1977年、東京都。
――人口1168万。警視庁警察官4万267人。犯罪発生件数20万9千件。犯罪検挙率88%。(『大都会 PART II』オープニング・ナレーションより)
――あれから、すでに30年。特に検挙率のあたり見ると隔世の感がありありですが、『大都会―闘いの日々―』の放送時間も2007年9月7日(金)の20時からと決定し(http://www.nitteleplus.com/next.html)、気持ちが昂ぶる限りの今日この頃、いかがお過ごしですか。オレはやはり日テレプラスで放送中の『大激闘マッドポリス'80』も、7年ぶりぐらいに観ているんですが、これも実に面白くて面白くて面白くて、もう家から一歩も出たくありません! 外出する暇があったらテレビが見たいです。
さて、今回は、前回に引き続き、『大都会』シリーズ第二弾の音楽を肴にお話いたします。
『大都会 PART II』
(作品の詳細については、以下をご参照ください。http://www.ishihara-pro.co.jp/daitokai_02.html)
企画書に一言、“四~五年前から、彼は悩むことをやめた”とモノすごい形容が添えられた、渡哲也演じる黒岩は、部長刑事に昇進しつつも、現場の最前線でハードボイルド一直線。野獣捜査線を炸裂させます。とはいいつつも、被害者家族に不幸を告げる酷な役割を果たす前に缶ビールで勢いをつけたり、ヘマをした部下への鉄拳制裁を後々まで悔やんだりと、実に人間くさく魅力的。また、このモロに中間管理職っぽい地位でいながらガッチリ主役というのも珍しいパターンではないでしょうか。一方、本作以降の裕次郎は警察の嘱託病院の赤ひげ先生にシフト・チェンジ。昼間から酒かっくらいつつも、黒岩を暖かく見つめるポジションをキープしつつ、時には立場の違いから対立する存在としてドラマを引き締めます。このなあなあ感のなさは、本シリーズ通じての魅力です。
加えて、無茶なアドリブで暴走する黒岩の右腕に『探偵物語』前夜の松田優作。人情味あふれる取調べから軍隊経験を活かした暗号解読まで大活躍のおやっさん刑事に高品格。こうした豪華レギュラー陣が固めた城西署捜査一係と対決するのは、東京タワーで銃を乱射するモヒカン刈りの三上寛、警察署ジャックを敢行する斉藤晴彦、爆弾魔の梅津栄や小林稔侍、未だココロは戦場にありの元帝国軍人・根上淳とこれまた現在のテレビの枠からはみ出しまくりの豪華メンツ。ド派手なカーチェイスから、緻密なアリバイ崩し、ディープな社会派までバラエティ豊かな名作群をおくりだしました。脚本は永原秀一、佐治乾らを中心に、アクション派・神波史男、柏原寛司らが活躍。演出は前作でも圧倒的にシャープな演出だった村川透をメインに、舛田利雄、蔵原惟繕、澤田幸弘、長谷部安春ら錚々たる面々が並びます。
印象的なメイン・テーマは杉本真人・作曲。「M氏への便り」などが有名な、シンガーソングライター、というより自作自演歌謡曲歌手といった人物です。もっと言うと小柳ルミ子の「お久しぶりね」「今さらジロー」などもこの人の作品です。歌謡曲を偏愛する全身ロック・アーティスト、近田春夫大先生が、自ら歌謡曲の現場に身を投じた大傑作アルバム『天然の美』においても「哀愁専科」なる佳曲を提供しています。このメイン・テーマ、ホント、歌い上げている! という感じのメロディでして、ペットの響きがグッときます。松田優作は、この曲に歌詞をつけたものを当時の「番組対抗歌合戦」みたいな特番で披露していたそうですが、いかにもそういう欲求にかられる曲です。
さて、そのメインテーマなどの演奏と、劇中音楽の作曲の大半はGAMEなるグループが担当しました。
GAMEとは、キーボーディストとして著名な深町栄氏が当時率いていたユニットです。メンバーは、深町栄(keyb)、 小室邦男(bass) 、長尾謙一(ds)、 伊勢田真資(guitar)といった布陣です。同時期には、山科晴義や“とんぼちゃん”といったフォーク系シンガーや、石川ひとみのアルバムなどにクレジットされています。
今回、勇気を出して深町氏に取材を申し入れたところ、快く『大都会 PART II』当時のエピソードを語ってくださいました。
