第66回英国アカデミー賞
脚本賞(クエンティン・タランティーノ)&助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)受賞!
第70回ゴールデン・グローブ賞
脚本賞(クエンティン・タランティーノ)&助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)受賞!
アカデミー賞5部門(作品賞、助演男優賞、脚本賞、撮影賞、音響編集賞)ノミネート
ほか、全米各地の映画賞を受賞しているクエンティン・タランティーノ監督最新作
ジャンゴ 繋がれざる者
2013年3月1日(金)より丸の内ピカデリー他全国ロードショー!
1992年『レザボア・ドッグス』の衝撃から20年。
タランティーノが初めて挑む時代劇はマカロニ・ウエスタン!!
クエンティン・タランティーノ、1992年に自らの脚本による初監督作品『レザボア・ドッグス』を世に放ち(日本公開:1993年4月)、粗野で下品で差別用語連発の脚本とかつてないほどの過激な暴力描写で良識派の映画人を恐慌に陥れ、その一方、緻密なプロット、リアルとマンガのぎりぎりのラインで描かれるバイオレンス、人間の常識的感性を突くユーモアの絶妙なブレンドは、世界中の映画ファンを熱狂させた。その結果ヨーロッパをはじめとした世界中の批評家から高い評価を得、一躍時代の寵児となった男。
あれから20年――、溢れんばかりの才能ながらその間の監督作は7本(オムニバス『フォー・ルームス』の一話を入れると8本)という寡作のタランティーノが8本目に選んだ題材は、南北戦争勃発の約2年前、リンカーン奴隷解放宣言の5年前の1858年アメリカ南部を舞台にした西部劇。ジャンル映画にこだわってきたタランティーノだからこそ、20年目の作品をして究極のジャンル映画“ マカロニ・ウエスタン” の枠組みを選んだのは当然といえるかもしれない。
主役はクリーンな正義漢ではなくアウトロー、残虐性の高いバイオレンス、悪を持って悪を制す毒のある闘い、乾いた空気感など、ジャンル映画ならではの“お約束”を踏まえながらも、そこはタランティーノ、主役は奴隷からガンマンになったジャンゴ、その相棒は元歯科医でドイツ人の賞金稼ぎシュルツ、二人が狙うのは、奴隷デスマッチ観戦が趣味でフランスかぶれの領主キャンディ。この振り切ったキャラクター設定で描くのは、タランティーノにしては珍しいアメリカ大自然の一大ロケーションをバックに、妻を奪われた元黒人奴隷が彼女を取り戻す、ただそれだけのために白人の権力者に挑むという痛快な復讐劇であるとともに、ピュアなラブ・ストーリー。
まさに、これぞ究極のタランティーノ映画!と言える、一筋縄ではいかないクロス・ジャンル映画がここに登場した。
隅から隅までセンスの光るキャスティング
タランティーノ映画といえば、個性溢れる特異なキャラクター設定とともに、意外な、ただし観終わるともうほかの俳優は考えられないというくらい役柄にマッチしているキャスティングが常に注目されるが、今回も例外ではない。どころか、その奇抜さとスクリーンでそれぞれが放つ強烈な存在感は、過去のタランティーノ映画の中でも群を抜いている。
まず、自由とヒューマニティーを誇るアメリカの恥部と言っていい究極の非人道的制度である黒人奴隷制のもとで人間性を蹂躙されながらも、愚直なまでに一途に妻を求める男ジャンゴを演じるのは『RAY /レイ』でアカデミー主演男優賞を獲得したジェイミー・フォックス。奴隷から賞金稼ぎのガンマンへの華麗なる転身ぶりは、その見事なガンさばき、カウボーイスタイルとともにタイトルロールにふさわしい見事なヒーローっぷりである。
そして、そのジャンゴを奴隷の身から解放し彼に銃の手ほどきを与える元歯科医にして、奴隷制という南部の制度を嫌悪する一方で、合衆国の法のもと賞金稼ぎで白人を殺しまくるドイツ人、というこれもまた奇異なキャラクター、キング・シュルツを演じるのは、タランティーノの前作『イングロリアス・バスターズ』でアカデミー助演男優賞に輝くクリストフ・ヴァルツ。激動の南部アメリカにヨーロッパのモラルを持ちこみ、疎んじられながらも飄々と自らを貫くシュルツを彼ならではの軽妙な怪演で演じ、今回再びアカデミー賞にノミネートされた。
