や生産性を求める現代人に対する、 静かな抵抗の声を感じ取ることができる。

 星と輪廻をめぐる重要な台詞がある人物の口から発せられたとき、寂れ果てた広場にいきいきとした子どもたち、 そして大人たちが溢れかえる。そのまぶしい光景に見入るうち、人は「生きて、死ぬ」という、そっけないけれど、気が遠くなるような「生」 のありように深く思いをいたらせるだろう。この映画はそれだけの力を持っている。

 とは言え、これは決して完璧な映画ではない。はるがなぜ老人たちの共同体に居つくことになるのか、いかにして「押し切られる」のか、 誰にでもわかるよう明快な理由が必要だった。抽象的な物語を「映画」として成立させるのは、細部の整合性あってこそである。また、 シーンとシーンのつながりや役者の動きがあまりスムーズにいっていない。役者の演技を統制できているとも言いがたい。 ことに近藤正臣という非常に優れた俳優を、何度も何度も「泣かせる」という演出が本当に必要だっただろうか。また、月夜、 森の中に船が降り立つという幻想的かつ映画的なシーンが、単に森に廃船が置かれているだけに見えてしまうなど、 こうした世界を描く上で必要な「詩情」が決定的に足りない。時折はっとするような美しいショットが映画を彩るだけに、 演出の粘りのなさがとても惜しまれる。

 映画の生みの親である玉井夕海は、初の主演作で堂々とした演技を披露している。まなざしの強さと凛とした声質の美しさは随一だ。 今後の活躍が大いに期待できる。脇を固める近藤正臣は枯れた風情で喪失の痛みを体現。それだけに、 先述した感情を爆発させる場面の仰々しさが気になった。『THE 有頂天ホテル』の榎木兵衛は、お節介な老人を演じて爆笑を誘い、 この映画になくてはならない存在感を放つ。イメージ設計と共同脚本に「たけしの誰でもピカソ」アートバトルに出場し、 第四代グランドチャンピオンに輝いた海津研。撮影は『リンダ・リンダ・リンダ』の池内義浩。玉井と25絃箏の"かりん"によるユニット、 Psalmの音楽がとてもいい。主題曲の旋律は映像よりもはるかに多くを物語り、 見る者の耳にいつまでも不知火の海の調べを響かせ続けている。

(2006.8.28)

『もんしぇん』 エンディングテーマ曲<脈動変光星>の無料ダウンロードを実施中。

谷中にある築80年を越える町屋「間間間(さんげんま)」で、"『もんしぇん』 の世界展"を8月30日まで開催中。
http://www.sankenma.com/index.html (間間間サイト)

2006/08/28/11:46 | BBS | トラックバック (0)
膳場岳人 ,今週の一本
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