インタビュー
榎本憲男監督

榎本 憲男 (映画監督)

映画「見えないほどの遠くの空を」について

公式 試写プレゼント!

2011年6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー予定

榎本憲男 1987年銀座テアトル西友(現・銀座テアトルシネマ)オープニングスタッフとして映画のキャリアを始める。1988年同劇場支配人。シナリオを学び1991年ATG脚本賞特別奨励賞受賞。その後荒井晴彦に師事。1995年テアトル新宿の支配人に就任。日本のインディペンデント映画を積極的に上映しつつ、荒井晴彦監督『身も心も』(97)をプロデュース。98年より東京テアトル番組編成を経てプロデューサーとなる。ケラリーノ・サンドロヴィッチ監督『1980』(03)、『罪とか罰とか』(09)、井口奈己監督『犬猫』(04)、山田あかね監督『すべては海になる』(09)、などをプロデュース。最新作は、深田晃司監督『歓待』(コ・エグゼクティブプロデューサー)が本年公開を控えている。
脚本家としてはEN名義にて小松隆志監督『ワイルド・フラワーズ』(04)、筒井武文監督『オーバードライヴ』(04)、深川栄洋監督『アイランドタイムズ』(07)、を執筆。 2010年、東京テアトルを退職。本作品にて監督デビューを果たした。

榎本憲男監督3――この作品は登場人物も少ないですよね。

榎本 登場人物がたくさんいるとおカネがかかりますからね。この作品は自主製作映画ぐらいの製作費で作ったのですが、低予算の中で収めるという前提の中でシナリオを構築しなければならないので、場面と出る人の数をなるべく絞ってやることになります。場面も部室、公園、街角、主人公の部屋、これだけですから。あんまり移動もない中でどうやっておもしろいお話を構築するかっていうことも考えて。

――公園は印象に残りますね。広くて人がいなくて、異空間という感じでした。

榎本 千葉県にある公園で、元々あんまり人は多くない公園だったんですが、奥の方で人止めして人影を排除しましたからね。公園自体が相当でかくて、まさにあそこは異空間です。映画のロケにはときどき使われているらしいですけど、ふんだんに使いましたよ(笑)。

――公園の緑など撮影がとてもきれいでしたが、撮っているのはどんな方なんですか?

榎本 古屋幸一さんという方です。高間賢治さんという有名な撮影監督のチーフを務めていた人ですが、自分が撮影隊のトップとしてカメラを回すっていうのは劇場映画では初めてなんじゃないかな。ものすごく張り切ってくれました。コンテは全部こちらで割ったんですけど、とにかく熱心に付き合ってくれて、低予算の割に要求することは叶えてくれました。まず彼はRED ONEという高性能のデジタルカメラを自分で持っていたんですよ。予算がないからカメラのレンタル代もないわけで、非常に助かりましたね。ほかにも、最初と最後のシーンはクレーンを使っていますし、トラッキングと言ってレールの上を走らせるのがほしいって言うと「じゃあ何とかします」って手配してくれて。しまいには僕がリクエストしていないのにステディカムを買っていて、「いや、榎本さん、買いましたから!」って(笑)。ヒロインの莉沙と光浦とのキスシーンの後にサークルの部員たちが校内をぐるぐる歩くシーンというのがあって、そこはステディカムで撮っています。

――でもそのシーンって、資料によると雨が降ったから急きょ屋外から校内での撮影に変更したんですよね(笑)?

榎本 本当は全然別の絵コンテを切っていたんですけど、雨が降ったからしょうがなく校内に変えて、そうしたら「じゃあステディカムで撮ろう」って(笑)。使いたくてしょうがなかったんですね。ものすごく熱心でした。

――そんなに熱心だったのは、シナリオに賛同してくれたということでしょうか。

『見えないほどの遠くの空を』2榎本 いや、青春映画で、それまで撮ったことのないタイプの作品だからやりたかったということだったようです。最初からシナリオを絶賛していたわけではないと思います。僕がいろいろ説明していって、ストーリーの意味はこうだからこんなカメラショットでやってほしいんだということを言って、次第にお互い分かっていくという感じでした。そうするうちにだんだん本気になってきて。まあ、相手にしてみたら、こちらは自主映画すら撮ったことのないド素人ですからね、半信半疑なのは当然ですよ。
カメラマンがベテランだと、経験に裏打ちされたもので監督を導いてくれるといういい点もありますが、こちらの意見がねじ伏せられるんじゃないかって不安もあるわけですよね、特に僕のような新人は。一方若いカメラマンだと、ベテランに比べたら技術や経験はまだまだ学ぶことが多いかも知れませんが、共に悩んで撮っていけるということはあったと思います。反省点はいろいろあると思うんですが、この予算規模で一緒に作るっていう姿勢は大事だったと思いますね。あとは僕が年上で、プロデューサーとして映画作りを経験してもいたので、初監督でも自分がリードできたという点がよかったかなあと。これが超ベテランだと初監督っていじめられたりするらしいので(笑)。

