
青春を返せ(1963年・日活) |
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■スタッフ |
■キャスト |
兄・長門裕之の無実を証明するために妹・芦川いづみが孤軍奮闘する。かくもすさまじい人間の執念。かくも美しい兄妹愛。
芦川が静謐のうちに映し出す。彼女の最高傑作と言っても差し支えないだろう。
町工場の若旦那・長門が近所で起きた殺人事件の容疑者に挙げられ、あっという間に死刑判決を受ける。控訴審でも有罪・死刑。
証拠があまりにも出そろっているため、弁護士の大滝秀次も匙を投げてしまう。そこで芦川が石にかじりついて一つ一つ新たな証言を拾い集め、
最高裁での逆転勝訴に導くのだが、弁護士にできなかったことがなぜ彼女にできるのかとちょっと不満になるが、案外、
冤罪事件とはそんなものかもしれない。時は高度経済成長に突入する63年。弁護士も"モーレツ"に忙しくなった。
場末の町工場での殺人事件など正直、おいしい案件ではない。結局、
取り調べを担当した大森義夫の刑事が自白を強要したことを最高裁で証言するのが決め手となるのだが、「上官から命令されて仕方なく強要した。
早く事件をかたづけてしまえと。当時はいろんな捜査で忙しくてろくに寝てないし家にも帰れないし…」と告白する下りが実に生々しい。つまり、
刑事や弁護士が早く家に帰って一杯やりたいがために被疑者を有罪にしてしまう、そんなことが往々にしてあるわけだ。
忙しいとは恐ろしいことだ。あくまでも憶測だが、GNPが右肩上がりになるのと比例して冤罪も増加しているのではないか?
証言を哀願に来た芦川が大森の息子がトラックに轢かれそうになるのを身を挺して助けたことで、
大森は自白を強要したことを法廷で証言しようと決心する。ちょっと劇的過ぎなくもないが、
自らの命と引き替えに兄の命と刑事の魂を救済したとして聖なる詩的美しさを帯びる。
涙をこらえながら映画館を後にしても誰も文句を言わないだろう。
長門浩之が良かった。芦川との共演は『堂々たる人生』(牛原陽一監督・61年)以来だが、 いつものC調ぶりが形を潜め、冤罪に巻き込まれる一個の現実を誠実に演じている。 無罪が決定的になったときの静かに涙を溜めた表情は名優の域に達している。
監督の井田深と赤城慧の原作について述べてみたいのだが、詳しい資料がないので割愛します。 詳しい方はぜひ情報をご提供ください。
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