今週の一本
(2008 / アメリカ / ダグ・リーマン)
突っ込んだら負けの"純粋"エンターテイメント

仙道 勇人

ジャンパー1 かなりの自信を持って断言するが、本作を観た人の10中9人は劇場を後にしながらこう呟くことだろう。

 ――で、あのサミュエル・L・ジャクソン率いる「パラディン」ってのは、一体何だったんだ?

 本作は「ジャンパー」と呼ばれる瞬間移動能力者と、ジャンパーを数百年に渡って狩り続けている隠密組織「パラディン」との闘争を描いたアクション映画である。しかし、「なぜパラディンはジャンパーを狩り続けているのか」「ジャンパーの存在が及ぼす"悪影響"とは何か」「様々なアメリカ政府機関の身分証明証を調達し、殺人すら揉み消せるパラディンとはどんな組織なのか」など、この種の作品で観客が当然関心を抱くであろう事柄が、本作では一切描かれていない。これでは観終わった誰もが不完全燃焼感を募らせてしまい、「解かれない謎がてんこ盛りの穴だらけの脚本」と酷評したくなってしまうかもしれない。
 しかし、そうした言説は、こと本作に関して言えば全く的外れと言うべきである。なぜならこの「パラディン」という存在は、所謂「マクガフィン」に他ならないのだから。確かに本作では「パラディン」に関する描写は殆どされないが、これは始めから描くつもりがないのだ。作り手が端から描く気がないものを「描かれていない」と批難したところで何の意味もないのは言うまでもあるまい。

 「ストーリーの展開上極めて重要な意味があるはずにもかかわらず、その実態が劇中で明かされない作劇的な仕掛け」であるマクガフィン、最近では「ミッション・インポッシブル3」(06)の「ラビットフッド」が記憶に新しいが、作劇の方法論としては「物語の梃子となる"あるモノ"」といった限定的な設定である場合が多い。本作がユニークなのは、「主人公と敵対する存在」という物語の根幹をなすべき設定をマクガフィンとして処理している点だろう。そうして「物語性」を自ら排除することで、本作はアクションやCGシーンといった演出を「見せる」方向に特化した作りを目指したように思われる。ジャンパー3
  実際、本作で描かれているのは「追跡者との闘争」や「主人公の恋模様」といった必要最小限のドラマ性だけであり、それも殆ど掘り下げられていない。主人公の言動が徹底的にガキ臭い――15歳で家を飛び出して一人気ままに生活していたので、そこから成長していないということなのだろう――ことと相俟って、感情移入すらさせてもらえない。それでも全く意外なことに本作は90分という短くない時間を、演出だけで最後まで乗り切ってしまっているのである。これは素直に評価できる。

「物語性」を追求した挙げ句グダグダになる映画というのは枚挙に暇がないが、本作のように「物語性」を排除しながら最後まで飽きさせない映画というのはかなり稀と言えよう。勿論、本作に通常のエンタメ作品同様の「物語性」を期待した人は相応の肩透かしを食らわされることになりかねないし、最後の中途半端すぎるオチもいただけないが、「場面場面の映像表現や演出」そのものを専ら愉しむべき作品、映画よりもアトラクションに近い作品であること理解しておけば、それほど不満を募らせるといったことはないはずだ。ここは素直に映像に酔ってしまった者の勝ちだろう。

 なお、本作のように映像の奇抜さや意外性だけを愉しむタイプのエンターテイメント作品は、どうしてもDVD待ちという判断を下しやすいが、個人的にはこういうタイプの作品こそできるだけ設備の良い劇場で観た方が救われると思う。小さな画面、貧弱な音響でも「物語性」はそれなりに堪能できるが、映像表現に関しては目も当てられなくなるのが通例だから。その意味では、本作は極めて「映画的な作品」と言えるのかもしれない。

(2008.3.4)

ジャンパー 2008年 アメリカ
監督:ダグ・リーマン
脚本:デヴィッド・S・ゴイヤー,サイモン・キンバーグ,ジム・ウールス 撮影:バリー・ピーターソン
出演:ヘイデン・クリステンセン,サミュエル・L・ジャクソン,ダイアン・レイン,ジェイミー・ベル,
レイチェル・ビルソン,トム・ハルス,マイケル・ルーカー (amazon検索)
(c) 2007 Twentieth Century Fox
公式

3月7日(金)より日劇1ほか全国超拡大ロードショー!

ジャンパー 上 (1) (ハヤカワ文庫 SF ク 8-5) (文庫)
ジャンパー 上
スティーヴン・グールド (著)
おすすめ度:おすすめ度4.0
ジャンパー 下 (3) (ハヤカワ文庫 SF ク 8-6) (文庫)
ジャンパー 下
スティーヴン・グールド (著)
ジャンパーグリフィンの物語 (ハヤカワ文庫 SF ク 8-7) (文庫)
ジャンパー
グリフィンの物語

スティーヴン・グールド (著)
おすすめ度:おすすめ度3.0

2008/03/05/00:22 | トラックバック (5)
仙道勇人 ,「し」行作品 ,今週の一本
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