当時、福生周辺の米軍基地を中心に活動してきたGAMEは、今となっては伝説とも思える1968年創業の、日本初のディスコテック、赤坂の「ムゲン」(往時のクリエーターたちの社交場であり、若き日の山本寛斎がオリジナルの小物を売り、横尾忠則、篠山紀信、加賀まり子、安井かずみ、沢田研二らが集ったといいます)にも出演していました。そして「ムゲン」にてソウル、ファンク的ニュアンスの濃い演奏を繰り広げていたGAMEに注目したレコード会社(ポリドール)のディレクター氏は持ちかけた仕事が『大都会 PART II』の音楽だったとのことです。
このGAMEの演奏は、抜群の作曲&アレンジ・センスを武器に、重厚から軽妙まで多彩に弾きまくる深町氏の鍵盤類が主役です。また、深町氏に伺った経歴ももっともとうなずける強靭かつ印象的なリズム・セクションがあいまって、「焦燥」「尾行」「緊迫」みたいなサスペンスフルなシチュエーションorエモーションを盛り上げまくってくれます。このコンボの上に、大々的にホーンやストリングスが参加したのが、前述のメイン・テーマと初期のクライマックスによく挿入された「追跡」(こちらはすぎやまこういちの弟子筋のあかのたちおが作曲しています。メイン・テーマ候補だったのかも)の二曲。これらもゴージャスさとともに、緊張感ある演奏で、1分半程度と時間が短いのが惜しい名曲です。この両曲のアレンジには、荒木一郎などの傑作群に参加し、副島輝人氏の名著「日本フリージャズ史」にもチラリと登場する江夏健二が関わっています(彼は、現在は本名のウォン・ウィン・ツァンとしてヒーリング・ミュージックの大家として活躍しています)。また、レコーディング時のホーン・セクションには名手・ジェイクHコンセプションらが参加していたとのことです。
ストレートなロック・サウンドは、この当時徐々にドラマのBGMに浸透しだしていたかと思いますが、こうした本格的に黒いフィーリングを持った演奏が持ち込まれたのは、さりげなく画期的だったのではないでしょうか。緊迫感のあるドラマとのマッチングも最高で、まさに画と音が一体となって記憶されています。
また、前述の「追跡」には、クィンシー・ジョーンズの「鬼警部アイアンサイド」、挿入曲の「クロのテーマ」にはアイザック・ヘイズの「黒いジャガー(シャフト)」などに共通する味わいが感じられ、アクション映画好きにはたまりません。また、深町氏曰く、作曲時にはラロ・シフリン(「スパイ大作戦」『ダーティハリー』『燃えよドラゴン』)やジョン・バリー(『007』シリーズ、『国際諜報局』)などの存在が心の中にあったそうです。表面的な形式ではなく、もっと根っこのところで、こうした音楽の洒脱さや、タフさを消化しているのが、GAMEのサウンドの肝のように覚えます。
こうした楽曲群を収録したのが『「大都会PART II」サウンド・トラック』(ポリドール MR-7020)。イメージ・アルバム的に録り直された楽曲が収録されることも多かった当時、番組でもガシガシかかる楽曲を惜しみなく収録した名盤です。現在は、『大都会』サウンド・トラック PREMIUM BOXに収録され、復刻を果たしました。
こうした、少し前の言葉で言えばレア・グルーヴ的評価も可能な音楽を背景に捜査を展開しつつも、物語を〆るのは、大御所遠藤実・作曲、渡哲也・歌唱のムード歌謡「ひとり」というのも、実に味があります。
ちなみに、深町栄氏は、その後、桑田佳祐、BOROなどのバッキングや、小林克也&ザ・ナンバーワン・バンドなどで大活躍。オレも日本のロック好きとしてその演奏をおおいに楽しませていただいております。中でも、84年の矢沢永吉のツアー“I'LL BE BACK SOON”の演奏が、オレには印象的で、当時、テクノ・ポップ的なサウンドにアノ永ちゃんが挑んだことで話題を呼んだ傑作アルバム『E'』の楽曲を、フィジカルな味わいのバンド・サウンドとして展開するのに大いに貢献していました。また、後の『あぶない刑事』にて、柴田恭兵の強烈な挿入歌も何曲か作曲していたり、結構、この手の仕事に縁があるようです。近年では自身がリーダーシップをとる“フラバルー”や、 南條倖司氏がヴォーカルを担うファンキーかつソウルフルな“南條 SOUL BAND”などで、旺盛な演奏活動を繰り広げておられます。
