榎本 憲男 (監督・脚本・プロデュース)
映画『森のカフェ』について【6/6】
2015年12月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて上映中
公式サイト (取材:深谷直子)
――素晴らしい映画愛ですね。今や榎本監督が自主映画の旗手のようなポジションにいるように感じています。
榎本 全然違いますよ。自主映画の旗手って誰になるのか分からないけど、そういう人はどちらかというと「国際映画祭派」じゃないですかね。僕はいわば番外編だから。今の日本映画シーンの中で自分の居場所がない気はすごくしますね。「僕にしか撮れない映画を撮っている」っていう自負はあるけど、映画業界の中で椅子取りゲームがあって、そこに僕の座るべき椅子はない。だから作っていかなきゃいけないんです。その居場所から未来が見えるんだっていう持論なんです。だけどなかなか認めてもらえない。むしろ文学界のほうが認めてくれますね。
――そうかもしれないですね。『エアー2.0』は小学館からしっかりと出版されて、書店でも平積みされていました。小説家としての実績がほとんどなくてもこういうことがあるんだなあと。
榎本 そんなに売れているわけじゃないけど、出版社から「次はうちで書いてくれ」って連絡が来ます。反応がヴィヴィッドですよね。書評家の北上次郎さんが「変な才能」って言っていて、「変な」っていう意味は分かるんですよ。普通の冒険小説とかサスペンスとかの体裁を取っていないし、今までのエンターテインメント小説のフォーマットにないから戸惑うんですよね。でもそれを積極的に褒めてくれるというのは、文学界のほうがフレキシブルだなあと。映画業界は今ある椅子に固定されているんです。
――『エアー2.0』は本当に面白かったです。やっぱり型にはまっていないところに驚きました。経済がテーマでこんなに夢があるなんて。
榎本 いいでしょう(笑)? でも基本的には『森のカフェ』と目指す世界観は一緒です。面白くて深いものを目指しているんです。
――そうですね、映画を観た方にはぜひ小説も味わってほしいなと思います。榎本監督としては『森のカフェ』をどんな方に観てほしいですか?
榎本 今まで日本映画を観なかった人たちに観てほしいと思います。もちろん映画ファンにも観てほしいけれど、それに加えて現状の日本映画に興味がなかった人たち、「今の日本映画に私たちの観たい映画がない」って思っている人たちに観てほしいというのがあります。それがどういう人たちかというと、マイケル・サンデルの 『これからの「正義」の話をしよう』を買ってしまうような人たちです。読むか読まないかは分からないけど、何かよきことを知りたい、よきものを観たい、現状に満足せずにもっといいものを味わいたい、という人たちに向けて提供したいと考えています。
――このあとの構想はありますか?
榎本 サスペンス映画を撮りたいです。
――『エアー2.0』の映画化ではなく?
榎本 そこにはまだ時間がかかるので、もうちょっと小ぶりなものが撮りたいなと。やっぱり75分ぐらいの。75分というのはある種実験的なものがあって、今我々の生活ってあまりにも忙しくて長時間の集中に耐えられなくなっているところがあって、75分というのは感じのいいサイズなんですよね。それぐらいの尺のエロティック・サスペンスが撮りたいです。
――ああ、以前のインタビューでもおっしゃっていましたね。ずっとあたためているものがあるんですね。
榎本 はい、それが撮れないから『森のカフェ』を撮ったんだけど、次はもうそれを撮りたいなと思って。ダウンサイズすれば撮れる感じなので、ちょっと予算を下げてでも撮ってしまおうと。ほぼ二人しか出てこない映画で、俳優をゴージャスにするとかではなくて、撮影をゴージャスにしてじっくり撮りたいんです。それももう絵コンテは上がっています(笑)。それと長編小説もまた書きます。
――本当に漲っている感じですね。また新しい世界を見せていただくのを楽しみにしています。今日はありがとうございました。
( 2015年12月6日 ヒューマントラストシネマ渋谷で 取材:深谷直子 )
出演:管勇毅 若井久美子 橋本一郎 伊波麻央 永井秀樹 志賀廣太郎 東亜優 安藤 紘平
監督・脚本・プロデュース:榎本憲男
撮影:川口晴彦 録音:小牧将人 音楽:安田芙充央 編集:石川真吾 美術:松永真帆
配給:ドゥールー © Norio Enomoto
公式サイト