――やはり初監督という未知の経験をするにあたってはスタッフ選びが重要なのですね。

榎本 ええ、あと助けられたのは編集ですね。Vシネなどをやっている石川真吾くんという人にお願いしたんです。初監督をやるとカットが足りないということがよくあって、編集のときに「もっと寄りのカットはないのか」と言われて「撮ってません」っていうことになったりするんですよ。あと、繋いでみたら繋がっていないとか、そういうのがあるので、編集に現場に来て足りないショットを指摘してほしいっていうリクエストを出したんです。低予算でそんなのあり得ないんですが、石川くんは来てくれて。主人公の高橋が歩いてきて柱の陰に隠れて、出てくると過去の回想シーンになるところがあるじゃないですか。上手く繋がっているかどうかよく分からないから、その場でデジタルカメラからデータをパソコンに取り込んで、石川くんに繋がっているかどうか確認してもらったんです。あとは絵コンテを見せた上で、こうしたらどうかというアドバイスをもらったりもしましたね。彼は低予算作品もいっぱいやっていて映画の工程にも詳しくて、その意味ではプロデューサーの役割も果たしてくれましたね。

――衣装の高橋靖子さんは、個人的にファンなので嬉しかったです。

『見えないほどの遠くの空を』3榎本 僕のシナリオ教室にいらしてたんです、潜りで(笑)。エッセイなど書かれていて文章の素養はある方で、シナリオを書いて映画化するという思惑もあったらしいんです。結局は自分には向かないという結論を出されたようですが。そんなご縁で衣装をお願いしたらやるわって言ってくれたんですが、あまりにも予算がないから困っていらっしゃいました。ロック系のTシャツとかは靖子さんの私物が多いですね。「息子のTシャツを脱がせてきた」とかね(笑)。
音楽の安田芙充央さんもすごいですよ。荒木経惟さんの「アラキネマ」の音楽もやっている方で、ドイツを拠点にかなり活躍されていますね。ジャズっぽいこともできるし現代音楽もできて、受けていただけてありがたかったですね。

――監督をやってみて大変だったことはありましたか?

榎本 大変だったことはあまりなくて、楽しかったですね。撮り切れるのかなあということが心配にはなりましたが。高橋が部室で自分の映画のストーリーを説明するときに、カメラが360度ぐるぐる回るシーンがありますが、あそこはすごくテイク数がかかっちゃったんですよ。36テイクとかまで行ってしまって、それまではスパスパ順調に撮影が進んでいただけに焦りましたね。部室を借りられる日がそこしかないのに、もう撮り切れないんじゃないかと。

――撮影期間は何日ぐらいだったんですか?

榎本 インからアウトするまでが14日間で、実働は12日ですね。短いと言えば短いけど、予算の割には長いと言われました。最初にカメラの古谷くんにシナリオを見せたときに、「これはVシネだったら1週間で撮れって言われますよ。2週間あれば楽勝です」って言われたんだけど、僕が絵コンテを描いて渡したら悩み出してしまって(笑)。
役者たちはリハーサルを重ねて現場に入ったので、芝居でのNGというのはあまりなかったです。それよりもカメラワークやサウンド面でのNGが多かったですね。

――映画を撮られたことで、ご自分の中で映画に対する変化はありましたか?

榎本 ええ、映画の見方も自分で撮ったことによって微妙に変わってきましたね。映画ファンにはできるだけたくさんの映画を観たいという人と、同じ映画を何度も繰り返し観たいという人と、2タイプいると思うんですけど、僕は“好きな映画を何度も繰り返し派”なんですよ。まずは普通に素朴に観て、それからシナリオの構成を考えて観て、さらに最近ではショットとかカット割りとか撮影方法とかを考えたり、そういったことをしていますね。1粒で3度でも4度でもおいしいですよね(笑)。
ここはローアングルだな、ということなんかは言葉には出さなくても1回目に観るときに既にどこかで感じてはいるんですよ。それでまあ観客としては十分なんですけど、なぜここでローアングルなのかということは、やっぱり撮るからには考えていかなきゃいけないことなんですよね。

『見えないほどの遠くの空を』4――シーンのひとつひとつが監督の思惑があってやっていることなんですよね。中には分かりにくいこともあると思いますが。

榎本 だからツイッター上などで、先輩監督にバカみたいなこともいっぱい訊いていますよ(笑)。こういうときはどうなるんですか?とか。訊くと教えてくれますし、僕らの世代は上の世代からいじめられて、それを誉れとしながら喜んで上がっていくっていう世代なんですよね。でも今の人たちはいじめられるのが鬱陶しくてしょうがないんですよね。自分たちだけで、自分たちの世界でやりますって。そこで絡んでいくと楽しいのにな、って思いますね。その点森岡龍くんは年上好きなんです。自分から進んで、年長の監督の作品を観たり、そういうことを積極的にやっていますね。