また、本作では2クール目の中盤あたりで、追加録音が行われた模様で、ミクロコスモスIIなるグループの演奏による、サントラ第二弾(ポリドール MR-7022)も発売されており、こちらも今回のボックスに収録されています。追加音楽は、キーボーディストとして、後にシンセサイザー・ミュージックの分野で活躍する淡海悟郎が手がけています。彼が手がけた「グイン・サーガ」のイメージ・アルバムとかを昔愛聴していたなんて方も多いのではないでしょうか。東映戦隊シリーズの衝撃作『光戦隊マスクマン』も手がけています。時期的には、ちょうどテクノ前夜いった感じの頃ですが、ここではディスコ・サウンドとも一味違う、ジャズコンボとアナログ・シンセの融合といった趣のサウンドを展開しています。メイン・テーマ、「クロのテーマ」のリアレンジは番組中でも効果的に使用されました。馬渕一のフルートをフィーチャーしたアクション曲「タイム・キーパー」や、サスペンスフルなイントロから哀愁のメロディにダイナミックに展開する7分強の大作「ミスティ・デイブレイク」などが聴き所。そのほか、ブルース・ハープの妹尾隆一郎など、興味深い面々が参加していますが、ギターの鈴木喜三郎というヒトは、あの作曲家の鈴木キサブローでしょうか?
なお、本作についても、未収録楽曲が多数あり、補遺的な形で以下のCDが発表されています。
「大都会PARTII」 MUSIC FILE
当時のサントラに収録し切れなかった楽曲をガシガシ収録。GAMEのパートではおなじみのサスペンス音楽を多く収録。緊迫感のある演奏のオンパレードがカッコいいです! 通して聴いてるとテンション高くて疲れそうになりますが(笑)。ミクロコスモスIIのパートでは番組後半に多用された場面展開ブリッジの収録が嬉しい限りです。マニアっていいですよ。こういうことで、本当に喜べます。ついでに言うと、当時番組でかかっていたメイン・テーマは編集が加えられ、少々演奏時間が長くなっているのですが、その編集は現在まで一度も再現されていません。なので、自分はPC上で編集して再現して聞いています。ROXIOというメーカーの編集ソフトが使い勝手がいいですよって、ますますヨタ話ですいません。
さて、本作はその人気の高さから、続編を作ることを前提に終了しました。最終回にはそのことを予告するテロップも流れ、興奮したものです。この傑作ドラマがもう観れない現実への哀しみとまだ観ぬ新作への期待で張り裂けそうな思いをした当時がフラッシュ・バックしてきて、ああ、またまたアタマがどうにかなってしまいそうです! ちなみに『大都会 PART II』は2008年再放送予定!!
――その後、大野雄二のBGMを得て、悪がはびこる犯罪都市・横浜に集められた実写版ブラックジャックの加山雄三、スコッチ刑事兼棺桶の錠の沖雅也、A級ライセンス所持のアクション派女優・長谷直美、デヴューしたばかりの柴田恭兵、『野良猫ロック』で『愛のコリーダ』なマダムキラー藤竜也の五人の刑事遊撃捜査班が、洒脱に、軽口叩きつつハードボイルドに過激な事件に立ち向かう、これまた傑作アクションドラマ『大追跡』を間に挟み、78年秋に登場したのが――
道幅いっぱいに並走してくるパトカー大名行列――当時の花形フェアレディZを筆頭に、もう蛇行しちゃっているようなクルマも交えた日産車、約30台――が視聴者のド肝を抜いたオープニングからエンジンは臨界点の、日本のアクション映像作品の一つの頂点、シリーズ第三弾『大都会 PART III』でした。
次回はこの続シリーズ第三弾の音楽を肴にお話します。
次回『大都会 PART III』ご期待ください!
SPECIAL THANKS TO:
南條SOUL BAND WEB SITE
Hullabaloo Official Web Site
「大都会」サウンド・トラック
PREMIUM BOX
TVサントラ, 0座標(演奏)
「大都会PARTII」 MUSIC FILE
TVサントラ
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