インタビュー
松江哲明監督1

松江 哲明(ドキュメンタリー監督)
Part1

『セキ★ララ』
6月3日(土)~23日(金)21:00~
シネマ アートン下北沢にてレイトショー公開

公式サイト:http://seki-lala.com/
松江哲明ブログ:http://d.hatena.ne.jp/matsue/

松江 哲明(ドキュメンタリー監督)1977年生まれ。 日本映画学校の卒業制作として作った『あんにょんキムチ』(99)が、韓日青少年映画祭監督賞、 山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞等を受賞し、国内外で話題となる。以降、 『カレーライスの女たち』『呪いのビデオシリーズ』『2002年の夏休み/沙羅双樹』などを監督。最近では 『ビタースイート』『かえるのうた』といった映画作品の予告編制作のほかに、テレビ東京で放映されて議論を巻き起こした『森達也の"ドキュメンタリーは嘘をつく"』の編集も手がけている。なお『セキ★ララ』は、 カンパニー松尾率いるAVメーカー、ハマジムから発売された『Identity』の再編集版である。

05年度の山形国際ドキュメンタリー映画祭に正式招待された本作は、二部構成となっている。第一部は、 在日三世のAV女優・相川ひろみが生まれ故郷の尾道へ向かうセンチメンタル・ジャーニー。第二部は、マイケル・ジャクソンに憧れる在日二世のAV男優・花岡じったと、中国人留学生にしてAV女優・杏奈の横浜中華街デート。カメラの前であっけらかんと裸になる彼らの姿が微苦笑とともに捉えられ、 愛らしくも赤裸々なニンゲンの喜劇が浮き彫りにされていく。この作品を見たあと、人はアイデンティティについて、自分の家族について、誰かと話さずにはいられなくなるだろう。劇場公開を実現させた松江監督に話を伺った。

 

――まずは『セキ★ララ』の成り立ちから教えてください。

松江哲明監督2松江 プロデューサーのカンパニー松尾さんが声をかけてくれたのが始まりです。 その前にハマジムで何本かAVを作っていたので、この業界に在日の人がけっこういることは知っていました。面接の時、年齢確認のために自動車免許証とか住基カードを提出してもらうんですけど、その中によく外国人登録証を出す人がいたんです。

――日本映画学校の卒業制作として作った『あんにょんキムチ』(99)では、 在日三世である自らの出自を、それまでの「在日ドキュメンタリー」のステロタイプを覆す軽妙な切り口で捉えました。

松江 「在日」というのは、 作品から普遍的なものを導き出す取っ掛かりとして使いやすいんです。だけどAVという、「人間が裸になってセックスをする」 という場の中で、それを撮っている作品が少なかった。僕が覚えているのは、バクシーシ山下監督が撮った、 『私が女優になった理由~望郷編』(94、V&R)という作品です。二部構成の作品で、 後半が在日のAV女優の子と花岡じったさんさんが一緒に韓国まで行こうとするんだけど行けない、という作品で、 もの凄く面白かった。在日の公表がNGという子もいますけど、「裸になるのがOK」という子だから、 そうしたプライベートの話も垣根が低いんです。

――『セキ★ララ』はハマジムからオリジナル商品「Identity」 として発売されましたが、その後、劇場公開に踏み切った理由とは?

松江 商品が売れなかったんです、単純に。 そりゃまあ、AVを見るのって、男が下半身を出しているような状況ですから、そこでいきなり「日本と韓国は……」 みたいな歴史解説から始まってもね(笑)。ただ、僕が昔見て好きだったAVというのは、 セックスとかオナニーが一番の目的じゃなくて、「裸が撮れるから撮れるもの」、つまりセックスの前後が面白い作品だった。 そうしたものはテレビのドキュメンタリー番組や映画館では見られないものだったし、「対個人」 みたいな訴え方をしている作品が多くて。そういうのに惹かれて僕はドキュメンタリーを面白いと思ったし、 AVも面白いなと思っていたんで。

「Identity」は、2005年度の山形国際ドキュメンタリー映画祭で、 セックス場面をある程度削ったバージョンで上映され、映画祭史上初のAV作品として話題を呼ぶ。 当初上映が予定されていた客席では間に合わず、急遽200席の大ホールに変更して上映されたが、 立ち見も出る盛況振りだったという。
――再編集バージョンを映画祭で上映することに関しては批判もあったようですね。

松江哲明監督3松江 作品を観ていない人から、雑誌で「セックスシーンを抜くならAVで作った意味がないじゃないか」みたいに書かれたことがあります。でも僕にとっては全然違います。セックスがあるから、脱ぐ前と脱いだ後のインタビューが撮れるんだし、セックスを見せる覚悟がある人たちだから、故郷や自宅までついていける。例えばこれを映画やテレビドキュメンタリーとして企画したとしても、(作品に収められたような)彼らのインタビューを撮るまでには長い時間がかかるかもしれない。それ以前に、テレビや映画には多くの枷がある。 逆にAVという枷だったからこそ、こういう話が撮れたと思うんです。

――山形での反応はいかがでしたか?

