インタビュー
榎本憲男監督/『森のカフェ』

榎本 憲男 (監督・脚本・プロデュース)
映画『森のカフェ』について【1/6】

公式サイト

2015年12月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて上映中

『見えないほどの遠くの空を』(10)の榎本憲男監督の長編第2作となる『森のカフェ』は、論文執筆に悩む若き哲学者と、森の中で出遭った不思議な女性との交流を、ユーモアとウィットを散りばめて描いた小気味のいいロマンティック・コメディ。色鮮やかな秋の風景と、チャーミングな登場人物たちの軽快な台詞の応酬が、まずは心地よく目と頭を刺激する。そして榎本監督作品の最大の個性である思いがけないストーリー展開は本作でもじわじわと作用し、心も柔軟にしてくれる。現実と幻想の境界を越える甘美な体験を味わったあとは、哲学書をひも解いてみたくなるかも……。世の中が合理主義一点張りとなった今、「面白くて深い」映画を取り戻すために奮闘する榎本監督に、本作について伺った。
(取材:深谷直子)
榎本 憲男 1959 年 和歌山生まれ。青山学院大学卒。西武セゾングループ文化事業部の映画部門で働く。のちに東京テアトルへ転籍。ミニシアター全盛期に劇場マンとして過ごし、以後番組編成や宣伝、製作にたずさわる。2010 年よりフリー。同年、『見えないほどの遠くの空を』監督、同小説執筆。2011年、短編『何かが壁を越えてくる』を監督。第 25 回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門に正式招待。2014 年『森のカフェ』監督。2015 年、小説『エアー2.0』執筆、小学館から出版。日本大学芸術学部映画学科非常勤講師。月に一度のシナリオの勉強会「シナリオ座学」も主宰している。
Story 論文が書けない哲学者が近所の森で出会ったのは……?
若手の哲学研究者は論文を書きあぐねている。そこで、気晴らしに近所の森に出かけてノートを広げてみた。すると、突如、見知らぬ女が現れ『森のカフェ』にようこそなどと言って、無理矢理コーヒーを飲まされ……。
榎本憲男1 『森のカフェ』――『森のカフェ』は『見えないほどの遠くの空を』(10)、短編の『何かが壁を越えてくる』(11)に続く3本目の監督作ですが、軽やかでとても楽しい作品でした。前作から少し間が空きましたが、この間はどんな活動をされていたのですか?

榎本 大きな資金も入れて、映画会社を立ち上げようとしていたんです。でも僕の力不足だとかいろいろな状況があってなかなかうまく行かなくて、「どうしようかな?」と思いながら、別の理由で去年の夏に郊外に引っ越しをしました。そして、引っ越し先の近所を散歩しながら「そろそろもう一度、自主のような形で映画を撮ってもいいかな」と思ったんです。『見えないほどの遠くの空を』は小さいながらも製作委員会方式を取っているんだけれど、それもやめて自主映画の連中に交じりながら撮ってみようかなと。森の中を歩いていたらなかなかいい感じで、森の管理人に「紅葉はきれいですか?」と訊いたら「ものすごくきれいですよ」って自慢げに言われたので、そこで映画を撮ることにしました。映画会社が立ち上げられないということで2つのプロジェクトが同時に進行して、ひとつは『森のカフェ』を撮ることで、もうひとつ「その次はどうしよう?」とも考えて、小説を書くことにしました。だから去年から今年にかけてはこの2つのプロジェクトを自力で進めるというのが僕のテーマでしたね。

――その小説というのは9月に刊行された『エアー2.0』ですよね。映画だけではない精力的な活動に驚きました。郊外に引っ越しをされたのも、こうした創作活動に専念するためだったのかな?と想像していたんですが。

榎本 創作活動のために引っ越したわけではなくて、引っ越してから創作意欲が湧いてきました。引っ越しをしたのは、この映画の主人公の冒頭の台詞と同じで、近所が騒がしくなってきたからです。それまで住んでいた新大久保は、昔はラブホテル街だったからすごく静かだったんだけど(笑)、コリアン・タウンになってお店がどんどんできて、人通りが極端に激しくなって、呼び込みの音声もうるさくなった。プロデューサー時代は新宿での打ち合わせに自転車で5分で行けてよかったんだけど、今はそこまで便利な場所に住む必要はないし、逆にフットワークが軽いと雑音が多くなるし。で、引っ越したらすごく落ち着けて、「もう一度映画を撮ってみよう」という気持ちと「小説を書いてみよう」という気持ちが同時に湧き上がってきたんです。映画会社を立ち上げる話はちょっと止まってしまっているけど、別にそうでなくても映画は作れるよな、と思っています。

――転居先が落ち着けるところだということは映画を観たら分かりますよね。本当に映像がきれいでした。

榎本 ドワンゴの川上(量生)社長が見習いプロデューサーとしてジブリに入っていたことがあって、それが『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』という本になっているんです。この間それを読んだら、ジブリの鈴木(敏夫)プロデューサーは、「映画は美術なんだよ」って言っていたそうです。確かに美術がしょぼい映画って映画として安っぽく感じますよね。ところが自主映画はそうもいかなくて、貧乏くささが愛おしかったりもするわけですが、そこを「美術を作る金はないけど借景しちゃおう」っていうのが僕の発想です。要するにここにこれだけきれいな風景があるんだから、それを美術セットとしてふんだんに使って、貧乏くさくない映画を貧乏な予算で撮れないか? って目論んだんです。

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森のカフェ
出演:管勇毅 若井久美子 橋本一郎 伊波麻央 永井秀樹 志賀廣太郎 東亜優 安藤 紘平
監督・脚本・プロデュース:榎本憲男
撮影:川口晴彦 録音:小牧将人 音楽:安田芙充央 編集:石川真吾 美術:松永真帆
配給:ドゥールー © Norio Enomoto
公式サイト

2015年12月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて上映中

2015/12/26/17:31 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー

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