さらに、この二人の奇妙なコンビが最後に狙う大農園キャンディ・ランドの若き暴君カルビン・キャンディには、これが初の本格的悪役というレオナルド・ディカプリオが挑む。農園とその奴隷たちを生まれながらに受け継いだカルビンは、キャンディというその名の通りの幼児性と残虐性を持ち、人間性のかけらも持ち合わせていない。カルビンが骨相学を披露して、黒人の“ 人間” としての存在を真っ向から否定する、このキャラクターの憎々しさが最も際立つシーンはディカプリオ史上ないほどの真に迫った激高演技で観る者を驚かさずにいられない。
そんなカルビンが頭が上がらない執事スティーブンを演じるのは、『パルプ・フィクション』以来タランティーノとはつきあいの深いサミュエル・L・ジャクソン。他人の前では、少々ボケぎみの奴隷頭としてカルビンに仕えているが、二人きりになるとたちまち豹変しカルビンをたしなめる。カルビンの父の代からキャンディ・ランドを取り仕切り彼の面倒を子供のときから見ているスティーブンは、見た目は黒人、心は白人だ。ここでのディカプリオとジャクソンの初顔合わせは、可笑しくも緊張感溢れる演技合戦となっている。
この4人を囲む脇役陣もさすがタランティーノというセンス溢れる役者たちをそろえている。ジャンゴの妻であり、黒人奴隷がらドイツ語名を持ちドイツ語ペラペラのブルームヒルダに、『RAY /レイ』でレイ・チャールズの妻を演じたケリー・ワシントン、賞金稼ぎとはいえ黒人が白人を殺すことが許せない農園主スペンサーに、TV シリーズ「マイアミ・バイス」、『マチェーテ』のドン・ジョンソンのほか、スペンサーと共にジャンゴとシュルツの二人を夜討ちに合わせる手下に『マネーボール』のジョナ・ヒル、1966年のマカロニ・ウエスタン『続・荒野の用心棒』(原題『ジャンゴ』)で最初にジャンゴを演じたフランコ・ネロ、ジャンゴの主人であるカルーカン農園主にブルース・ダーンらが1シーンの出演ながら濃厚な存在感を見せている。
また、例のごとくタランティーノ自身が、オーストラリアから出稼ぎにやってきた奴隷商人というこれもまた珍妙な役柄で登場するのもファンには嬉しいところである。
タランティーノ流奴隷制度の真実とは?
ナチス支配下のパリで、ユダヤ人がナチ高官たちを皆殺しにする、という史実にはなかった復讐を描いたのが『イングロリアス・バスターズ』なら、アメリカ南部で、黒人奴隷がもし自由になっていたら、こんな風に彼らの所有主である白人たちに復讐するに違いない、という歴史上はなかったことになっているが、もしかしたらあったかもしれない、あって当然の復讐を描いたのが『ジャンゴ 繋がれざる者』だ。
もちろんタランティーノのことである。リンカーンの奴隷解放宣言から150年目という2013年を目前に控えた2012年12月25日に全米で公開された本作は、アメリカの誇るべき年だからこそ、「ルーツ」に代表するような「これこそが黒人奴隷制の衝撃の真実」と告発しつつ、人種を超えた友愛や赦しで口を拭うようなマネはしない。
アメリカの正当西部劇ではなく、悪が悪を制するマカロニ・ウエスタンスタイルで、常識人が目を覆いかねない残虐描写と、耳を疑う“ ニガー” 連発のなかでこれこそが“ 真実” である、と見せつける。ちなみに『パルプ・フィクション』は栄誉ある “FUCK”最多登場映画であるがその回数は281回。今回の“ ニガー” は137回、1.2分に1回の連発となる。これを蛮行と取るか、快挙とするか全米公開後、論議を呼んでいるが、タランティーノはそんな“人権派”論争をも「俺は社会派映画を撮ったわけではない。マカロニ・ウエスタンを撮りたかったのさ」と笑い飛ばしている。
けれど、そこにかつて、やりすぎ、悪ガキ風雲児であったタランティーノの監督としての成熟が見て取れる。奴隷制度の残虐性、人間を家畜同然に扱っていた白人の傲慢をあますところなく描き、ここまで蹂躙された彼らが白人を撃って撃って撃ちまくる、ここに彼自身が考える映画本来のエンタテイメントの最高峰であるところのマカロニ・ウエスタンの爽快感を感じられるか?と突きつけ、観るものの感性と本能的偽善性を揺さぶる。