松江 上映中、最初のカラミで観客が引くんですよ。 「うう!?」みたいな。ドン引き(笑)。会場が「あ、これAVだっ!」っていう空気になって。 ただ話が進むにつれて絡みの意味も分かってもらえたというか。第一部の相川ひろみがセックスの最中に「気持ちいい、気持ちいい」と言ったことに対して、僕が「あれ嘘っぽくない?」って突っ込んだり、そこでの彼女の表情と、インタビューシーンでの表情との違いとか、そういう「裂け目」が作品ににじみ出てくる。それらの意味は、観る人が自分の中で補っていく素材です。そういう意味で、セックスが入るAVってすごくいい表現媒体なんです。だからそこを僕全然マイナスに思っていない。

――最初の絡みがあった後に、作り手と被写体との関係性の変化みたいなことはあったんですか?

松江 どうでしょう。でもセックスってやっぱり大きいですよ。セックスシーンを撮った後って、それを撮ることが事前に分かっていても、「あ、撮っちゃったね」みたいな空気になるんですよ。……あれは説明しにくいな。分かりやすい言葉でいうと「油断する」みたいな感じです。お互いに。ましてやスタッフ皆で雑魚寝みたいな状態で一緒に寝て、次の日お互いに歯を磨いていたりとか、コーヒー一緒に飲んだりとか、今日どこ行こうかみたいな会話していると、けっこうみんな一体になりますよね。だから一部の最後に彼女が涙を見せて、「家族みたい」と言ったのは、なんか凄い分かります。

――面白かったのが、素人男優の松山さん(笑)。彼は何者なんですか?

松江 松山さんは……素人男優(笑)。そのままですよ。よく聞かれるんです、「松山さんに特別な意味は?」とかって。ないです、そんなの(笑)。「3、4日一緒について来られる人っていないですかね?」って松尾さんに言ったら、「ああ、いるよ」。それでなんとなく出てもらった。だから彼が作品に登場するあの瞬間、あの時に本当に初めて会った。作品自体、結構そういうノリなんです。第二部に出てくる中国人の杏奈ちゃんに関しても、「松江、在日だったら中国人でもいいのか?」みたいに言われて、それで「ああ、いいッスね、面白いッスね」(笑)。本当にAVのノリで作っている。そっちの方が僕は面白いような気がするんです。僕の作っているセルフドキュメンタリー的な作り方だったらなおさら。例えば突然歴史なんか勉強しだして、松山さんに「彼女を韓国人として意識してセックスしてください」とか、そんなの出来るわけないです(笑)。

――松山さんの存在って、結果的に非常に大きいですよね。

松江 そうですね。最初のインタビューを海辺に持ってきたのも、「普通のお客さんに近い目線」というのを置きたかったからです。相川ひろみと僕って、ある種阿吽で分かっちゃうところがあるんです。家族の話にしても、紅白歌合戦の話にしても。そこじゃないところを一回もってこないとなあ、と思っていて。それで海辺で撮影した時、松山さんに「ここで、松山さんが思う在日のイメージとかそういった質問を彼女にしてもらえますか」って頼んだ。撮りながら「よっしゃあ」と思ったのが、謝ったんですよね、松山さんが。「ゴメンね、僕なんにも知らなくて」って。あれが、あの意識が、いわゆる日本の……僕から見た……その、謝るんですよね、在日に対して。「ゴメンねぇ」みたいに(笑)。

――それでセックスになると異常にノリノリになるっていう、あの落差がまたよかった (笑)。一体どっちに興味があるんだみたいな。

松江哲明監督4松江 だから僕は二の次でいいと思うんです。在日ってキーワードでしかない。そこだけを描くのはプロパガンダ的な作品に任せればいいわけだし。作品で社会を変える、みたいな意識はあってもいいと思うんです。だけど、『あんにょんキムチ』の頃から、僕の中で「在日」というキーワードは作品を面白くするためのツールでしかない。なぜか裸で喋っているとか、なぜかセックスをしているとか、そっちの方が面白いと思う。そういうレベルで喋らないと逆にお客さんも見たくないだろうし。とは言っても、そこから浮かび上がって見えてきたものは、お客さんにバックしたいというつもりはあります。

――例えば原一男さんだったら「関係性」ということをひたすら言うじゃないですか。あるいは森達也さんとか佐藤真さんとか、政治とか社会問題にどこかしら必ずコミットしている立場の、上の世代の監督達、そういう方達に対するある種のアンチテーゼっていうのはあるんですか?

