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「この世には不思議なことなど何もないのだよ」――あの決め台詞がスクリーンに蘇る!  京極堂=堤真一、関口巽=永瀬正敏、榎木津礼二郎=阿部寛、木場修=宮迫博之という豪華なキャスティングが話題の超絶ミステリー大作、 『姑獲鳥の夏』。その製作発表記者会見に潜入した。

8月10日、ウェスティンホテル東京B2Fギャラクシールーム。会見の開始を待つ記者団から、 次のような雑談が漏れ聞こえてくる。「京極堂が堤なの?イメージちがうなあ」「宮迫ってどうなのよ? お笑いの人なんでしょう」 「阿部ちゃんが榎木津(笑)分かるけどさー」「永瀬はちがうんじゃないの」「ちょっとカッコよすぎるよねえ」……。無責任な彼らの放談は、 この企画に対する注目度と期待の大きさを物語っていた。

『姑獲鳥の夏』――。「映像化不可能」という陳腐なフレーズが、これほど似つかわしい小説もないだろう。原作者・ 京極夏彦がデザイン事務所勤務の傍ら、趣味で仕上げた原稿は、出版界を震撼させるに充分の、途方もない質実を誇るミステリー小説だった。

古本屋の主人にして陰陽師の中禅寺秋彦こと京極堂を中心に、隻眼の私立探偵・榎木津礼二郎、荒っぽい昔かたぎの刑事・木場修、 事件の周縁をうろつく野暮な文人・関口巽といった個性的なキャラクターが、二十ヶ月間も身ごもった妊婦と、 その夫の"密室からの失踪事件"という奇想天外な事件に巻き込まれる。やがて彼らの前に、姑獲鳥(うぶめ)という妖怪の姿がちらつきはじめ― ―。民俗学、宗教学、科学、オカルトにいたるまで、該博な知識を投入して縦横無尽に張り巡らされたプロット。それを、原作者・ 京極夏彦を思わせる京極堂が、「この世には不思議なことなど何もないのだよ」の言葉とともに合理的解決へと導いてゆく。

1994年、講談社から上梓された『姑獲鳥の夏』はその年の話題をさらい、爆発的なヒットを記録。現在に至るまで『魍魎の匣』『狂骨の夢』 『鉄鼠の檻』『絡新婦の理』といった連作が立て続けに発表され、そのたびに新しいファンを獲得してきた。その第一弾、『姑獲鳥の夏』は、 出版から実に10年の月日を経て、映像化が実現したことになる。

「絶対バッシングされるぞ」先日、友人からそう脅かされたという堤真一は、 妖しげな紫色の着物に身を包み、やや疲れた顔つき。櫛のあてられていない髪、生気の失せた表情で悄然と中央を陣取る。 その生命力の稀薄な佇まいは、まさに古本屋にして陰陽師という複雑怪奇なキャラクター、京極堂のニュアンスそのままである。 「話が来るまで、"京極堂シリーズ"が大人気シリーズだなんて知りませんでした」 とのっけから肩透かしを食らわせる発言。すでにクランクインして数日、説明台詞の多さに四苦八苦しているという。 「バッシングされる覚悟は出来ています。ファンの期待に応えよう、ということより、精一杯撮影に取り組もうと思っています」 とごく誠実な言葉で意気込みを語る。

いつも怪事件に巻き込まれては京極堂に助力を請い、小馬鹿にされる羽目になる関口巽。シリーズの真の主役とも言える三枚目を演じるのは、 なんと永瀬正敏。「あっという間に台本が読めた。つまり、面白いということでしょう」という永瀬は、 分厚いメガネにいかにも古臭い開襟シャツ、という古色蒼然たるいでたち。当り役『探偵濱マイクシリーズ』で見せたお洒落な探偵の面影はなく、 気弱で冴えない内向的な関口がそこにいた。意気込みを聞かれて、「頑張ります」 とシンプルだが力強い解答。その自信のない寡黙さがさらにはまり役を印象づける。

左眼を失明したゆえに人心を見抜く、という異様な才覚を持つ私立探偵、榎木津礼二郎。演ずるは阿倍寛だ。 ソフト帽に白いスーツでダンディに決めて不気味な存在感。「京極堂はお化けなんかを科学的に解説する。 人を威すようなところがなくて、イイ話だと思いました」「長い台詞が多いので、堤さんの役はやりたくないなあ」 と笑わせる。しかし、最後には「個性的な役どころですが、やり過ぎないように頑張ります(笑)」 と不敵な笑みを覗かせた。

