脳内i-pod・サウンドトラックコーナー繁忙記
第二十四回
マッドポリスまつり『特命刑事』#02~#06

佐藤 洋笑

年を迎え、老いた親の扶養のことなど考えると、営業的につまらない酒に付き合う機会が増えるばかり。まずい酒に心が蝕まれる日々。この一月半、ロクにCSもみれない鬱屈の日々が続く。

――コレではイカン!!!!!!!!!!!!!!!

と、たまった鬱屈を間違った方向に発散することを避けるため、自主的に上映会“マッポ'80まつり”を開始することを決意する。

気がつけばコンナに録りダメてしまった。如何に再放送とはいえ、テレビは放送時間に家に帰ってみるのが醍醐味なのに……。

DVD-Rをプレーヤーに突っ込めば即座に始まる大戦争。
カポネ団+ピラニア軍団が、アノ“東映”ワールドが
茶の間に殴りこんだ瞬間の感動が蘇える。


『大激闘 マッドポリス'80』改め
『特命刑事』の#2「脱獄」(脚本:柏原寛司、監督:野田幸男)を観る。

先週の#1「海底の黄金」より新メンバーが加わり、凶悪度が薄れたと思われがちだが、いやいやなんの。今回の「脱獄」も、マッドポリス自ら囚人に扮して悪が支配する刑務所に潜入&脱出という痛快な作劇(脚本:柏原寛司氏)に加え、小林稔侍、梅津栄、汐路章ら実に濃い目の囚人達とコワモテの看守・佐藤京一が好演。

クライマックス、梅津がこっそり製造していた黒色火薬が脱出のキーとなるあたり実に柏原節(笑)。しかし、タイプキャスト時代のネンジはいつ見てもいいなあ。


#3「スキャンダル・レディ」(脚本:高田 純、監督:長谷部安春)

『大激闘』時代からタガの外れたガン・アクション演出と、クールに人権を軽視した展開で視聴者のドギモを抜いてきた長谷部安春の演出が飛ばす飛ばす。

当時既に10年落ちはカタいサバンナの防弾仕様というギャグに始まり、ミサイル・ランチャーも駆使した大銃撃戦が富士山の裾野で炸裂。クライマックスは高圧電流のトラップつきの敵本部を催眠ガスで制圧しつつ、ラスボス=ウルトラセブンのイシグロ隊員兼レインボーマンの精神病院院長が逃げ込んだエレベーターにダイナマイトを投擲と、やりたい放題。ただし、やることは派手ながら、路線変更が影響したのか、緊迫感はイマイチ。『大激闘』時代の傑作「スカイライダー大作戦」の頃が懐かしい。


#4「危険海域」(脚本:永原秀一、監督:長谷部安春)

007 私を愛したスパイ アルティメット・エディション海上を舞台に繰り広げられる闇雲な銃撃戦。超音速攻撃機エアーウルフの素体となり、『007/私を愛したスパイ』でロジャー・ムーア運転のロータス・エスプリに撃墜されていたヘリコプターの名機ベル・ジェットレンジャーと船との攻防にはハッキリ言って参りました。相変わらず、やりたい放題。

しかし、それ以上に参ったのが、優作映画好きにはおなじみの「ワケアリ」な女・中島ゆたかの登板。

登場するやいなや、プーンと漂う銀座の香り。リリー・フランキー氏も書かれていましたが、カノジョがオボコい花売り娘などであるはずがなく、今回も全身全霊で陰謀の中心であることをアピール。いやあ、マッドポリスでなくともカノジョを観れば、陰謀の所在をかぎつけるに決まっています。

そんなゆたかと、レギュラー堀川まゆみのエキゾチック美人二人が我らが渡瀬恒彦をめぐって繰り広げる丁々発止と足の引っ張り合い、つぶしあい。そして、裏切り――。

と、見所多数なんですが、今回も前回と同じく、いまひとつシャープさに欠けた演出で、うーん…。

ただ、先刻承知とばかりに裏切りという女のアクセサリーに対処する恒さんは、相変わらず問答無用でカッチョええ。


#5「小さな亡命者」(脚本:宮田 雪、監督:野田幸男)

不良番長 一網打尽地下に眠る核エネルギーの元素、ウラニウムを巡る東西両陣営(!冷戦時代だ)。争いに巻き込まれた超能力少女(!)の軟禁された治外法権である東側某国大使館へのマッドポリスの潜入作戦!一歩間違えば日本政府をも敵に回す覚悟で繰り広げられる大激闘!

――おっと久々に大ブロシキ! 常識を超えたストーリーが売りのマッポ'80の中でも一、二を争うぶっ飛び具合。『特命刑事』と改題して以来のフルスィング。脚本は「ルパン三世」なども手がけた宮田雪。

正直、少女の超能力が特に話の中で活かされなかったり、フロシキを広げた割にはアベレージ止まりといった印象の回でしたが、それでも我が偏愛するアノ東映にあっても異端と呼ばれたバイオレンス&ナンセンスの巨匠・野田幸男大先生の演出は冴えまくり。

