ブラッド・ピットが一世を風靡したのは10年くらい前のことだったろうか?
当時から特別な関心はなかったが、人気先行型のスターというイメージだけはずっと残っていた。汚れ役を好んで
(私の目にはそう見えないが)「美形俳優」から脱皮したがっていたのも、どこか「イタい」気がしていた。ハッキリ言うと、
「キャーキャー騒がれているわりには華のない俳優」だと思っていたのだ。ファンの方には申しわけないが。
一方、アンジェリーナ・ジョリー。親の七光りというカンジこそあまりなかったものの、
やはりさほど実績の伴わないスターという印象はあった。もちろん「17歳のカルテ」(99)
では光った個性を発揮してオスカーを受賞しているが、他の作品であまり魅力が感じられず、「ひょっとしてダイコン?」
と思ったことも何度かあるのは事実。彼女のワイルド&セクシーさを強調し過ぎて、演技力を見せるどころではなかったと言うべきか。
ただし駄作であっても脱ぎっぷりの良さが変わらないところは素晴らしい。
そんなふたりが共演して熱愛発覚の噂までおまけについた「Mr.&Mrs.スミス」だが、
全米では6月に公開されて1億8600万ドルの興収となった。ふたりの過去作品の中でも「オーシャンズ11」(01)「トゥームレイダー」
(01)を超えて最高のヒットだ。ブラピがジェニファー・アニストンと電撃離婚、ジョリ姐(以前から姐さんと呼ばせてもらってます)
とのロマンスが生まれた作品とあって日本公開前から話題性も抜群だ。
ジョン・スミス(ブラピ)とジェーン・スミス(ジョリ姐)が電撃的に出会い、結婚したのは5~6年前(ふたりの間で意見が分かれる)
だったが、最近はすっかり倦怠期を迎えていた。お互いの素性を隠していたふたり。実はそれぞれ別の組織に属する腕利きの殺し屋であった。
だが、同じ標的を狙うことになって初めてパートナーの正体を知ることに。48時間以内に始末をしなくてはならない。
ついに命がけの夫婦喧嘩が始まるのだ。
監督はマット・デイモン主演「ボーン・アイデンティティー」(02) で一躍人気監督となったちょっと楳図かずお似(と私が勝手に思っている)のダグ・リーマン。 ハリウッドらしからぬ落ち着いたトーンがアクション映画には珍しかったのか、続編も作られる意外なヒット作となった。 そして低予算のインディーズ映画出身監督がついに大作を手がけることになる。当初ブラピとニコール・キッドマンが主演の予定だったが、 一度はふたりとも降板して企画自体が危うかった。結局はブラピが戻った事によって再始動し、相手役もジョリ姐に決定。スターふたりの共演、 しかも熱愛中と噂されているならなおのこと注目が集まる。アクションとラブコメディ両方楽しめる映画としての大宣伝も手伝って、 激戦のサマーシーズンに初登場1位を獲得した。
確かにそれなりに楽しめる作品ではある。脱ぎこそないがアンジェリーナ・
ジョリーの外見的魅力は存分に発揮されている。ボンテージファッションや深いスリットのドレスで、
ブラピのみならず観客を悩殺してくれるのだ。涼しい顔でアクションをこなしワイルドに銃をぶっ放すが、「トゥームレイダー」
よりフェミニンな部分も顔を出す。特にエプロン姿は珍しいだけになかなか新鮮。要するに彼女のスター映画なのだ。
もうひとりのスターはと言えば…実際はかなり彼女に食われている。同業者で夫婦それぞれの友人であるヴィンス・ヴォーンやケリー・
ワシントンら脇役の見せ場がないために出番が多く、かろうじて「二大スター」の面目を保ってはいるが、坊主頭のせいか(?)
