脳内i-pod・サウンドトラックコーナー繁忙記
第九回
緊急企画『大都会』の音楽世界。第三弾!!!

佐藤 洋笑

 ついに放送が開始されましたね、『大都会―闘いの日々―』。

大都会Part3 なんのかんの言いつつ再放送のわりにJR新宿駅に告知ポスターが貼られたり、こんなキャンペーンがはじまったりとこの日を待ちわびていた我が鋼鉄の同士が多数潜伏している模様です。

 それにしても、初回の2話連続放送にはしびれました。観終えた後は感動のあまりまんじりともせずに一晩明かしてしまいました。おかげでこの原稿含め、仕事遅れまくってますが、まあ、それは言い訳ですね。ともあれ、オレにとっては、これから2年半、とりあえず生き延びる理由がみつかったという感じで、こんな世知辛い世の中ですが、なんとかやっています。放送日の毎週金曜9時が楽しみです!

 さて、かってな盛り上がりではじめたこの原稿もついに第三弾、一つのピリオド、であります。今回は『大都会』シリーズ第三弾の音楽を肴にお話いたします。

『大都会 PART Ⅲ』 (作品の詳細については、こちらをご参照ください。)

 道幅いっぱいに並走してくるパトカー大名行列――当時の花形フェアレディZを筆頭に、もう蛇行しちゃっているようなクルマも交えた日産車、約30台――が視聴者のド肝を抜いたオープニングからエンジンは臨界点。環八道路ではバズーカを乱射しながらトラックが疾走し、六本木の街中で理髪店が大爆発。ヘリコプターからは女子高生が突き落とされ、人質はダイナマイトを巻きつけられて刑事達の眼前で爆発四散。こんなことは日常茶飯事の花の都・大東京を舞台に、自衛隊レンジャー部隊で訓練を積んだ末に武装一式を持ち出してきた復讐鬼や、バスジャックのすえ警察署に特攻をかけてくる殺し屋・成瀬正など、常軌を逸した犯罪者との一大バトルが約一年間にわたり展開されました。往時のハリウッド製ポリス・アクション・ムービー、特に全盛期のクリント・イーストウッド御大のアクション映画の数々に真っ向から勝負を挑むかのような衝撃映像の数々が、目を閉じれば瞼の裏に浮かびます。

 その癖、密室に閉じ込められた黒岩と護送中の犯人・林ゆたかに芽生える奇妙な友情を描いた「ブラック・ホール」、普段は嫌味なだけの高城淳一演じる課長が部下のために命を張る「マイナス18℃の恐怖」、些細なことから重罪に手を染めてしまう、中西良太演じる気のいいチンピラの悲劇を描いた「自動車泥棒」などのセンシティヴな味わいの話もシャブの発作のように繰り出してくるあたり、観ているこちらも命がけの超大作でした。ああ、もう思い出すだけで、ココロとカラダと愛がねじれて、オレはどうにかなってしまっています!

この作品から、黒岩以外の刑事達もローテーション的に主役を担うようになり“黒岩軍団”として大活躍。峰竜太は、お笑い色一切なしで抜群の運動神経で暴れまくり、それまでラヴコメの二枚目半みたいな役柄が主流だった寺尾聰は、ダーティハリー時代のイーストウッド御大のコスプレで44マグナムを乱射。高品格とともに、第一作からのレギュラーを勤めた小野武彦は、前作でも三上寛の人質としてステテコ一丁で東京タワーに上ったりの役者魂で視聴者を魅了してきましたが、本作では心なしかよりアクティヴに暴走しております。彼は、三谷幸喜作品などでより広く知られるようになった今も、インタヴューの折に“僕は『大都会』に出ていたんだから、アクションだってまだまだいける!”と、一ファンとして、とても嬉しくなる発言をしています。

 さて、本作の音楽は今は亡き日本の名門ジャズ・ビッグ・バンド、高橋達也と東京ユニオンが演奏を一手に手がけています。リーダーである高橋達也(SAX)以下、総勢13名のホーン・セクションが繰り出すブラス・サウンドはともかく圧巻。作曲と編曲は、関西方面で名を馳せていた荒川達彦が一手に手がけました。荒川は、同年、高橋達也と東京ユニオンがモンタレー・ジャズ・フェスティバルに出演した際の演目「源氏」の作編曲も手がけていました。また、高橋達也と東京ユニオンはハコバンよろしく「スター誕生」や「突撃! ヒューマン」などの日本テレビの公開バラエティの演奏も手がけていました。こうした諸要素が絡まり、このなんだかスゴイことになったとしか言いようのない、奇妙かつ奇跡的にゴージャスな映像と音楽の組み合わせが実現したのでしょう。