元祖オタク映画小僧が堂々たるオタク映画中年となり、オスカー作品賞にノミネートされ、彼自過去最高ヒット作である前作『イングロリアス・バスターズ』の記録を早くも自ら塗り替え、興行面、作品の質ダブルで勝って行く、映画作家としてそして職人として、タランティーノは進化し続けているのだ。
黒人ガンマン ジャンゴが生まれるまで
『ジャンゴ 繋がれざる者』がスクリーンに登場するまでの長い旅は、脚本・監督のクエンティン・タランティーノが主人公のジャンゴというキャラクターを思いついた10年前に始まった。「物語の芽となったのは、『奴隷が賞金稼ぎになり、その後黒人を搾取する奴隷監督たちを追い詰めていく』というアイデアだった」と、タランティーノは話す。
8部門にノミネートされていた『イングロリアス・バスターズ』の年に開かれたアカデミー賞のパーティのことだった。そのパーティで彼はプロデューサーのレジナルド・ハドリンと話を始めた。ハドリンは自身も『ハウス・パーティ』(1990)や『ブーメラン』(1992)で知られた監督でもある。
「僕たちは、今回の映画で描かれた設定について話を始めた」と、ハドリンは振り返る。「基本的に僕は全ての作品が嫌いだと言った。お定まりのグリーティング・カードのような映画は嫌だ。奴隷制度について本当の事を語り、明快な勝利を収めたことを語る映画が見たい。僕にとっての偉大な奴隷映画といえば『スパルタカス』(1960)だ。あれに匹敵する奴隷の体験が語られない限り、僕には興味がないと言った」。
このようなハドリンの言葉を聞きタランティーノの脳は大回転を始め、『ジャンゴ 繋がれざる者』となる草稿を即座に書き始めた。「自然に僕の中からあふれ出た」と、タランティーノは言う。
「いざ書き始めたら、ジャンゴが僕の前に姿を現した。最初のうち彼は、単に鎖につながれた7人の奴隷の中の6人目にすぎなかった。でも書き進めるうちに、彼が自分はどんな人間かということを僕に次々とさらけ出していったんだ」と、タランティーノは語る。
2011年4月26日に脚本を完成させたタランティーノは、友人や仕事仲間に脚本を見せ始めた。そして、その「出版日」に向けて、プロデューサーたちは製作準備に入る。「クエンティンがタイピングする音を聞きながら、いろいろな人たちに電話をかけ始めるんだ。スタント・コーディネーターのジェフ・ダシュノー、サウンドミキサーのマーク・ウラノ、メーキャップ部門長のヘバ・ソリスドッティールたちだ。『もうすぐ脚本が完成するぞ』ってみんなに連絡して、できるだけ皆のスケジュールを確保しておくんだ。僕らは多くの作品を一緒に作ってきた家族だし、お互いと仕事をするのが大好きだからね」と、プロデューサーのピラー・サヴォンは言う。
完成した脚本には大きな反応がかえってきた。ハドリンは、南北戦争以前の奴隷制度に関する、ユニークかつ率直な描写に感服したという。「僕らは、自分たちの一番いいところだけでなく、一番悪いところも覚えていなければならない。この物語に登場するのは架空のキャラクターたちだ。でも彼らは、現実の世界で悪に面と向かって『ノー』と言った何百、あるいはそれ以上の黒人、白人たちを象徴しているんだ」と言う。
マカロニ・ウエスタンからラブ・ストーリーへ
『ジャンゴ 繋がれざる者』の舞台は南北戦争前のアメリカ南部だが、ジャンゴの物語を伝えるには西部劇という形をとるのが最適だ、とタランティーノは考えついた。「僕は昔から西部劇を作りたいと思っていた。西部劇なら何でも好きだが、中でもマカロニ・ウエスタンが一番好きだった。だから自分が西部劇を作るとしたら、セルジオ・コルブッチ的な作品になるだろうと思っていた」。
タランティーノにとって西部劇とは、善悪を壮大なスケールで巧みに描き出すものだった。妻を救出するために、悪名高いプランテーションに入り込もうとする男の戦いを描くこの物語には、西部劇というジャンルの構造が適していたと彼は言う。「この国には想像を絶するほどの痛みや苦しみがあった。当時のような悪夢の時代はない。あの時代の現実は、この物語のキャンバスとして考えられる限り最も壮大なものだ。シュールなほどに残酷で理不尽な、情け容赦ない世界をぎりぎりのユーモアで支えながら作り上げるなら、マカロニ・ウエスタンとして描くのがふさわしい」。