――今は機材が発達して、特に勉強をしなくても撮影をすることは気軽にできる感覚がありますよね。

榎本 音楽でいうところの宅録の感覚で映画を撮るということが可能になっているけど、音楽の場合はコードぐらい覚えないと音楽にならないというように最初に学ぶべき原理が多いのに比べて、映画って作品全体の構成とかの論理が浸透していない。だから音楽は一応勉強するんですけど、映画は勉強しない人が多いですよね。それだとちょっと厳しいかなとも思います。でも若いからこそ撮れる野蛮な映画の魅力というものはあります。『市民ケーン』(41)はオーソン・ウェルズが20代で撮った作品ですが、あれはやっぱりハリウッドに染まった人間には撮れない映画です。

――そういう新しい発想で撮るというところが若い人の強みですね。

榎本 そうです。勉強も大事だけど感性も大事。ただ、オーソン・ウェルズにはグレッグ・トーランドが徹底的にカメラワークを教えたんですよ。ジョン・フォードの撮影監督だった人で、パン・フォーカスという『市民ケーン』で有名になった撮影技法があるんですが、それはトーランドが得意としていたんです。だから彼がいろんな映画のテクニックを教えていなかったら『市民ケーン』もなかっただろうと言われているそうなんですが、どっちも大事ですね。

――青春映画ということもあって、若い世代へのメッセージが強く感じられましたが、この映画がどんな層に、どのように受け止めてほしいと思いますか?

『見えないほどの遠くの空を』5榎本 やっぱり若い人に観てもらいたいですね。説教映画なんで(笑)。今の世代というのは損な、割りを食っている世代ですよね。僕はバブルの時代というのも経験してきた。僕自身はあんまり恩恵を受けてはいないけど、少なくとも仕事をしていて予算は達成しやすかったですよね(笑)。今は全然ですから。こんな時代は経済以外に何か“しあわせの根っこ”を持っていないとホントまずいよなって気がしますよね。何かどこかに基盤を持っていないと。地震があって世の中の見方もさらに切実になっていると思うので、そういった心の亀裂を埋めていける映画であってほしいなと思いますね。

――これからの構想などありましたら教えてください。

榎本 次に企画が上がっているのはエロティック・サスペンスです。それからラブコメディ。あとスポーツ映画もやりたい。難しいとは思うんですけどフランスとの合作で自転車競技レースを撮る企画を進めたいと思っていますね。今回の映画ではアクションシーンやラブシーンはちゃんとやっていないし、だからまだまだ勉強しないといけないんですが、いろいろ撮りたいですね。映画を観てると自分で撮りたくなってくる(笑)。
ただ、あれもいい、これもいい、っていっぱい撮りたいんですけど、作れる料理というのはもちろん限定されます。僕は自分の監督としての力量なんて分からなくて、頼るものが脚本ぐらいしかないから脚本はちゃんと書こうとしました。制約のある中でおもしろいものを書かなきゃと思ってそれなりのものを書いたつもりです。でもときどきあるんですよね、脚本がぐずぐずしているのに映画がいいっていうものも。ジョン・カサベテスみたいに、しっかり作られているはずなんだけど即興にしか見えないように撮ってしまう人もいて、ああいうのもすごいと思います。でも僕自身は、即興演出でストーリーなんかも出たとこ勝負で作っていくようなものは一生撮らないと思いますね。映画のことを隅から隅までお見通しだっていうぐらいの自信がない限りは脚本くらいはちゃんと書いたほうがいいよなって思うんです。

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( 2011年4月4日 恵比寿ガーデンプレイスタワーで 取材:深谷直子

見えないほどの遠くの空を 2011年/日本/カラー/99分/ステレオ/HD
脚本・監督:榎本憲男
出演:森岡龍 岡本奈月 渡辺大知 橋本一郎 佐藤貴広 前野朋哉 中村無何有 桝木亜子
配給:ドゥールー、コミュニティアド ©2010「見えないほどの遠くの空を」製作委員会
公式 ※特別鑑賞券¥1,200/当日一般¥1,500

『見えないほどの遠くの空を』の試写会に2組4名様をご招待します。
ご希望の方は、『見え空』試写』(メールでご応募の場合は件名)と、「お名前・メールアドレス」を明記の上、こちらのこちらのアドレスか、メールフォーム(要・送り先の追記)からご応募下さい。
◆日時:5月29日(日) 12:30開映
TCC試写室 (東京都中央区銀座8丁目3番先 高速道路ビル102号)
◆応募締め切り:2011年5月27日(金) 12:00応募受付分
応募者多数の場合は抽選となります。
註)ご提供いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的では一切使用いたしません。また、個人情報そのものも招待状発送後一週間で破棄します。当選者の発表は、招待状の発送をもってかえさせていただきます。なお、当選に関するお問合せへの回答はいたしかねます。予めご了承下さい。

2011年6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか
全国順次ロードショー予定

見えないほどの遠くの空を (小学館文庫) [文庫]
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ばかもの [DVD]
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  • 監督:金子修介
  • 出演:成宮寛貴, 内田有紀, 白石美帆, 中村ゆり, 浅見れいな
  • 発売日:2011-06-03
  • おすすめ度:おすすめ度5.0
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2011/04/30/20:20 | トラックバック (0)
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