想い出のボレロ (1950年・
松竹大船) キャバレーの人気歌手花村恵美子と、伴奏者でピアニストの堀江浩一とは結婚間近の恋人同士。 堀江は人気楽壇のバンドマスターで、恵美子を今の地位まで育て上げたのも彼だった。ところが、 以前から恵美子ファンであった寺田清郎が突然、恵美子に求婚した。ラジオディレクターの寺田はなかなかの資産家。 恵美子は寺田の求婚を断るが、結婚資金を工面するのに四苦八苦していたので、ほんの出来心で寺田に都合してもらう。 それを知った堀江は二人の関係を疑い、恵美子の弁解を一言も聞こうとせず、関西公演に出ていってしまった。 堀江は新しいパートナー雲井龍子を一流歌手に仕込む積もりで一緒に行動するが、 残された恵美子のお腹には堀江のすでに子種が。恵美子も堀江も次第にかつての輝きを失ってゆくが… |
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■スタッフ 監督 : 佐々木康 ササキヤスシ 製作 : 小倉武志 オグラタケシ 脚本 : 長瀬喜伴 ナガセキハン 撮影 : 厚田雄春 アツタユウハル 音楽 : 万城目正 マンジョウメタダシ 美術 : 浜田辰雄 ハマダタツオ 照明 : 磯野春雄 イソノハルオ |
■キャスト(役名)
高峰三枝子 タカミネミエコ(花村恵美子) 若原雅夫 ワカハラマサオ(堀江浩一) 徳大寺伸 トクダイジシン(寺田清郎) 高峰麻梨子 タカミネマリコ(田辺富子) 桜むつ子 サクラムツコ(雲井龍子) 清水一郎 シミズイチロウ(岩田) 北龍二 キタリュウジ(部長) 水島道代 ミズシマミチヨ(若い妻) |
小さな見所がいろいろ。一番気になるのは、なぜか高峰三枝子が美しくない。ブチャムクレの輪郭で二重顎が目立つ。いったいどうしたことか?
本作で三枝子の実妹・麻梨子がスクリーンデビューを果たしているが、これがなぜか顔付きも声色も木暮実千代にそっくり。
「上原謙の補欠」こと若原雅夫が、相変わらず煮え切らない役どころ。落ちぶれたあげくに昔捨てた女(高峰)のところに押し掛けるという、
男なら誰でも憶えのある行いに出る。徳大寺伸の長者たる計らいで公私ともに彼女とのパートナーを復活させるのだが、現実はそんなに甘くない。
一度落ちぶれた男はとことんまで落ちぶれるのが本当だ。
徳大寺伸がいい。前回上映の『按摩と女』では眼暗の按摩を怪演したが、本作ではラジオディレクターという当時の花形職業を好演。
高峰に二度結婚を申し込んで二度とも袖にされるのだが、その潔さは若原とはまるで対照的。好感度は高い。もっとも徳大寺は、前回の按摩しかり『花籠の歌』(五所平之助監督・1937年松竹)の田中絹代のお嬢さんに袖にされる上海人の出稼ぎ料理人
しかり、日本社会における「異形」を演じさせたら天下一品。以下は余談だが、徳大寺の娘は後に銀座の高級クラブ、その名も「徳大寺」のママになり、そこで働くホステスの一人が、かの堤義明に見初められて世に言う「荻窪第二婦人」となったのは知る人ぞ知る話。
その徳大寺のテコ入れで、高峰はラジオスターとして再生する。不幸にして生き別れとなった彼女の一人娘とも、
やもめになった徳大寺の一人娘ともあえて母子関係を結ぶことなく、彼女は「ラジオのお母さん」として日本中の子供たちに愛の歌声を降り注ぐ。
恋人との関係を絶って全宇宙のために歌い続けようと去っていく『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイを思わず連想してしまう。
なかなか感動的だ。このクライマックスの下りから、当時はラジオがメインメディアで、庶民の生活に欠かせないものだったことがわかる。
注目すべきは、視聴者からたくさんの投書ハガキが寄せられ、それにパーソナリティの高峰が答えるというシーン。本作の封切は1950年。
NHKの『街頭録音』が始まったのが46年。菊田一夫のラジオドラマ『鐘の鳴る丘』が47年。いずれも戦後の赤裸々な庶民生活を活写(活録)
したもの。本作もそれらの番組にモチーフを得ていると思われる。ちなみに、投書ハガキ番組の金字塔=『パック・イン・ミュージック』
(TBS)『セイ・ヤング』(文化放送)『オールナイト・ニッポン』はいずれも67年に始まっている。
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