一瞬刑事ドラマであることを忘れさせるチープな特撮やミサイル発射の記録フィルムは挿入されるわ、後楽園ゆうえんちで銃撃戦ありのロケやっちまうわ、志賀勝はダッコちゃんかかえてるわ、潜入時には拳銃形のガスバーナーを駆使するわ、野田監督と梅宮辰夫、渡瀬恒彦のもう一つの代表作『不良番長』でボカシ入りフル・ヌードを披露していた盟友・アンヌ隊員ことひし美ゆり子が清楚な母親というムチャな役柄で出てくるわ、もう好きにしてください状態。

しかしなにより、「麻酔弾や!」と志賀勝がショットガンに注射器を装填する場面のチープでキャンプな説得力には白旗ふるしかありません。ここにこそ、野田監督の恐るべき底力があります。

白い牙 VOL.1――本当にペンキで赤く塗っただけの手錠と拳銃を振りかざす女刑事・杉本美樹が無秩序に野郎どもを処刑しまくる『0課の女・赤い手錠』、千葉真一がデューク東郷なら本来敢行するはずのない、二階建てバスの上でのアクロバット・ショーを披露し、狙撃そっちのけで磨きぬかれた空手アクションを見せ付ける『ゴルゴ13・九竜の首』。そして、盟友・藤岡弘、の野獣捜査線を炸裂させまくった「白い牙」や「特捜最前線」の諸作品……。目を閉じれば瞼に浮かぶ野田監督の傑作群。

『大都会』『大追跡』『探偵物語』といったNTV火曜9時の傑作アクションドラマ群の系譜の中に、マッポ'80も存在するのですが、それらの作品にはなかった、独特の“ヤバさ”がマッポ'80にはあります(実際には、『大追跡』も2本撮ってますけど)。それはすなわち、野田監督のセンスであると断言できます。
このふやけた虚飾のまかり通る現代にこそ、野田監督の諸作品はたたきつけられるべきであると、改めて確信いたしました。


#6「黒い狼」(脚本:神波史男、監督:西村 潔)

地獄の黙示録 特別完全版黒尽くめのコスチュームを身にまとったバイカー集団がカービン銃片手に、暴走族のたむろする高速道路、政治家の秘密クラブ、ナウなヤングの集うディスコなどを矢継ぎ早に襲撃。「ワルキューレの騎行」をBGMに大量虐殺事件が続発。

誰からともなく“黒い狼”と呼ばれる殺戮集団を追うマッドポリスに、何故か捜査中止命令が下る。不信を覚えるマッドポリスの前に現れたのは、マッドポリス創設にも関わった警察庁OBにして政界の大物・ドクターマンこと幸田宗丸。

元来ジャパン・マフィアの壊滅を唯一の目的としてきたマッドポリスを越える“狂った世の中から害虫を駆除する秘密警察”として幸田が新たに組織した私設武装自警団!――それこそ“黒い狼”だった。

脅迫まがいのヤリ口で“先輩として敬服するマッドポリス”に、共同戦線を申し入れる“黒い狼”。冷ややかに見つめつつ、怒りに燃えるマッドポリス――!

――ってなワケで、相当オレが盛り上がっていることがあらすじ紹介だけでもコンナに長くなってしまったあたりからもオワカリいただけるでしょうが、『特命刑事』編としてはもちろん、『大激闘』時代を含めても、私的ベスト・エピソードの上位に食い込む傑作。

ダーティハリー2マッポ'80の魅力は、時には悪対悪の対決とさえも思える面にあるのですが、その中でも本作はマッポ'80という番組の基本理念を十分に理解しつつ、そこに揺さぶりをかけるという作劇で、余計に番組の特性を活かしきる優れたものです。もちろん、発想のベースには『ダーティハリー2』があるのでしょう。“手段を選ばず、問答無用で悪を討つ”マッドポリスと、まったく同じお題目を掲げる殺戮軍団との対峙。

狂気をはらんだ集団同士の激突。「金で飼われた"狂った番犬"」とクールに自身を定義し、「思い上がったヤツには生みの親だろうが、飼い主だろうが噛み付く!」と心情を吐露するマッドポリス・キャップ・氷室こと狂犬俳優=渡瀬恒彦の雄姿がたまんねー。

脚本は東映アクションの旗手・神波史男。『0課の女』『女囚さそり』『暴走パニック大激突』……この辺のタイトルでピクピクくる人になら、オレの盛り上がりがわかってもらえるはずです。

もちろん、そうした硬質な作劇だけでなく、志賀勝がついに持ち出す伝家の宝刀・自白剤の初使用や、思いのほか鋭い桜木健一のガン・プレイ、ついに出た堀川まゆみのお色気作戦など荒唐無稽の見所もたっぷり。何より、恒さんとは後年『鉄と鉛』でも名コンビぶりを発揮していた成瀬正演じる“黒い狼”の現場指揮官のクールな殺し屋ぶりが最高です。

過激すぎると世間に怒られて改題したはずのマッポ'80ですが、もう最後へのカウントダウンの時期。開き直ったようなハードアクションぶりに胸が昂ぶるぜ!

演出は洒脱なトーンが売りの東宝ニュー・アクションの旗手・西村潔。

闘えマッドポリス! 撃て! 殺せ! ブチ壊せ!

気がつけば空が紫色に染まっている。
パープル・イン・ピンク。一日の中で、一番好きな時間。
ボチボチ社会復帰しなければならない時間のため、切り上げる。

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2008/07/16/01:03 | トラックバック (0)
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