 当時発売された本作のサントラ(ポリドール MR-7042)は、78年という時代柄、フュージョン的な要素も強く、随所でビシッバシッと決まるブレイクなんかはカッコよすぎで不覚にも笑みがこみ上げる瞬間さえあります。大野雄二の諸作と並ぶまごうことなき名曲であるメイン・テーマのほか、サスペンス楽曲を見事な組曲とし、ミステリアスかつダイナミックに仕上げた8分強の大作「INDIAN MEDICINMAN&G'URU」、カーチェイス場面でおなじみの「ONE FLOOR HOUSE」、高橋達也の魅力炸裂なバラード「MOON FLOWER」まで、聴き所だらけの名盤です。現在は、『大都会』サウンド・トラック PREMIUM BOXに収録され、復刻を果たしましております。

 また、本作もアナログ盤では納めきれない分量の音楽が録音され、番組では多用されておりました。それらについては以下のCDでバッチリフォローされております。

「大都会PARTIII」 MUSIC FILE 「大都会PARTIII」 MUSIC FILE
 これに加えて、毎回のエンディングを飾ったのが、渡の名曲「日暮れ坂」。前番組、『大追跡』では、大野雄二が、フュージョンタッチのBGM&トミー・スナイダー歌唱の英語詞挿入歌で洒脱なトーンを整えていましたが、ド派手ながらも哀感あふれる『大都会』には、このレア・グルーヴと演歌のなんとも言えない組み合わせが似合います。コレこそ、和製ハードボイルドのあるべき姿と、30歳を越え、ヤングを観たら敵だとしか思えない今日この頃、ハッキリと確信しています。

 なお、余談ではありますが、荒川達彦は自身のバンド、荒川バンドでも並行して活躍しており、後に岡野等(Tp)をフィーチャーして、松田優作主演の『野獣死すべし』の音楽の演奏を手がけており、その『野獣死すべし』のテーマのセルフカヴァーも収録した「HARD BOILED」(コロムビア YF-7009-ND)など、オリジナル・アルバムも多数残しています。和製ハードボイルドの影に、日本のジャズは欠かせない、といった感じでしょうか。とまれ、“刑事ドラマの音楽”を通りこして、“石原プロの音楽”というような域に達してしまったような感もある『大都会 PART III』のサウンド。これは、後の『西部警察 PART II~PART III』でも演奏を担当したことからも明らかでしょう。まあ、その後の『西部警察』への移行に始まる物量作戦アクション化への流れに対するオレの個人的な感想はさておき、『大都会』シリーズは、3作品にわたって果敢な試みを映像で、ドラマで、音楽で試みてきたのです。

野獣死すべし しかし、こうして振り返ってみると、『大都会』というのは、本当に音楽とともにありな番組だったな、と思えます。シリーズ各作が、いづれも前作の好評を受けての続編というより、その作風への反動のような、微妙に設定や世界観を変えたパラレル・ワールドとして存在しており、いずれも実に極端(笑)な個性を発揮していると申しましょうか、それを端的に示すのが、この多彩な音楽群だったと思えてなりません。

 ともあれ、20年前――「夕焼けニャンニャン」の全盛期。あの手のノリまたくついていけず、友達なんか一人もいなくて、学校が終われば一目散に家に帰っていたオレのココロを救ってくれた『大都会』の再放送に、また巡り逢えることをココロの底から嬉しく思います。まあ、実際には、夕方4時から『大都会』、5時から「夕ニャン」を観るというローテーションを組むツワモノも多かったようですが…って、閑話休題。燃えるより前に萌えることが男のたしなみと化している現代、本作がどのように受け入れられるのか、それとも受け入れられないのかを勇気ある態度で見つめ続けていきたいと思っています。

2007/09/21/13:25 | トラックバック (0)
佐藤洋笑 ,脳内i-pod
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