前田弘二(映画監督)
映画『くりぃむレモン 旅のおわり』について
2月23日~29日まで
テアトル新宿にて公開(28日は休映)。連日、イベントあり。
『くりぃむレモン 旅のおわり』
キヨミジュンBlog「Virgin Quest」
前田 弘二(監督)
1978年種子島生まれ。美容師として三重県で2年半働き退社。その後に自主映画を撮り始める。2005年に監督した作品「部屋」が、ひろしま映像展2005においてグランプリ&演技賞をダブル受賞。2006年に監督した作品「古奈子は男選びが悪い」が第10回水戸短篇映像祭においてグランプリを受賞。2007年3月には「女 ~前田弘二監督特集~」と題して短編集がテアトル新宿にて1週間レイトショー上映された。
近年数々の映画祭でグランプリを受賞し注目を浴びるのが気鋭の若手監督の前田弘二監督だ。07年3月テアトル新宿での特集上映「女 ~前田弘二監督特集~」では一週間の上映期間にも関わらず、1,000人を超える観客動員を記録。その他にも07年には「裸over8」に参加したり、イメージリングス主催の「ガンダーラ映画祭」でも短編作品を発表。「ガンダーラ映画祭」で上映された「遊泳禁止区域」は07年屈指の傑作であった。
その前田監督の初の長編が山下敦弘監督が第一作を撮り、若手監督の登竜門にもなっているマンガ原作のプログラム・ピクチャー「くりいむレモン」の実写シリーズだ。独特の空気感のロングショットと抜群の台詞、意表をつく展開の前田監督ならではの作品世界は変わらずに、今作では恋愛や性を巡る若さゆえの身勝手さ、痛さをあぶり出す演出が出色で、リアルでほろ苦い高校生たちの姿を描ききっている。異母兄妹の恋愛もあるが、メインは長野から修学旅行で東京に来た高校生たちの恋愛を中心とした人間模様。男女の恋愛を描いてきた前田監督らしい内容で見事だ。「天然コケッコー」の修学旅行のシーンの、よりリアル版のようでもある(今作は高校生で「天然コケッコー」は中学生の違いはあるが)。野心的、そして暗闇のスクリーンの中で是非この痛みを体験してほしい「真の青春映画」である。
――今作を撮ることになった経緯は?
前田 今までの短編を観ていただいた方から連絡があったんです。他にもいくつかオリジナルの長編の企画は進めていたのですが中断気味だったので、すぐに撮れるということで今作を撮ることにしました。
――前田監督は今までオリジナルを撮ってきていたので、長編にマンガ原作を選んだのが以外でした。しかも「くりいむレモン」とは。でも、観てみたら見事に前田監督の世界にひきよせた見事な作品になっている。
前田 初長編ということで、マンガ原作でシリーズものの今作を撮るのに確かにいろいろと考えました。ただ、初長編をオリジナルにこだわるよりもまずは一作撮ってみようと思ったんです。「くりいむレモン」って原作を読んで分かったのですが、兄妹の恋愛設定があれば何でもありなんですよ。宇宙に行くものまであるし。
――「13日の金曜日」シリーズでジェイソンが宇宙に行く「ジェイソンX」みたいだ(笑)。 11月始めに前田監督と石井裕也監督と会ったときに、今作を撮る話しは聞いていたので、 11月中旬に山下敦弘監督と飲みの席で話したときに「自分が監督した第一作のシリーズが続いているのは嬉しいなあ。第一作はやりたいことが決して成功した作品ではないし、その後の作品と自分は何も関係ないけど(笑)」と言っていた。
前田 原作がそういうシリーズだから、兄妹の恋愛設定があれば自由にやれるのが今作を撮ってみようと思った大きな理由の一つですね。でも、DVDリリースの日程も先に決まっていて、11月末に4日間で撮影して年内に完成させなければならなかった。もともと劇場公開予定があった作品ではないので、今回のテアトル新宿での上映も短編作品集の「女」の上映ときと同じように自主上映に近いんです。
――主演の女子高生アヤを演じるキヨミジュンがいいですね。
前田 時間もない中でオーディションをした中に彼女がいたんですが、彼女を主演にできたことは今作の成功に大きくつながっていますね。アヤが若さゆえに悩むイメージにあったんです。彼女はAVをやっているんですが、映画好きで演技や表現に意欲的でしたね。
――彼女のブログを見ると、趣味が「映画鑑賞・乗馬・人間観察!」となっていました。
前田 意欲的でしたね。こちらの演出の意図もすぐに理解するし、頭のいい女の子ですね。かなりタイトな日程でも頑張ってくれました。
――兄役は前田作品の常連の宇野(祥平)くんですね。この役に宇野くんを起用するとは大胆だと思いました。「遊泳禁止区域」に続いて「いい男」の役で、儲け役でもありますね。
前田 そうなんですが(笑)、宇野くんの俳優としての可能性を自分は知っているのと、多くの人に宇野くんという俳優を知ってほしいこともありますね。本人も、この役には驚いているようなところがありましたけど。
――スコセッシ&デ・ニーロ、カーペンター&カート・ラッセルみたいに、個人的にも前田監督&宇野くんのコンビは続けてほしいです。そして、鈴木なつみさんも前田監督の常連俳優ですね。いつもハスッパな感じの女性を演じていて、今回もそういう役で、しかもある意味で驚きの女子高生ですが、あまり違和感ないですね。
前田 鈴木さんは普段はマジメなんですけど、そういう役ばかりふってしまいますね(笑)。彼女の佇まいが好きで起用しています。まだあまり出演作もないですが、これから活躍していくと思います。
――最後のキャストを見て知りましたが、吉岡睦雄氏はどこに出ていたんですか?