今回のストーリーの鍵となる、久遠寺親子を演じるいしだあゆみと原田知世は、それぞれ涼しげな和装で登壇。作品の中だけではなく、 カメラの後ろでも本当の親子のような絆で結ばれているようだ。二十ヶ月も妊娠している、という奇奇怪怪な役の原田が 「話自体が重いので、普段はなるたけ明るく、心が病まないように注意したいと思います。毎日、いしださんの笑顔で勝手に癒されています」 と言うと、いしだは「私は重たーく、暗ーく、隅っこの方でじとーっとしていたいと思います」 と返して会場の笑いを誘った。

錚々たる実力派俳優陣にあって、さぞかし肩身が狭かろうと思われた、お笑いコンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之は、 「お笑いも演技も僕の中ではあんまり区別してないですね」とあっけらかんとした表情。阿部寛と同じく、 ソフト帽に白スーツ姿。阿部が洒脱な紳士に見えるのに対し、宮迫は関西圏に住む成金か派手好きなヤクザのようだ。彼が演じるのは、 べらんめえ調でまくしたてる体育会系刑事、木場修である。すでに『蛇イチゴ』で映画俳優として高い評判を得た彼、 「江戸弁が難しい」と関西出身ゆえの悩みを打ち明けた。記者団から「この作品のように、 最近何か不思議なできごとはありましたか?」と聞かれ、「夏休みに入った途端、嫁が実家に帰ったことですかねえ」 と得意の"嫁ネタ"で会場を沸かせた。

この豪華なメンツをひとつにまとめ、"映像化不可能"の無謀な壁に挑むのが、同じく映像化不可能と言われた『帝都物語』('88) を見事成功に導いた耽美派の巨匠、実相寺昭雄監督だ。「この映画を企画された方々は、シリーズとして考えているようなので、 第一作目の監督として、成功すればいいな、と思います」とさばさばした態度。この九年間は、 大学でオペラを教えていたという。せんだって定年退職となり、折り良くこの企画の声がかかった。九年ぶりのメガホンだが、 「不幸なめぐり合わせ」「本当はやりたくない」「暑いので早く撮影を切り上げたい」 とネガティブな発言を連発して笑いをとる余裕も。その裏には、映画を成功させる自信のようなものがうかがえた。

ビデオレターで登場した原作者・京極夏彦は、「構想から20年。発表してから10年」 と映像化までの長い道程を回想し、これまで果敢に映像化に挑戦し、玉砕してきた人々がたくさんいたことを述懐。最後に、 「全幅の信頼を置いて、完成を座して待つ」と末恐ろしいひと言を呟いた。

いしだあゆみは、最後に「日本映画の中で、真に"演技をする"という機会が減ってきていると感じます」 と真面目な口調で呟く。それだけに、「今回は思いっきり演技をしたいな、飛んでみたいな、 と思っています」と並々ならぬ決意の程をうかがわせた。

終始和やかな雰囲気で進んだ会見だが、その裏にはとんでもない重責を担ってしまったという緊張と不安があるにちがいない。しかし、 後に記者団の一人が「文句のつけどころのないキャスティング」と言い切ったように、壇上の役者たちには、京極ワールドを体現する、 有無を言わせぬ説得力があった。一見無謀な企てに見える映画化だが、「やっぱり映像化は不可能だったか」と思わせるのではなく、 「世の中に不可能なことなどない!」と感じさせる、素晴らしい仕上がりを期待したいものだ。

(取材・文/膳場岳人)


 


監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦(講談社刊 「姑獲鳥の夏」より)
脚本:猪爪慎一
出演:堤真一、永瀬正敏、阿部寛、宮迫博之、原田知世、田中麗奈、いしだあゆみ ほか
製作委員会:ジェネオン エンタテインメント、電通、日本ヘラルド映画、東急レクリエーション、小椋事務所
企画・製作プロダクション:小椋事務所
配給:日本ヘラルド映画

『姑獲鳥の夏』05年7月、渋谷東急他 松竹東急系にて全国ロードショー

『姑獲鳥の夏』オフィシャルサイト→http://www.herald.co.jp/official/ubume/

 

2005/04/30/05:16 | トラックバック (1)
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