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キャピタリズム マネーは踊る

( 2009 / アメリカ / マイケル・ムーア )
今回の標的は資本主義!マイケル・ムーア、本気の「アメリカ映画」

鈴木 並木

『キャピタリズム マネーは踊る』1巨漢マイケル・ムーアが、突撃取材と過去映像の自在な引用・編集、そしてナレーションとで作った、要するに「いつものマイケル・ムーア」シリーズの最新作。『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)、『華氏911』(2004)、『シッコ』(2007)と同様のスタイルで、今回の標的はキャピタリズム=資本主義。

……と書き始めると、ああまた例のアレか、もう飽きたよ、という声が四方八方から聞こえてきそうだが、ともかく見始めてみよう。開巻早々、まがまがしいほどの赤を背景にして20世紀中葉風の男が登場し、「これから見る映像はショッキングなので心臓の弱い方はご注意を」などと、いたってマジメな顔で警告を発する。しかしご存知のとおり、21世紀に生きてシネコンで映画を見るわたしたちは、もはやいかなる映像にも本気でショックを受けたりすることはない。だからここは、ポップコーンでもむさぼりながら、鼻で笑い飛ばせばいい。

続いて出てくるのは、高度に発達した古代ローマ文明がどのように腐敗していったかを示す映像。次々に紹介される腐敗や堕落の例の中に、現代社会の風物がさりげなく、かつ堂々と、挿入される。よくもまあ、いけしゃあしゃあとやりおるわい、とシャッポを脱いだら最後。あとはムーアの手管に乗せられて、複雑怪奇な発展を遂げた資本主義のあれこれがいかにアメリカを破壊しているかを、2時間徹底的に叩き込まれる。

『キャピタリズム マネーは踊る』2ひとつ例をあげるなら、借金のカタに持ち家を奪われる家族が、自分たちの手で自分たちの家を空にする様子。家を明け渡すときには、私物のない空の状態にしなくてはならないのだ。家族には、その代金として、1000ドルの小切手がキャッシュバックされる。金を貸す側からすれば、取り立てた家に清掃業者を入れるよりも、目先の金の欲しい家族を安く雇ってきれいにさせるほうが効率的、という論法。その日から住む場所がなくなる家族は、その小切手を拒まないだろう。数十年の思い出を自分の手で運び出し、壊し、燃やすことでもらう、屈辱の1000ドル。

どうしてこんなことが起こってしまうのか。疑問を持ったムーア監督は、専門家に話を聞きに出かけ、専門家の中でもごくわずかの人間しか理解していないというデリバティブやらなんやらの説明に、心底困惑した表情を見せる。こんなにもチャーミングな困り顔を記録したことだけでも、『キャピタリズム』は記憶されていい。そう、この映画はマイケル・ムーアのきわめて個人的な映画とも言えそうだ。作中では、父がジェネラル・モーターズ(GM)の工場労働者で、彼自身はカソリックの神父を目指していたなんて事情も語られる。古くからのファンは、彼の出世作『ロジャー&ミー』(1989)が、ほかならぬGMにまつわる映画だったことを思い出すだろう。ムーアが父とともに、故郷の町のGM工場跡地を訪ねるシークエンスには、しみじみと迫るものがある。

『キャピタリズム マネーは踊る』3もちろん、マジメな肉体派エンターテイナーでもある彼は、世間の要請に身をもって応えることも忘れてはいない。電話をかけて名前を名乗ったとたんにガチャ切りされたり、会社から出てくる証券マンたちに金融商品の説明を求めて無視されたり、メガバンクの大物を「市民逮捕」すべく乗り込んでつまみだされたり、はてはその建物を税金泥棒の犯罪現場だとして黄色と黒のテープで封鎖したり。しかしこのあたりは意外にも弾まないし、本人も大して気が進まぬまま、パブリック・イメージを裏切らないためだけにやっているように見える。

対照的に熱をもって語られるのは、1936年のGMのストライキの際、ルーズヴェルト大統領の指示で動員された州兵が、ストをする労働者たちを守るために警察官やヤクザに対して銃を向けたエピソードであり、アメリカがあまりに社会主義的なものを遠ざけてきたために若い世代が逆にそれに興味を持ち出しているという統計であり、労働者全員が経営権を持って運営されている工場の紹介だ。「アメリカ」という、言葉でできた架空の概念の美点を必死で守ろうとするムーアはやはり骨の髄までアメリカ人であり、この映画がいちばん何に似ているかといえば、たたみかけの見事さも含めて、フランク・キャプラに、だろう。

アメリカに心からの絶望を表明しながらも、だからこそ自分はこの国を離れない、と力強く宣言し、世界をまともな道に戻すのはひとりでは無理だから、とスクリーンから観客に向かって呼びかける。黒澤明『素晴らしき日曜日』にも通じるむずがゆい興奮。『キャピタリズム マネーは踊る』4それでは単なる材料の羅列によるプロパガンダにすぎないのではないか、と警戒しているひとには、映画とはひとえに材料をどう並べるかの問題だ、と答えよう。まずもって、いままでになく気合いの入った全身全霊の「映画」だし、さらに、見ているこっちまでアメリカに同情し、はてはアメリカへの一体化を要求されている気分にさせられてしまうあたり、「アメリカ映画」以外の何物でもない。

驚きは最後にもやってくる。世界中のいろいろな言語で歌われ、「国際的に」知られるある有名曲が、フランク・シナトラかボビー・ダーリンか、というゴージャスな編曲でスウィンギーに歌われる(歌うは現代ニュージャージーのラウンジ・シンガー、トニー・バビーノ)。近年ではジャ・ジャンクー『四川のうた』でも使われていたこの曲に、アメリカ音楽としての英語ヴァージョンが存在しうることなど考えもしなかったから、心地よい不意打ちだった。

無茶を承知で最後に2点、ちょっとした注文をつけておきたい。まずは、原題の『Capitalism: A Love Story』にふさわしい日本語タイトルがほしかったということ。そして、これはきわめて具体的な金の話でもあるのだから、ドル表記だけでなく日本円に換算した金額も字幕に出ていてくれたら、なおよかったと思う。

(2010.1.6)

キャピタリズム マネーは踊る 2009 アメリカ
監督・脚本・出演:マイケル・ムーア
製作:アン・ムーア 製作総指揮:キャスリーン・グリン、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン
共同製作:ロッド・バールソン、ジョン・ハーデスティ 編集:ジョン・ウォルター、コナー・オニール
共同編集:ジェシカ・ブルネット、アレックス・メリアー、タニア・メリアー、パブロ・プロエンザ、T・ウッディ・リッチマン
ラインプロデューサー:ジェニファー・レイサム 音楽:ジェフ・ギブス 撮影:ダニエル・マラシーノ、ジェイミー・ロイ
音響:フランシスコ・ラトーレ、マーク・ロイ、ヒラリー・スチュワート
(C)2009 Paramount Vantage, a division of Paramount Pictures Corporation and Overture Films, LLC

2010年1月9日(土)より、全国拡大ロードショー

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2010/01/10/18:28 | BBS | トラックバック (7)
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