松江 アンチテーゼではないですけどね。原さんの映画とかは好きですから。僕もやっぱり「関係性」ということは言います。「関係性」だけですね、僕の作品も。だから僕、会った瞬間からカメラ回すんですよ。相川ひろみもインタビューで会った日からカメラは回しているし、逆にそこでカメラを回さないでくださいと言われれば、「撮れなかった」ということを関係性で出したい。だから原さんとか上の世代の方と違うのは表現の仕方とかだと思います。ただ、原さんが撃とうとする相手はいつも大きいじゃないですか。僕はああいうスタイルではないですよね、はっきりと。原さんが在日をテーマにしたら『あんにょんキムチ』みたいな形にはなりえないですよ。例えば、在日全体の中で、朝鮮学校に行っている人ってほんの数割です。それが「在日」と一括りにされたり、過去の歴史問題や差別問題のみで語られることに対する凄い違和感はあった。そういうものへの反発から『あんにょんキムチ』ができたというのはあります。だから、アンチテーゼと言うよりも、自分の実感や生きている環境に忠実であろうということです。一口に「在日」と言ってもいろいろいるわけです。僕みたいに、日本の学校で育って、だけど家の中にキムチがあってとか、ちょっとした柵があるだけの在日もいる。そんな僕もいるし花岡さんもいるし相川ひろみもいる。みんな違うわけです。

――僕が作品の中で一番面白かったのは、二部の花岡じったさんです。彼が 「富士山を見て綺麗だと思うのは日本人だ」とか「アイデンティティは日本の社会だ」とか言っている割に、部屋に行くと両親と同居していて、異常にスーパースターに対する憧憬があって、雄々しい前言がどんどん崩れていく。そこで僕は不満というわけではないんですけど、崩れていく花岡じったに対して監督はどう迫るんだろうっていうところを期待したんですが、現場ではあまり突っ込んでいなくて、編集段階で彼の矛盾をじわじわ炙り出していく手法を取っているというのが……。

松江 「崩す」という手法だと、まさに原さんとかの作り方じゃないですか。今までの、旧世代の作り方ですよね。僕は崩せなかったら崩せないでいいと思うんです。ああいうスタイルで撮影をしていて、「OK」の瞬間はあると思うんです。「崩した、撮れた、よしOK!」っていう瞬間が。でも僕はそれにちょっと疑いがあります。撮影が終わってからも僕と花岡さんの関係は続くし、人生はずっと続いていく。だから僕は今カメラがある中での、今撮れる関係性の全てを見せる、ということであればいいと思っています。あの場面であれば、花岡さんと僕の一致しない関係性が見る人に伝われば、後はもうお客さんが自分の中で補完するとか、そこを考える余白を残せればいいなって。

――花岡さんは完成した作品を見て何か感想を?

松江哲明監督5松江 「なんで俺が第一部の女とヤっていないんだ」 って(笑)。「俺は同じ民族同士でセックスしたかった。だからこんな作品ダメだ」って言って、けっこう不満気味ですよ(笑)。

――それは何か自分の嫌なところを撮られちゃった、恥ずかしいな、というところがあるんですか?

松江 と言うよりも、花岡さんは嘘偽りなく、本当にセックスが好きなんですよ。僕はあんなにセックスを愉しむ男優さんを見たことがないです。撮影が終わって監督がOKを出したら、「後は俺の時間だ。後は俺の好きなようにセックスするから」。そういう人なんです (笑)。それで花岡さんがずっと言っているのが、やっぱり「第一部のあの女とヤりたかった。それがあればこの作品はもっと良かったのに」(笑)。その時は「ああ、なるほどな。より深くなってたかもな」と思いましたが、後々付き合っていくと「ただやりたかった」だけかもしれませんね。けど、それがまさに花岡さんらいいところかな、と思います。

――この作品はどういうお客さんに見て欲しいですか?

松江 例えば今、世の中で「勝ち組、負け組」とか物事を二つに分けるじゃないですか。だけど、その両極端にいけない人や端っこにずれている人っていうのが世の中にはいるわけです。それこそAVを観る人だったりとか、僕の場合だとAVを作る人だったりとか。その外れている人に向けて作る。それは昔からあんまり変わらないですね。自分自身がそうだったから。

(次回に続く)

取材/文:膳場岳人、撮影:仙道勇人

セキ☆ララ
セキ☆ララ
あんにょんキムチ (単行本)
あんにょんキムチ

2006/05/31/16:06 | トラックバック (1)
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