イマイチ華がない。今まで殺した人数を尋ねられて、「60人くらい」と答えたら「私は312人」
と返されてショックを受けるシーンが出てくるが、設定だけではなくジョリ姐に貫禄負けしている。
倦怠期だった夫婦がヨリを戻す話だからいいものの、時折彼女にウットリしているようなマヌケ面も見せてしまうのだから。
最近はジョリ姐の影響で慈善活動にも熱心らしいし、本気でイカレてるんだろうなぁというのがわかるだけにこちらが赤面。
ジョリ姐の方は前夫ビリー・ボブ・ソーントンとの性生活を赤裸々に語っていたからか、戦いの後で夫婦の愛情を「いささか暴力的に」
再確認するシーンも妙に納得してしまうが。
作品全体としては脚本をもっと練るべきだったろう。夫婦のカウンセリングから始まりカウンセリングで終わるのは、
ただのラブコメディであれば悪くないが…互いに命を狙い合った末に組織も加わっての大銃撃戦にまで及んだ話をとっ散らかしたままで
「夫婦仲は改善されました」というのはいかがなものか。
派手に他人の車をクラッシュさせておいて知らん顔をしているハリウッド映画らしい無責任な脚本ではある。
コメディ・センスもまだまだ不十分。お互いの正体がわかってからは「今までの話は嘘だった」という告白が続くが、
笑わせたいなら前半部分にもっとその伏線となる会話が欲しい。「料理は今まで部下が作っていた」「実は以前結婚していた」
などの仰天暴露ネタを唐突に言い出すだけではもったいない。かなり辛辣な会話の応酬がなければ、「夫婦喧嘩(ただし命がけ)映画」
としては物足りないと感じてしまう。
また、夫婦以外の人物描写が簡単過ぎる。夫婦関係を描くとは言っても、魅力的な脇役は必要だろう。ヴィンス・
ヴォーンなど使い方を工夫すればもっと笑えたかもしれない。「標的」となる人物も最低限の登場に終わっている。この「標的」
は組織が夫婦を互いに始末させるための囮なのだが、凄腕の殺し屋同士が5~6年の結婚生活で互いの正体に全く気づかなかった「ありえない」
ツッコミどころを、組織の方が先に気づいてしまう事でもっと変な話にしてしまっている。もともとの設定自体が現実離れしているが、
そこに少しでもリアリティを出そうとする努力が足りない。デートの射的で銃の腕を見せびらかすような真似も、
殺し屋ならば絶対にしないはずだろうに。
アクションにしても撮影に時間をかけたわりには残念な編集をしてしまっている。固定カメラで撮った部分はいいとして、
迫力を出そうと手持ちカメラ映像を多く使ったせいで結果的に手ブレが気になった。自分たちの家では、
冷蔵庫やフライパンなど生活臭のするものを駆使して戦うのが面白いはずなのに、近寄り過ぎて動作がよく見えないのである。
ソダーバーグの影響かどうかは知らないが、手持ちカメラの映像は画面酔いをおこすので個人的にはやめていただきたい。
ぐるぐる回されたりなんかした日には気分は最悪だ。
殺し屋だからと言って銃ばかり使うのも妙な話だし、
家のあちこちにそれぞれの道具を隠している場所があったりするのも設計段階でバレバレだろうという気がするし、
夫婦互いに正体を知らない設定がシュワちゃんの「トゥルーライズ」(94)に似ているように思うが、
一番問題なのは夫婦ものコメディとしてもアクション映画としてもどこか中途半端な点だ。思いっきり笑えるわけではないし、
アクションも迫力満点という感じではない。そこそこ楽しめるけれど、1800円払って満足できるかどうかは疑問と言わざるを得ない。
粗筋を聞いただけで展開が読める設定だからこそどこかで意表をついて欲しかったのだが、「標的」
となった囮にすら意外性をまったく感じないのだ。どうせなら倦怠期に陥った夫婦が、カウンセリングの一環である「実は殺し屋だったふたり」
という非現実的かつ刺激的な空想プログラムの中で、互いに命を狙い合いながらそれぞれの秘密を告白して愛情を再確認、関係を修復できました…
というオチであったならエンディングのこじんまりさも我慢できるのだが…(残念ながら違いますので悪しからず)。
それでもファンには十分堪能できる「スター映画」のはず。 ブラピの魅力は今回もまた私には伝わらなかったが、女性にも好かれているジョリ姐はその格好良さでさらに支持を集めるかも。 人気者ふたりの共演をただ観たいだけならば、私が論ったような細かい点を気にしないで「おもしろかったね~」と言えるかもしれないし。 良くも悪くもスター映画だと納得した上でご覧になるのが賢明だろう。
(2005.12.9)
主なキャスト / スタッフ
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Mr.&Mrs. スミス(Mr. & Mrs. Smith) E ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!
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Tracked on 2005/12/16(金)19:51:27
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「Mr.&Mrs.スミス」74点。 E mountain77 D.Reverse side
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