今週の一本
(2006 / 日本 / 山田洋次)
みんなで持とう、武士の一分

百恵 紳之助

  木村拓哉扮する、武士の中ではそれほど身分の高そうもない武士の仕事は毒見役。 藩主の食べる飯をその前に食って毒入りかどうかチェックするというお仕事。木村はそんな仕事をやりがいのないものと感じているようで、 行く行くは近所のガキどもに剣を教えて暮して行きたいなあ。一人一人の個性を見極めた教えた方をしたいんだわ、俺。給料減るけどさ。 なんて夢を女房に話したりして、女房もそんな話を「ようございますねぇ」なんてセリフはないけれど、 好きなことをやっておくんなましと受け入れていて仲良さげな夫婦だ。

 ところがある日、そんな幸せそうな夫婦を襲う事件。 亭主が毒見で食べた赤貝だかつぶ貝の刺身で視力を失ってしまう。ついでに仕事も失っちゃう。親戚一同集まって、さぁ、どうするの一族会議。 私がどんな仕事でも働くと女房は言うが、一応武士の女房たるもの何の仕事でもいいわけがないだろと言われる。そんなとき、 以前から亭主の女房に目をつけていた上司が女房の前に現れる。「私が話をつけてもいいですよ、奥さん」と。数日後、 仕事を失った亭主の下に朗報が入る。会社は今までと同じ給料を払っていくと。ありがたいと思う亭主だが、 同時にここ数日女房の帰りが遅いことを心配もしていた。で、あるとき部下の男に女房のあとをつけさせると、何と女房はラブホに入っていた! 亭主は女房を問い詰める。白状してしまう女房。いくら自分のためとはいえ、嫉妬に狂った亭主は女房に離婚をつきつける!武士の一分。亭主、 さぞや辛かったことと思う。仕事を失い、女房は収入のために上司とセックス。目まで見えなくなってしまい、 悶々とした日々を過ごしまくっていたに違いない。離婚を突きつけられた女房は素直に出て行く。「バカッ!ホントに出て行く奴があるか!」 とさらに嫉妬に狂った亭主はその場で女房の服をむしりはがし、いつも以上に燃え上がる。なんていうことはない。武士の一分。 それからどれだけの悶々があったことか、狂おしい妄想があったことか想像に難くない。だが耐える。多分涙の自慰もせずに。武士の一分。 数日後、同じ給料が払われるというのは社長の計らいで、上司の男は何も関係なかったことがわかる! 怒りに燃えた亭主はその上司に決闘を申し込む!己の復讐でなく、そんな目に合わされた女房のため。これぞ本物の武士の一分。 女房の体を散々弄んだ上司を叩っ切る!そして帰ってきた女房をネチネチネチネチと攻め込む。こともない。武士の一分。

 も少しだけグジグジしながら武士の一分しちゃってもいいんじゃないかなあなんて思ったが、 まあそれは個人的な好みだ。

 ほぼスクリーンでしかその姿を見ることの出来ない浅野忠信とは正反対に、 ほぼテレビでしかその姿を見ることのできない木村拓哉。私がスクリーンでその姿を見たのは実に「シュート!」(大森一樹監督)以来。 まだ森氏もいたころだ!。新鮮だった。ちょっとトボケた味の武士を好演。とても良かった。素晴らしかった。 今後もこのスタンスを守りに守ってスクリーンではここ一番の姿だけを見せてもらいたいものだ。女房役の壇れいも初々しくも艶のある演技、 良かった。首筋に光る汗。亭主でなくとも、その汗ほっといて、いやあえてふかなくていいから早くこっちに来いと言いたくもなるだろう。 そんな二人を取り巻くベテラン陣は言うまでもなく素晴らしい。

 どうせ飽きてほっぽってしまっているくせに、でも、 女房の周辺に男の匂いがするとすぐに騒ぎ立てるであろう世の男性諸君、やせ我慢でも武士の一分持ちましょう。と言いたいところだが、 やはり自分のためとは言えセックスされるのはなあ…。いやでも、清々しいほどに差し出し、黙って耐えるのもある意味武士の一分か…なあ。

(2006.12.10)

2006/12/11/11:38 | トラックバック (0)
百恵紳之助 ,今週の一本
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