前田 兄弟の部屋に来るピザの出前の役ですね。帽子もかぶっていたし分かりづらかったかもしれませんね。
――ラブシーンがかなりの長まわしで見応えがありますが、撮影が大変だったのでは?
前田 リハはもちろんしましたが、兄の部屋の設定なので日の差し具合もありますし、ピザを食べだして、何ともいえない雰囲気になってキスからラブシーン、そしてアヤの彼氏が窓から見てしまうまでの流れなので、かなり長かったのですが、少ないテイク数で撮ることが出来ました。
――ラストシーンの渋谷の雑踏シーンも余韻があって素晴らしかったです。早朝に撮ったと思いますが、絶妙のタイミングで信号が変わったり、人が通りかかったりします。あれは偶然ですか?
前田 偶然ですね。3テイクぐらい撮りました。
――あのシーンでアヤと彼氏が泣いているのは、あまり演技経験がない二人には大変だったのでは?
前田 悪くはなかったのですが、彼氏役の榊原くんの泣きが何か物足りなくて、もう一回撮った最後のテイクを使っていますね。
――前田監督と、いろいろな映画の話しを以前にしたときに、ホン・サンス、森崎東、田中登監督などの話しをしましたが、他の監督で好きな作品はありますか?
前田 エリック・ロメールの70年の作品「クレールの膝」は好きですね。10代の少女の膝に一目惚れした、結婚間近の男性を描いているんですけど、ラストにその欲望が達成されると「膝なのに」と分かっていても感動するんです(笑)。あれはすごいですね。
――確かに「クレールの膝」はそうですね(笑)。ウッディ・アレンの話しもしたことがありましたね。そのときも前田監督が言っていたのが「いつも人間を描きたい」ということでした。
前田 そのことはこだわっていきたいですし、普段気付かないような切り口で人間を描くことこそ映画だと思うんです。今の日本映画には、そういう映画が少なくなっているのは残念です。日本映画で面白い部類の映画に「ゲーム映画」と呼んでいるものがあるのですが、人間を描かずに、人物をコマのように扱う作品がありますが、そういう作品だけは撮らないと思います。
――11月に石井裕也監督と共に会ったときに「これからたくさん長編を撮っていく」と言っていたので楽しみにしています。
前田 本当にたくさん撮っていくので、よろしくお願いします。
取材/文:わたなべ りんたろう
くりぃむレモン 旅のおわり 2008年 日本
監督:前田弘ニ 脚本:高田亮 音楽:タルイタカヨシ 撮影:深谷敦彦 美術:おおぎゆたか
出演:キヨミジュン,榊原順,鈴木なつみ,宇野祥平
キヨミジュンBlog「Virgin Quest」
<ストーリー>
長野から修学旅行で東京へやって来た高校生たち。自由行動の時間、東京観光を楽しむ同級生たちや、ホテルに誘う彼氏のノブから離れ一人別行動をとるアヤ。彼女には東京での目的があった。それは、両親の離婚で離ればなれになった義兄に会うこと。ノブのことは好きだが、どうしても義兄のことを考えてしまう自分の気持ちを、会って確かめたかったのだ。彼女は義兄の元へと向かう。それが、悲しい旅の始まりになるとも知らずに……。
2月23日~29日までテアトル新宿にて公開(28日は休映)。
連日、イベントあり。
くりいむレモン 旅のおわり
DVD発売:2008/03/28
教えてティーチャー
キヨミジュン
おすすめ度:
エリック・ロメール・コレクション クレールの膝
天然コケッコー特別版
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主なキャスト / スタッフ
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