マカロニ・ウエスタンというジャンルは奇抜な選択ではあったがこの物語には適していた、とハドリンも言う。「『荒野の用心棒』やコルブッチ作品に見られるダークな部分、複雑な道徳観が、クエンティンのストーリー・テリングに大きな影響を与えた。西部劇を徹底的に研究していたクエンティンは、奴隷の物語とマカロニ・ウエスタンを融合させるというアイデアを思い付き、おかげで今まで誰も見たことがないような映画ができあがったんだ」。
タランティーノが初めて挑む西部劇は、タランティーノが初めて監督したラブ・ストーリーでもある。ジャンゴは賞金稼ぎとなるが、お金が目当てではない。白人を殺しまくるが、白人に復讐したいのでも、奴隷解放を訴えているわけでもない。彼の目的はただひとつ、愛する妻と共に生きること、奪われた彼女を取り戻すことのみだ。
ブルームヒルダへの愛情の深さ、互いへの献身的な想いがキャラクターへ入り込む入り口になったとフォックスは言う。「当時は奴隷の結婚自体がタブーだった。結婚したために殺されることだってあった。当時は結婚・・・というよりも性交を強要されていた。黒人の頑健な男と丈夫な女が性交することで、より強靭な奴隷が得られるというわけだ。白人たちは黒人が結婚することを望んでいなかった。だからジャンゴが結婚しているということが、大きな意味を持っているんだ。これはラブ・ストーリーなんだ。彼の行動の原動力は妻への愛だ。ジャンゴは奴隷制を終わらせようなんてことは考えていない。最愛の人を探そうとしているだけだ。干し草の山の中にある一本の針を探すようなものなんだけどね」。
ブルームヒルダを演じたケリー・ワシントンも、ブルームヒルダとジャンゴの絆に惹かれたという。「黒人奴隷は、人間らしく生きることが出来ないのが当たり前だった時代のラブ・ストーリーであることに、何よりも惹かれました。他人に所有されている身だから、法律上は自分の思い通りの結婚をすることができない。それでも深く愛し合う2人のラブ・ストーリーです。彼らは残酷な歴史的背景の中でも愛の力で道を見出しています。そこに大きなパワーを感じます」。
『ジャンゴ 繋がれざる者』にはタランティーノ作品全体との共通点もある、とワシントンは言う。「彼は暴力や闇や人間の魂の醜い部分を描くことをまったく恐れません。本作のような時代背景をもった物語を語るには、そういったものを恐れない人が必要だと思います。と同時に、この作品は基本的にラブ・ストーリーなので、悪意と闇と欲望が支配する世界の中でそのラブ・ストーリーを堅持するには、人間の善意や愛や美しさを信じることも必要です。彼はその両方をきちんと保っている素晴らしい監督だと思います」。
プロデューサーのステイシー・シェアは、「愛、救出、変化。それがこの作品の目的地です。それがジェイミーとケリーのためにクエンティンが書いた旅であり、ウエスタンであり、ラブ・ストーリーなんです」と話す。
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
製作総指揮:ハーヴェイ・ワインスタイン,ボブ・ワインスタイン,マイケル・シャンバーグ,
ジェームズ・W・スコッチドポール,シャノン・マッキントッシュ
製作:ステイシー・シェア,レジナルド・ハドリン,ピラー・サヴォン
撮影:ロバート・リチャードソン 美術:J. マイケル・リーヴァ 衣裳デザイナー:シャレン・デイヴィス
出演:ジェイミー・フォックス,クリストフ・ヴァルツ,レオナルド・ディカプリオ,
ケリー・ワシントン,サミュエル・L・ジャクソン,ジョナ・ヒル
2012年アメリカ映画/スコープサイズ/全9巻/ 4,529m /本篇上映時間:2時間45分/
原題:Django Unchained/字幕翻訳:松浦美奈 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.django-movie.jp