映画祭情報&レポート

第66回カンヌ国際映画祭レポート【1/5】
深谷 直子

スピルバーグが審査委員長 熱気に満ちたオープニング

パレ・デ・フェスティバル スピルバーグ監督、河瀬直美監督スピルバーグ監督、河瀬直美監督 ©yuma matsukawa66回目を迎えたカンヌ国際映画祭が5月15日~26日に開催された。今年の最大の目玉は何と言ってもコンペティション部門審査委員長にスティーヴン・スピルバーグ監督を迎えたことであった。40年以上にわたり映画界に貢献し続ける世界の巨匠も、初の劇場進出作品『続・激突!カージャック』(74)が同映画祭脚本賞を受賞したことでそのキャリアをスタートさせた生粋の“カンヌっ子”。これまで何度も審査委員長の要請を受けてきたのをスケジュールの都合で断り続けてきたが、双方の念願が今年ついに実ることになった。オープニング・セレモニーや審査員の記者会見では会場の盛り上がりも大変なものだったが、スピルバーグ自身が終始少年のような笑顔を浮かべ、映画人のための祭典に戻ってきたことを心から喜んでいる様子だったのが印象的だった。ちなみにプレスの階級制度がシビアなカンヌにおいて、私が取得できたパスではセレモニーや大物が登壇する記者会見にはまず入れないのだが、一目だけでもスピルバーグに会いたい!と記者会見場の外で出待ちをし、騒然とする記者たちに混じりサインを求めたところ「OK」と優しく応えてもらえて、天にも昇る気持だった……。

その他のコンペ部門審査員は、アン・リー、ニコール・キッドマン、クリストフ・ヴァルツ、河瀬直美、クリスティアン・ムンジウなどそうそうたる顔ぶれの総勢9名。監督と俳優、男性と女性がそれぞれほぼ半数ずつで、さらに監督ではスピルバーグとアン・リーという今年のオスカーを競い合った巨匠2人とカンヌに育てられた若手3人に分かれる。彼らがどのように実力派監督の名前が並ぶ作品を審査するのかとても興味が湧いた。記者会見で審査の方針を尋ねられたスピルバーグは「ありません。私の意見はとても単純です。私たちは常に映画館で観る作品をジャッジし、評価し、根本的に何が新しいのかを見ようとします。映画はいつも観客の注意を引こうとお互い競っているのです」と答えた。そのスピルバーグの隣に座った河瀬監督は故郷への思いを作品に昇華させた『萌の朱雀』(97)で史上最年少カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞し、世界へのアピールをまさに見事評価された監督である。河瀬監督は「映画祭は意見交換の場であり友情を築く場でもあります。毎年世界に向けてメッセージを発信しています」と映画祭への敬意を述べ、さらに審査員のミーティングの際のスピルバーグの「我々は職業も国籍も異なりますが、映画への情熱という共通言語を持っています」という言葉を紹介して、審査員たちが初めから熱い思いでひとつになっていたことを窺わせた。

そんな熱気溢れるカンヌのオープニングを飾ったのは日本でもすでに公開済みのハリウッドの大作『華麗なるギャツビー』。レオナルド・ディカプリオを始めとするスターたちが集結するレッド・カーペットが雨に見舞われたのは残念だったが、瀟洒な外観を持つ高級ホテル、インターコンチネンタル・カールトンもアール・デコ調に飾られ街中がひときわ華やいだ。バズ・ラーマン監督による現代的解釈の3Dミュージカルがカンヌに果たして合うのかと心配していた作品のほうも、謎の大富豪の仮面が徐々に剥がれ、切実なただひとつの目的が露わになるほどに胸を締め付けていくストーリーはディカプリオらの熱演によって冴え、時代のファッショナブルさも今となってはどこか必死な虚勢を感じ、成長の光とともに影も見せて現代にも驚くほど訴えかけてくるものが大きかった。

トビー・マグワイア、バズ・ラーマン監督、キャリー・マリガン、レオナルド・ディカプリオトビー・マグワイア、バズ・ラーマン監督、キャリー・マリガン、レオナルド・ディカプリオ ©AFPソフィア・コッポラ監督(左)、エマ・ワトソン(左から3人目)ソフィア・コッポラ監督(左)、エマ・ワトソン(左から3人目)翌日には、トマス・ヴィンターベア監督を審査委員長に迎えた『ある視点』部門のオープニングとしてソフィア・コッポラ監督の『ブリング・リング』が上映された。セレブの豪邸ばかりを狙う高校生窃盗団の実話をもとに、ロサンゼルスという特異な街で揺れる若者たちの心理をドキュメンタリー風に追う作品である。実際に被害に遭ったパリス・ヒルトンの邸宅も撮影に使われ、リアルなクローゼットに溢れかえるブランド物に歓喜するティーンを演じたエマ・ワトソンをはじめとするキャストは溌剌とした魅力に満ちていた。だがガーリーなセンスを散りばめながら、平凡な若者たちが仲間との連帯のもとに犯罪をエスカレートさせていく様子も生々しく描かれ、狂騒の中に憂愁が漂う。被害に遭ったセレブたちからは非難も上がっているが、今しか、そしてコッポラにしか撮れない空疎な時代が見事に映し出されていた。ゴシップとともに生きるコッポラの才気が感じられた。

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第66回カンヌ国際映画祭 (2013/5/15~26) 公式

2013/07/27/14:41 | トラックバック (0)
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